第21章
俺の部屋は、エリシア、セシリア、リィンの三人が入れ代わり立ち代わり、いや、最近では三人同時に押しかけてくるせいで、この狭い空間は、むせ返るような美少女たちの香りと、ピリピリとした緊張感で満ち満ちていた。
「蒼真の隣は、最初に仲間になった私の席よ」
「いいえ、神の教えによれば、最も魂の清らかな者が、聖なる方の右側に座るべきです」
「なっ……! 私は、あなたに剣を教えた師匠のようなものよ! 当然、私が正面に座る権利があるわ!」
ぎゃあぎゃあと繰り広げられる、レベルの低い言い争い。
その様子を、ベッドの上で我が物顔で寝転がりながら、ルナが口に何かをかじり、くすくすと笑って眺めている。
地獄か、ここは。
俺が、このカオスな空間からどうやって逃げ出すかばかり考えていた、その時だった。
しびれを切らしたエリシアが、バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。
「もう、じれったいわね! いつまでもこんな牽制し合ってても、らちが明かないじゃない!」
彼女は、燃えるような瞳で、セシリアとリィンを、そして、俺を順番に睨みつける。
「はっきりさせましょう。私、蒼真のことが好きよ! あなたの、その弱くて、情けなくて、でも、誰よりも優しいところが好き! 私が、あなたの初めての人になってあげる!」
エリシアの、あまりにも大胆な告白。
それに触発されたように、セシリアも、すっと立ち上がった。
「私も……私も、蒼真さんを、心から愛しています! あなたの魂の輝きに触れて、私は本当の愛を知りました! どうか、私のすべてを受け取ってください!」
最後に、顔を真っ赤にして俯いていたリィンが、絞り出すような声で叫んだ。
「わ、私だって……! あなたのことなんて、ただのヘタレだと思ってたけど……! いつの間にか、放っておけなくなったのよ! 責任、取りなさいよね、この朴念仁!」
三方向からの、同時告白。
エリシアの情熱的な愛。セシリアの献身的な愛。リィンの不器用な愛。
質量の違う三つの愛情が、一斉に俺に叩きつけられる。
普通なら、男としてこれ以上の幸せはないのかもしれない。
だが、俺の貧弱なキャパシティは、その情報量を処理できずに、完全にショートした。
「え、あ、その、みんな、そんな……俺なんかのために……」
嬉しいとか、困るとか、そういう感情の前に、ただ、どうしようもないパニックが俺を襲う。
三人の、あまりにも真剣で、あまりにも純粋な眼差し。
その強すぎる想いが、引き金だった。
――ズキンッ!
これまでとは比較にならない、脳髄を根こそぎ揺さぶるような、強烈な衝撃。
目の前に立つ、三人の美少女の瞳が、一斉に、淡いピンク色の、妖しい光を宿した。
「「「あぁ……ご主人様……」」」
三人の声が、奇妙なハーモニーを奏でる。
表情から、それぞれの個性が抜け落ち、代わりに、ただひたすらに、俺への服従と、恍惚とした喜悦だけが浮かび上がっていた。
「蒼真様の……」
「……性奴隷として……」
「……お役に、立ちたいです……」
途切れ途切れの言葉を紡ぎながら、三人は、まるで示し合わせたかのように、ゆっくりと、自分の服に手をかけた。
エリシアは、恍惚の笑みを浮かべ、大胆にドレスの胸元をはだけていく。
セシリアは、神聖な儀式に臨むかのように、敬虔な手つきでシスター服のボタンを外していく。
リィンは、恥じらいで頬を染めながらも、その瞳は、これから始まる屈辱への期待に、爛々と輝いていた。
「や、やめろ……! みんな、やめてくれ!」
俺の悲痛な叫びも、今の彼女たちには届かない。
「これは、私たちの意志です、ご主人様」
「どうぞ、私たちを、お好きになさってください」
「どんな命令でも、喜んで……」
三者三様の、狂おしいほどの誘惑。
このままでは、この狭いアパートの一室が、とんでもなく背徳的な空間になってしまう!
俺が、絶望に打ちひしがれていた、その時だった。
「あらあら。ついに本格的に発動したのね。ハーレムルート、大安売りじゃない」
ルナが興味深そうにその光景を眺めていた。
「ルナ! どういうことだ、これは!? みんな、おかしいぞ!」
「おかしいのは、あなたの認識の方よ」
彼女は、呆れたようにため息をついた。
「その力は、ただ無理やり従わせるだけじゃないの。対象が、心のずーっと奥の方に隠している、一番素直な願望を、増幅させて、表面化させる力なのよ」
「……願望?」
「そう。つまりね」
ルナは、残酷なほど無邪気な笑みを浮かべた。
「この子たちは――最初から、心のどこかで、あなたの『奴隷』になりたかったってこと。あなたの前で、すべてを曝け出して、支配されたいって、そう願っていたのよ。可愛いわね」
その言葉は、俺にとって、どんな魔法よりも恐ろしい真実だった。
俺は、彼女たちの心を、無理やり捻じ曲げているんじゃなかった。
俺は、ただ、彼女たちが元々持っていた、鍵のかかった扉を、開けてしまっただけだというのか。
俺は、必死の思いで、叫んだ。
「も、元に戻れ! みんな、普通にしてくれ!」
俺の絶叫に、三人の身体が、ぴくりと震える。
ゆっくりと、その瞳から妖しい光が消え、それぞれの理性が戻ってきた。
三人は、自分たちが服をはだけさせ、俺ににじり寄っていたという現状を認識する。
しかし、誰も悲鳴を上げなかった。
ただ、顔を真っ赤にして、呆然と立ち尽くしている。
そして、お互いの顔を見合わせ、自分たちが、まったく同じ欲望を抱いていたことを、悟ってしまった。
しばらく続いた、針が落ちる音すら聞こえそうな沈黙。
それを破ったのは、エリシアの、震える声だった。
「……さっきの気持ち……嘘じゃ、なかったわ」
彼女は、複雑な表情で、俺を見つめる。
「私たち……本当は、心のどこかで、あなたに全てを委ねて、支配されたかったのかもしれない……」
セシリアとリィンも、それを否定することなく、ただ、こくりと頷いた。
もう、後戻りはできない。
俺たちの、そして、彼女たちの関係は、この日、この瞬間、決定的に、そして、不可逆的に変わってしまったのだ。
俺が、そのあまりにも重い真実を前に、ただ途方に暮れていると、ルナが、俺の耳元で、楽しそうに囁いた。
「いよいよ、面白くなってきたわね、ご主人様?」
その声は、これから始まる、もっと深く、もっと甘い地獄の、始まりの合図のように聞こえた。




