第11章
パーティ結成の翌日。
俺たちは、王都の巨大な正門の前に立っていた。
ギルドが手配してくれたという、頑丈そうな馬車が、俺たちの最初の冒険の始まりを告げている。
俺の隣で、三人の美少女たちが、それぞれ冒険者らしい装いに身を包んでいた。
エリシアは、動きやすさを重視したのだろう、丈の短いローブを羽織っている。
その下には、彼女の爆乳とくびれのラインをくっきりと浮かび上がらせる、体にフィットした黒い革のチュニック。
太ももには、魔導書を入れるためのポーチが巻かれていて、絶対領域がやけに眩しい。
セシリアは、いつものシスター服だが、裾が少し短く、足さばきの良いものになっている。
胸元は相変わらず慎み深く隠されているが、その布の下に眠るポテンシャルを、俺はもう知っている。
リィンは軽鎧だが、今日はその下に黒いインナーをきっちりと着込んでいた。
……少しだけ、残念に思った俺は、もう手遅れかもしれない。
「さあ、乗りなさい!」
エリシアに促され、俺たちは馬車に乗り込んだ。
御者が手綱を振るうと、ガタン、と大きな揺れと共に、馬車はゆっくりと走り出す。
「……」
「……」
「……」
狭い馬車の中、気まずい沈黙が流れる。
俺を挟んで、右にエリシア、左にセシリア。
そして、向かいの席には、腕を組んでそっぽを向いているリィン。
なんだこの空間。
美少女に囲まれてるのに、針の筵感が半端ない。
「……ねえ、このままじゃ締まらないし、改めて自己紹介しない?」
沈黙を破ったのはエリシアだった。
「じゃあ、私から。エリシア・フレイムハート。ちょーっとだけ魔法が得意な、宮廷魔法使いよ。よろしくね」
彼女は、俺の肩にこつん、と頭を乗せながら、ウインクを飛ばしてきた。
近い! 香水と、彼女自身の甘い匂いが混じって、クラクラする!
「わ、私は、セシリア・ホワイトクロスと申します。光の教会に仕える、まだまだ未熟なシスター見習いです。これからよろしくお願いしますね」
セシリアは、深々と頭を下げた。
その拍子に、銀色の髪がさらりと流れ、俺の膝に触れる。
その感触だけで、身体がビクンと反応してしまった。
「……リィン・クリムゾンブレードよ。王都騎士団に……籍を置いていたわ。足を引っ張ったら、容赦しないから」
リィンは、ツン、と澄ました顔で言う。
だが、その耳がほんのり赤いことに、俺は気づいてしまった。
三人の視線が、一斉に俺に集まる。
俺の番か……。
どうしよう。俺には、誇れるものなんて何もない。
こうなったら、ヤケだ。
本当のことを言って、ドン引きされた方が、むしろ楽かもしれない。
「えーっと……俺、楪 蒼真です。出身は、その……異世界、っていうか……『日本』っていう国で……」
俺の告白に、三人はきょとんとした顔で顔を見合わせる。
「にほん? 聞いたことない地名ね」
「東方の、とても遠い国なのでしょうか?」
「変わった名前の国もあるものね」
……あれ? 反応、薄くね?
どうやら、俺の異世界転生カミングアウトは、「なんかよく分からん田舎から出てきた奴」程度にしか認識されなかったらしい。
結局、俺は「えーっと、特に何も……ないです。無職です」と、情けない自己紹介を終えるしかなかった。
その時だった。
ガタンッ!!
馬車が、道端の大きな石でも乗り上げたのだろう。
凄まじい衝撃と共に、車体が大きく傾いた。
「「「きゃああっ!?」」」
俺たちは、まるで洗濯機の中の洗濯物みたいに、一箇所に固められた。
そして、俺は気づく。
俺の膝の上に、エリシアが倒れ込んできている。
顔面に、彼女の爆乳がむにゅぅうううっと押し付けられ、視界が真っ白な柔らかさに覆われる。
右腕には、セシリアの身体がぴったりと密着している。
シスター服越しでも分かる、あの隠れ巨乳の、控えめながらも確かな弾力が、俺の二の腕を優しく圧迫する。
そして、左の太ももには、リィンの鎧に守られた、硬くて、それでいてしなやかな太ももが、ぐりぐりと押し付けられていた。
甘い花の香り、清らかな石鹸の香り、そして爽やかな柑橘系の香り。
三種類の、極上すぎる匂いが俺の鼻腔を占領し、右からも左からも、前からものしかかってくる、柔らかさ、温かさ、そして硬さのハーモニー。
(……死ぬ。俺、幸せすぎて死ぬかもしれない……)
俺の理性が、昇天しかけた、その時。
「い、今の揺れは……!?」
「だ、大丈夫ですか、皆さん!」
我に返った彼女たちが、慌てて体勢を立て直す。
俺は、この天国のような状況に感謝するよりも先に、口を開いていた。
「エリシアさん、頭打ってないか? セシリアさん、足は大丈夫? リィンさんも、変なとこ捻ってないか?」
俺が一人一人の顔を見て安否を確認すると、三人は一瞬だけ驚いたように目を見開き、そして、ふいっと顔を赤らめてそっぽを向いた。
「だ、大丈夫よ!」
「は、はい、わ、私は平気です!」
「こ、これくらい、何ともないわよ!」
……なんだか、馬車の中の空気が、さっきより甘くなったような気がする。
そんなドキドキの道中を経て、日が傾き始めた頃。
御者が、馬車の窓から声をかけた。
「見えてきましたぜ。あれが……『嘆きの古代遺跡』です」
俺たちは、窓の外に目をやった。
夕陽に照らされ、地平線の向こうに浮かび上がる、巨大な遺跡のシルエット。
天を突き刺すかのように歪に伸びた塔、崩れかけた城壁……その全体が、まるで巨大な生物の骸のようだ。
遺跡の周囲には、不気味な紫色の靄が、ゆらゆらと漂っている。
さっきまでのラブコメな雰囲気は、一瞬で吹き飛んだ。
ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が、やけに大きく聞こえる。
俺たちの最初の冒険は、とんでもなく厄介なものになりそうだ。
その予感が、肌をピリピリと刺していた。




