第10章
あれから一週間。
俺の異世界生活は、相変わらず進展のないままだった。
日雇いバイトで稼いだわずかな金で宿代を払い、残った銅貨でギルドの隅の席に陣取り、一番安い水みたいなエールをちびちびと飲む。
それが、今の俺にできる唯一の贅沢だ。
(エリシアさん、セシリアさん、リィンさん……)
脳裏に、個性的すぎる三人の美少女の顔が代わる代わる浮かんでくる。
炎のように情熱的で、積極的な魔法使い。
天使のように純真で、聖母のようなシスター見習い。
そして、気高くそれでいて可愛いところもあるツンデレ女騎士。
……俺のキャパシティは、とっくに限界を超えている。
今はただ、誰にも会わずに、このエールの薄さを噛みしめていたい……。
「あら、ソウマじゃない! こんなところで一人なんて、寂しい男ね」
その平穏は、聞き覚えのある勝ち気な声によって、いとも簡単に打ち破られた。
顔を上げると、そこには腕を組んで、悪戯っぽく微笑むエリシアがいた。
今日の彼女は、胸元がざっくりと開いた深紅のドレスという、いつも以上に攻撃的な服装だ。
その豊かなバストが、俺の視線を奪っていく。
「偶然ね。私も、ちょうど休憩しようと思ってたところなの」
そう言って、彼女は俺の向かいの席に、どかりと腰を下ろした。
「そ、そうなんですね……奇遇ですね……」
「そうよ、奇遇。……あなた、もしかして私のこと待ってたのかしら?」
「待ってません!」
俺が即答した、その時だった。
「蒼真さん! ここにいらっしゃったのですね!」
今度は、鈴を転がすような清らかな声。
見ると、純白のシスター服を身にまとったセシリアが、ぱたぱたと駆け寄ってきた。
「昨夜、『光は酒場に満ちる』とのお告げがあったのです! これは、神様の導きに違いありません!」
いや、それってたぶん、ただの酒場の賑わいのことだと思うんですけど!?
セシリアは、俺の隣にちょこんと座ると、「ささ、昨日私が焼いた祝福のクッキーです。どうぞ召し上がってください」と、バスケットからクッキーを取り出した。
エリシアが、ピクリと眉を動かす。
「へぇ、手作りクッキーですって。気が利くのねぇ?」
「はい! 蒼真さんの健康を祈って、聖水を練り込みました!」
火花が、散っている。ような気がする。
俺がその板挟みで胃をキリキリさせていると、さらに、ダメ押しの一撃がやってきた。
「……ふん。こんな騒がしいところにいたのね」
声のした方を見ると、腕を組み、不機嫌そうな顔で壁に寄りかかっているリィンの姿があった。
今日は軽装の鎧ではなく、動きやすそうな白いブラウスと黒いパンツという私服姿だ。
その格好は、彼女の引き締まった身体のラインを強調しており、特に、キュッと上がったお尻の形が……ヤバい。
「リ、リィンさんまで……」
「べ、別にあなたを探していたわけじゃないからね! ギルドに用事があっただけよ! たまたま、本当にたまたま、あなたの姿が目に入っただけなんだから!」
……典型的なツンデレのセリフ、ありがとうございます。
こうして、俺のテーブルの周りには、赤髪の爆乳魔法使い、銀髪の隠れ巨乳シスター、金髪のツンデレ女騎士という、属性大渋滞の空間が出来上がってしまった。
周囲の冒険者たちが「おい、見ろよ、あの兄ちゃん……」「なんだあのハーレム……」「爆発しろ!」とヒソヒソ話しているのが聞こえる。
やめてくれ、俺のライフはもうゼロよ!
「あらあら、蒼真さん。いつの間に、こんなに可愛い子たちと仲良くなったんですか?」
追い打ちをかけるように、受付のミレイさんがお盆を持ってやってきた。
その胸元は、今日も元気にGカップの胸が揺れている。
「モテモテですねぇ」
「ち、違います! これは、その……」
ミレイさんのからかうような視線に、俺はもうしどろもどろだ。
エリシアが、俺の肩にぐっと腕を回す。
セシリアが、俺の袖をきゅっと掴む。
リィンが、咳払いをしながらこちらをチラチラ見ている。
地獄か、ここは。
いや、男にとっては天国なのか?
その、一触即発の空気を破ったのは、エリシアの一言だった。
「……ねえ、思ったんだけど。私たち、こうしてソウマを取り合うより、もっと建設的な方法があるんじゃないかしら?」
「と、言いますと?」とセシリア。
「つまり、こういうことよ。私たち四人でパーティを組めば、万事解決じゃない?」
その提案に、セシリアは「まあ! それは素晴らしい考えですわ!」と瞳を輝かせ、リィンも「……まあ、素性の知れない連中と組むよりは、マシかもしれないわね」と、まんざらでもない様子だ。
三人の視線が、一斉に俺に突き刺さる。
「い、いや、無理です! 絶対に無理!」
俺は全力で首を横に振った。
「俺なんかがいても、足手まといになるだけです! 弱いし、すぐ逃げるし、何の役にも立ちませんから!」
俺の、心からの自己評価。
だが、その言葉は、彼女たちには全く違う意味で届いてしまったらしい。
「何言ってるのよ! あなたは、あの炎の中から私を助け出してくれたじゃない!」
「そんなことありません! 蒼真さんは、誰よりも深い信仰心と、いざという時の勇気をお持ちです!」
「そうよ! あなたの『戦略的撤退』の判断力は、並の騎士以上だわ! 私が保証する!」
三者三様の、超絶ポジティブな勘違い。
彼女たちの、あまりにも真剣で、力強い眼差しに、俺の「無理です」という言葉は、あっけなくかき消されてしまった。
こうして、俺の意思とはまったく無関係に、めちゃくちゃ美少女だらけのパーティが、ここに結成されてしまったのだった。
そこにミレイさんが笑顔でこう告げる。
「ちょうどよかった。皆さんに古代遺跡の調査をお願いしたいです」




