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鏡の守り人  作者: 雨替流
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忍びへの道

 四人はしばらく往来を行く人々を眺め、そして町を見て歩いた。


「あんましきょろきょろすんなよ、特に弥介」

「わがったよ」 


 やがて町外れまで来れば、水車小屋で作業をする人の姿があったが、四人の姿を見れば地獄に仏と言わんばかりの表情で声を掛けてきたのであった。


「おぉぉい、おめえら手を貸してくれ」

「え?」

「銭っこ払うからよ……あ! いででで!」

「今行く!」


 信用できるか否かなど考える事も無く行動に出たのは、その人が困っていると感じたからに他ならない。四人は水車小屋へと行けば水車を止めようと縄を引っ張る男を手伝った。


「しっかり引っ張っててな、お! おめえら中々力あるじゃねえか」

「うん」


 褒められ少し嬉しい気持ちもあった、それ故に油断が生じたのである。小屋の裏から、もう一人の男が現れたのだが、どう見ても悪党でしかない、にやにやと四人を眺めみれば、縄を手に近づいて来たのである。


「四人か、良い銭になるな」

「そうだな」

「騙された! にげろ! 彦治、小平太を頼む」


 竹は自分が囮となり三人を走らせたのである。


「お、すばしこいじゃあねえか」

「おいおい、おめえら逃げればこいつの命はねえぞ」

「良いから逃げろ!」


 無論、竹を置いて逃げる訳もない。三人は警戒しながらも様子を伺っていた。


「大声なんか出して見ろ、めった刺しにすっからな」

「ちくしょう!」

「彦治、良いから逃げろ!」


 走り寄った男に弥介が捕まれば彦治は小平太を離れさせ、その場へと走った。中々に腰の入った蹴りを入れたのだが、所詮は十二歳の体重である、思い切り張り倒されればその場に伏したのであった。


「彦治!」


 しかし、伏した彦治の目には闘志が宿っていた。己の拳より少し大きな石を手にすると、後方へ回転して立ち上がれば弥介を捕まえている男の背中に飛び掛かり、握りしめた石で頭部を強打したのである。


「うっ!」

「弥介逃げろ!」


 堪らず頭部を押さえて膝をついた男の顔面に、もう一発入れた彦治の表情は激しかった。前歯は折れ鼻の骨は砕けたようだ。驚く程に血が滴り落ち、男が戦意を喪失した事を知ると、彦治は竹を捕まえている男の元へと向かった。


「竹を離せ!」

「このくそがきが!」


 あっさりと竹が解放されたのは、何も興奮した彦治に怯んだ訳では無い。男は懐へと手を入れれば短刀を抜いたのであった。流石の彦治もその衝撃に足を止めたのである。


「おめえの事は許さねえかんな」


 彦治を殺そうとしているのは明白であった、故に竹は男の前に割って入ると腰を掴み阻んだのである。


「彦治! 早く逃げろ!」

「竹!」

「良いから早く!」

「邪魔だ!」


 男の目つきが変わった瞬間であった、竹の背中には短刀が突き刺さったのである。


「ぐっ!」

「竹ぇぇ! ちくしょう!」


 それでも手を離さなかった竹の背中には、二度三度と繰り返し刺さったのであった。


「彦治……皆を連れて……にげろ……こんなところで……おとうと……おかあに……やくそく……したんだ……はやく……はや……く」


 そう言いながら竹の膝が崩れていけば、何かが疾風の如く小平太の脇を掠める様に通り過ぎたのであった。


「躊躇なく子供を殺めるとは人に非ず」

「なんだおめえ!」

「黙れ」


 鈍い音と共に男の顔があらぬ方を向けば、その場に絶命した事は明白であった。助けに入ってくれた男は、竹の息が無い事を知ると、目を閉じさせ手を合わせた。


「自らの命と引き換えに弟たちを守ったか、立派な兄だな」


 そう言いつつ振り返った顔を見れば、それは少し前に声を掛けてきたあの旅人であった。


「あ! さっきの人だ!」

「間に合わなかった許せ」

「いえ……助けてくれてありがとう」


 顔面を押さえて蹲る男の首も折ると、頭部や顔面の傷を見ていた。


「この者共人さらいだ」

「うん……騙されたんだ」

「そうか、ところでこれは誰が?」

「お、おいらが」

「そうか勇敢だな」

「でも、その所為で竹が……竹が……」


 男は彦治の肩を優しく叩いた。


「決してお前の所為ではない、自分を責めるな。お前が一人の力を削いだからこそ、皆こうして無事でいる。大人を相手に大したものだ」

「……うん」

「ところでだが、仕事を探すのなら今度こそ俺を頼らないか?」

「え?」

「立ち姿と動きで、その者の素質と言うものが計れる。お前たちは稀に見る優れた身体能力を持っておるぞ」


 竹が言っていたことが本当であった様だ。三人は互いに顔を見合わせれば、再び男の話を聞いた。


「その素質活かすのであれば俺と同じく忍びに。性に合わないと思うのならば猟師でも農夫でも良い。此処より大分歩いた山深くに俺の郷がある、食うには困らぬぞ」

「しのびって何?」

「武家や大名に……偉い人に雇われ、姿を忍ばせて働く者、間ではこのような悪党退治もするがな」


 男の話に彦治の顔は曇り、小平太も何か普通ではないと感じていた。


「……人……殺すの?」

「悪党を生かしておけば不幸になる人間が増えるだけ、ならばこの世には必要ない」

「……そっか」

「今の世、弱き者は不幸となる、しかし強ければ如何様にも生きられようぞ」

「おいらたちも強く成れるの?」

「修行を生き抜き術と技を極めれば、めっぽう強く、素早く成れる」

「わぁ!」


 姿を忍ばせて何かの仕事をするようだが、それは恐らく死と向き合う事となるのは想像ができた。しかし、三人はめっぽう強く、素早いという言葉に計り知れない魅力を感じていたのである。


「言っておくが、修行は死ぬほど辛い事もあるし、実際に死ぬ者も居る、覚悟があるのなら修行をしてみるが良いぞ、もし性に合わないのなら、さっきも言った通り普通の生き方もある」

「やりたい」


 三人は口を揃えて返答をしていた。


「なら向かおう」

「うん」

「俺の名は与助だ」


 三人も其々に名前を言えば、さっそく与助の郷へ向けて歩き始めた。しばらく歩けば日が暮れる頃に、新たな男と合流した。年の頃は与助よりも若く明るい表情である、その男は不思議そうに三人を見ていた。


「与助さん、この子たちは?」

「背中の子は死んでしまったが、忍びの素質がある旅の子だ。修行をさせる事にした」

「ほう、与助さんの目に止まるとは大したもんだな」

「そうなの?」

「あぁ、郷では様が付く程に優れた忍びだ、まぁ、俺もそうだが」

「なんで様が付くの?」

「めっぽう強くてめっぽう素早いからだ」

「ところで徳蔵、この子たちの修行お前に任せる」

「ちっ! 予感が当たりやがった」


 話を聞けば忍びには幻と呼ばれる達人が居り、与助を最高位として、この徳蔵ともう一人、隼人と言う人物が居る様だ。間もなく闇の向こうに薄っすらと郷の明かりが見えてきた所である。

























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