142・特注品
「ユカ......じゃない、東城さん。言い回しなく単刀直入に聞くけど、俺に何か頼み事があるのでは?」
これ以上ユカリとの腹の探り合いは確実にこちらが不利だと悟り、俺は意を決してユカリにそう訊ねる。
すると、
「......何故そうお思いで?」
笑顔のままでユカリの眉がピクリと動く。
「そ、それはですね......」
お前の思考や行動パターンは全部お見通しだからだよぉぉぉおおっ!!
......とは言えず。
「だ、だってこれ、かなりのレア物じゃないですか。お礼として貰うには少々対価が大きいというか―――」
「――――ほう。優子の命はそんなオモチャ以下だと言いたいのですか?」
「はひぃぃいいぃいい!?」
ブリザァァァァアアドッ!?!?
身が凍る様な瞳でユカリが俺をジロリと睨んでくる。
「す、すす、すいません!口が過ぎました!!た、対価として十分、いいえ!まだ足りないかもしれませんっ!!」
ユカリの怒りを買った奴の末路がどうなるかを知っているので、俺は速攻でユカリに謝罪した。
「そ、そんな必死な形相で謝ってもらわなくても.......」
サクヤの速攻謝罪に、ユカリが少し困惑する。
「それに光野様の仰る通り、お頼みしたい事がある事は事実ですし......」
やはりかぁぁあっ!
「そ、それで俺に頼みたいというのは一体?」
俺は録な事だったら即座に断るぞと身構える。
「じ、実は.......」
ユカリは近く四大貴族主催のイベントがあり、そこで行われる試合の事を話す。
「やっぱり録な事じゃなかったぁぁぁぁぁああっ!!」
と、心で叫声するが、
ユカリに付け入る隙を与えると手痛い目に合うのは絶対に間違いないので、俺は冷静を装って話を続ける。
「な、なるほど。その試合の選手として俺をスカウトしたい......そういう事ですか?」
「はい。それでどうでしょうか?勿論それ相応のお礼はたっぷりと弾みますけど!」
う~ん、試合か。
優子ちゃん経由で俺の事は知っているだろうから、弱いから無理という言い訳は出来ないだろうし。
それに例え知らなくても、こいつが対峙した相手の力量に気付かない訳がない。
だけど俺は口が酸っぱくなるほど言ったが、しばらくの間戦いから身を引きたいんだよねぇ。
それに四大貴族ってあれだよな。
この間の小鉄っておっさんが言っていたあれの事だよな?
だとしたら、そんなエリート共の見世物になるだなんて真っ平ゴメンだし、貴族と呼ばれる連中ともなるべく関わりたくない。
俺はあっちの世界の貴族どもに巻き込まれた、あれこれそれの下らないプライド争いを思い出し、苛つく表情へと変わる。
......ってな訳で、
「す、すいません東城さん。俺には荷が重そうな頼みごとみたいです。ですので大変申し訳ないんですが、その話お断りさせていただき――――」
「―――もし、お受けしてくださったら報酬のひとつとして、これを進呈致しますと申してもですか?」
ユカリが指をパチンと鳴らすとメイド服を着た金髪美女がスッと現れ、ユカリに豪華な大きい箱を手渡した。
そしてユカリが豪華な箱をガチャリと開き、箱の中身を俺に見せる。
......ん?
あ、あれはゲーセン景品の愛天使アイナースのフィギュアか?
あのフィギュアが報酬の品?
う~ん、確かにあのフィギュアは箱の形が特殊で、キャッチが中々難しいとされている景品で、そこそこのプレミアが付いている。
付いてはいるが、しかしお金を少し頑張れば手に入るには入る。
なので正直、さっきの優子ちゃんを助けたお礼として頂いた、この雑誌景品のアクリルスタンドの方がレア度は遥かに上だ。
俺は先程貰ったアクリルスタンドの入っている紙袋を見る。
そういう訳で悪いんだけど、あれが報酬と言われてもやる気は1ミリたりも起きはし...な......い―――――――んんんっ!?
い、いや違う、違うぞっ!?
あ、あのフィギュア!?
見た目はゲーセン景品のフィギュアだが、しかしオーラというか、そう完成度が全く違う!!?
「な、なぁ。そのフィギュア、見た目はゲーセン景品のフィギュアと一緒だけど作りが全然違います......よね?」
「うふふ。流石は光野様ですわ。良くお気付きになられましたわね♪このフィギュア、わたくしが特別に作って頂いた特注品ですのよ!」
「と、特別に作って頂いた特注品?」
「はい。勿論ファンアートとか非公式とかじゃなく、ちゃんと公式に発注した代物ですわよ!」
ユカリはそう言った後、フィギュアの箱に記載されてる公式マークをサクヤに見せる。
「マ、マジじゃん!?公式マークがついてるじゃん!?......って、ちょい待って!?そのフィギュアの造形師欄に記載されているその人物は!?も、もも、もしかして、あの伝説の造形師『アクア・ワルキューレ』ではぁぁぁあっ!?」
「ほほう、そこにもお気付きになられましたか。貴方への報酬です。ならば妥協等は一切しない最高の報酬を貴方に贈りたいではありませんか!」
ユカリはフィギュアの説明を終えると「どうです?これを見てもお断りになられますか?」という表情でニコリと微笑む。




