122・逃げたというか、退治した...みたいな?
――その頃――
「ゼェ...ゼェ...ま、まだ着かないの?佐紀、綾香?」
「ハア...ハア......も、もうちょい先かな?」
「あ、あの曲がり角を右に入って直進した先...そ、そこにブラックコボルトが現れたんだよ!」
「あのT字路の右か......」
成美達がブラックコボルトが現れたという場所に向かって移動していた。
「ね、ねえ。佐紀、な、成美。あ、あの曲がり角を曲がる前にちょこっとだけ休憩しない?ぜ、全力で逃げ走ったせいで、あ、足が痛くてさ......」
逃げる際に全力で走ったせいで疲れと疼きで痛い足を手でさすりながら、成美と佐紀に綾香が休憩を訴える。
が、
「んなもん我慢しなさいっ!優子の身にもしもの事があったらどうすんのよっ!そうなる前にさっきいた場所に急いで辿り着かないといけないでしょっ!!」
佐紀から優子の一大事に休憩などしている暇はないと、たしなめられる。
「そ、そうだった。わたしが間違っていたよ、佐紀!うりゃっ!よし!足は痛むけど、改めて優子の所に急ごうか!」
佐紀の言葉に自分が間違いっていたと綾香は反省すると、痛い足を手でパンと強く叩いて気合いを入れる。
そして成美達はT字路を右側に曲がり、直進の通路を駆けて行く。
それからしばらく直進を走っていると、
「.........あ!?何、あれ!?みんな、ストップ!」
成美が急に足を止め、佐紀と綾香の前に立つ。
「ちょっと、成美!どうしたのよ、いきなり目の前に立ってさ!?」
「ほら!あ、あれを見てよ!佐紀、綾香!あの奥の通路に何かいるよ!?」
「「えっ!?」」
成美の指差す方向に佐紀と綾香が目線を移すと、そこに成美が言うように黒い何がいる事に気付く。
「人...影っぽいね?」
「ま、まさかブラックコボルトなんじゃっ!?」
「そ、そんな!?あいつがブラックコボルトだったら、優子の奴は!?」
「と、とにかく、戦闘の準備をっ!」
人らしき黒い影がブラックコボルトの可能性を考えた成美達は、慌てて武器を手に取り身を構える。
が、
「おお~~い!もしかしてそこにいるのは成美なのかぁ~~~?」
目の前の人らしき黒い影がこっちに向けて声を掛けてきた。
「うえ!?ああぁぁ!お、お兄ちゃんっ!?」
「そ、それに優子も......いるよっ!?」
「うおおお!優子~~~っ!!」
人らしき黒い者が自分のお兄ちゃんこと、朔夜だと気付いた成美は、佐紀と綾香と共に朔夜のいる所へ早足で駆け寄って行く。
「ゆ、優子~!無事だったんだねぇ!本当に無事...だった...ううぅ......ぐず」
「良かった...ほ、本当に良かったよぉ...ひく...ぐず......ゴメンね、私がバカなクソ野郎を連れて来たばっかりに...あんたを...危険......な目に会わせ......ちゃって...ホントゴメンね......ぐすん......」
「わ、私も...心配したん...だから...ね!優子...が死んじゃったらって思うと、ひく......ずぐぅ....うわあ~~~~~んっ!!」
心配から解放された成美と佐紀と綾香の二人が、安堵の涙で頬を濡らす。
「そ、それよりも優子!よくあのブラックコボルトから無事に逃げ出す事が出来たねっ!?」
「もしかして成美のお兄さんが上手い事、ブラックコボルトから逃げる道を作ってくれたの?」
「うんうん、きっとそうだよ!お兄ちゃんのあのスピードなら、何とかそれが可能だしねぇっ!で、どうやって逃げ仰せたの?」
佐紀と綾香、そして成美がどうやってブラックコボルトから逃げ出せたのか不思議に思い、それを問う。
「え、えっと...に、逃げて来たっていうか、朔夜お兄さんがあっさり退治した...みたいな?」
「「「―――へ!?た、退治したぁぁぁあっ!?!?!?」」」
優子の言葉に、成美と佐紀達三人が、目を大きく見開いて驚きの表情を見せる。
「え!?ええぇぇえっ!?ブ、ブラックコボルトを退治したっ!?ウソでしょ、お兄ちゃんっ!?」
「イヤイヤ!ブラックコボルトのランクってA級だよ!?B級冒険者数名で戦って何とか倒せる魔物なんだよ、あれ!?」
「佐紀の言う通り!流石に倒したは風潮し過ぎだって、優子!」
「そうそう。それにこの後ギルドにこの事を報告しなきゃいけないんだから、もしギルドに虚偽の報告なんてしようものなら成美のお兄さんの冒険者免許、一発で剥奪を食らっちゃうぞ!」
成美、佐紀、綾香のそれぞれが、朔夜がブラックコボルトを退治したという事実を全力で疑ってくる。