121・東城優子
「うりゃぁぁあっ!!俺のマイエンジェル様の親友に何をしようとしてんじゃぁぁああっ!!このケモノ風情がぁぁあぁぁああああっ!!」
女性が死の恐怖から目をグッと瞑り、その身を丸く縮めた瞬間、男性らしき叫声が女性の耳に大きく響く。
「え!?」
女性がその声に驚き、目を静かに開けると、
自分を襲い掛かろうとしていたブラックコボルトを先程の叫声の持ち主であろう男性が思いっきり回し蹴りで蹴り飛ばす姿が目に映る。
「ウギャァァァア――――ゲハッ!」
男性から思いっきり蹴り飛ばされたブラックコボルトはその勢いでダンジョンの壁に勢いよく叩き付けられた。
「ググゥ............ウウ......グハッ!?」
ダンジョンの壁に激突した衝撃でHP値を一気にゼロへと下げたブラックコボルトは、ドロップアイテムと魔石を残しその場から消え去った。
「ったく......危機一髪だったね、キミ♪」
ブラックコボルトを圧倒的な力で退治した男性がやれやれと嘆息を吐いた後、目の前で縮こまっている女性のいる場所に移動し、女性に向けてスッと手を差し出す。
が、
「す、すいません......あ...足に......力が......入ら......な...くて......」
男性の手を取った女性だったが、しかしブラックコボルトのせいで死を迎えようとしていた恐怖からか、未だに両膝がガクガクと震えを止めず立ち上がる事が出来なかった。
「はは。そうなっても無理ないか......」
下手したら死んでいた訳だしね。
この子が回復するまで待っててあげてもいいんだけど。
でも成美の奴もその親友達も心配しているだろうし、
急いで戻った方が良いよな?
「......致し方がない。こうなったらこれでいくしかないか。ゴメンねキミ、ちょっと失礼するよ!」
「―――え!?」
「......よっこいしょっと!」
「キャッ!」
俺は地面に倒れ込んで身動きの出来ない女性を強引に起き上がらせると、スッと自分に方に抱き寄せてお姫様抱っこの体勢に入った。
「あわ!あわわわ!こ、これはもしやお姫様抱っこと言うものではっ!?」
「んじゃ急いでみんなの所に帰ろうか......おっと、そういえばキミの名前をまだ聞いてなかったね。あ、俺は光野成美の兄で朔夜って名前だよ♪」
「え?な、成美のお兄さん...なんですか!?あ、名乗るのが遅れました!ワタシの名前ですね!ワタシは、と、東城優子っていいます!」
俺の自己紹介に、慌てて女性が自分の自己紹介をする。
「東城優子...だね?じゃあ今から東城ちゃん...流石に初対面の子に対してちゃん付けはないか。そんじゃキミの事は東城さんって呼ばせてもらうね♪」
「い、いいえっ!ワ、ワタシはお兄さんより年下です!さすれば呼び捨てで構いません!さ、更に言うなら、名字じゃなく名前の方で呼び下さいっ!勿論、さん付けもちゃん付けもいりません!ワタシの事は呼び捨てにして下さいっ!ほ、ほら、それにお兄さんの事を光野って呼んだら、成美も一緒に振り向きそうじゃないですか!そ、その代わり、ワタシもお兄さんの事は名字じゃなく、名前の方の朔夜お兄さんと呼ばせて下さいっ!いいえ!是非とも呼ばせて下さいっ!それでお願いしますっ!!それがいいですっ!!良いですよね、朔夜お兄さんっ!!!」
東城さんが目をクワッと大きく見開くと、矢継ぎ早に自分の事は名前で呼んでくれと、そして俺の事も名前呼びで呼ばせてくれと熱い口調で訴えてくる。
「お、おう。わ、分かった。そこまで言われたら却下するのも何か悪いし、これからはそう呼ばせてもらう事にするよ。ゆ、優子!」
矢継ぎ早に自分の事は名前で呼んでくれ、そう熱く訴えてくる東城さん...いや、優子に圧倒されたつつ、俺は苦笑いを浮かべてそれを了解する。
「うっしゃ!ありがとうございま~す!朔夜お兄さんっ!!」
そんな俺の返答に、東城さん改めて、優子が屈託ない笑顔をこぼす。
......はは。
さ、流石は成美の友達って感じの子だな。
......しかし東城か。
東城といえば、ユカリの奴と同じ名字だな?
ユカリって女性を知ってるって聞いてみたいけど、でも理緒さんの時にも考えたが、もし違っていたら赤っ恥だしな。
陰キャラはこういう間違いをするのが、かなり恥ずかしい種族なのだよ。
「......コホン。さてと。お互いの自己紹介も終わった事だし。成美やキミの友達を安心させる為、みんなのいる所に帰ろうか。きっとみんなとてもキミの事を心配しているだろうからね!」
取り敢えずユカリの事はその内聞く事にした俺は、来た道...成美達のいる場所に身体をクルッと向ける。
「――え?成美もここに来ているんですか?」
「ああ。元々このダンジョンにはその成美から強引に連れて来られたんだよ。まぁでもその強引のお陰でキミを救う事が出来た訳だし、あいつにここへ連れて来られてホント良かったよ♪」
「ふえ!?」
サクヤが優子の事を助けられて良かったと心からの満面な笑みで微笑むと優子は顔中を赤くし、頭から蒸気の煙がボンッと上がっていく。




