#20 竹下家のハンバーグ
元旦 亜沙美の実家
午前十一時頃に帰った亜沙美は誰もいない実家で一人で雑煮を食べていた。
母 裕子は亜沙美が帰ってくる前に病院に着替え等を持っていっていた。
「……暇、ナオは今何してるのかな。同じように雑煮を食べてるのかな」
亜沙美はネックレスに軽く触れた。
「エヘヘ、お揃い」
亜沙美はスマホに入っているクリスマスイブの日に撮った写真を見た。
「会いたいなぁ。……いや、痛い女と思われないようにしなきゃ」
昨日、直人から智美という名前が出てきた後の自分の行動を亜沙美は少し反省していた。
たまにドラマで見る嫉妬深い嫌な女、思い出すとそんな感じに思えてしまった。
直人なら受け入れてくれるかもしれないが、いつまでもそうとは限らない。
しかし亜沙美の人生において彼氏から他の女性の名前が出てきて不安な気持ちになる感覚は初めてだった。
「うん、気を付けないと。あと仕事との両立!今度は失敗しない!!」
亜沙美はよし!と雑煮を飲み干した。
玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
裕子が帰って来た。
「おかえり、お父さんどうだった?」
「あぁ亜沙美、着いてたのね。大丈夫よ」
「そっか、なら良かった」
「それより明日の準備しなくちゃねぇ」
「準備?」
「亜沙美の彼氏をうちに呼ぶんだからおもてなしの準備をしなきゃ、何時頃に来るの?」
「お昼頃でいいよ、とは言ってある。あと駅に着いたら連絡してって」
「またそんなアバウトな。亜沙美は明日十一時頃には駅にいるようにしなさい」
「え?なんで?」
「彼氏が連絡してからしばらく駅で待つのと、すでに彼女が待ってる。どっちが嬉しいと思ってくれるかを考えなさい。そうやって繋ぎ止めておかないと逃げられちゃうわよ」
「うっ…嫌なことを」
「藤堂君はモテるでしょ」
「……やっぱ、そう思う?」
「会った雰囲気では優しそうだし、しっかりしてるし、言わないだけで好意を抱いてる子もいるんじゃないかい?」
「……」
亜沙美は心当たりがあったため何も言葉が出なかった。
「とりあえず一緒にいるのが当たり前って事になるまでは色々と頑張りなさい。ただし束縛はだめだからね」
「わ、わかった。って何でお母さんそんなに色々詳しいの?」
「ご近所含めて色々と話を聞くからよ、これで失敗した、あれで失敗したとか。今はスマホがあるから繋がるのが簡単な分、繋がり続けるのが難しいのかねぇ」
「…勉強になります」
「ところでそのネックレスどうしたの?」
「これ昨日お揃いで買ったの」
「…強要はしてないでしょうね?」
「してないよ!私が欲しそうにしてるのを見てナオから買いに行こうって言ってくれたんだから」
「ならいいけど、……さっ買い物に行こうかしらね」
「あっ、私も行く!」
亜沙美は出掛ける準備をした。
「藤堂君は食べ物は何が好きなの?」
「しょうが焼きと筑前煮って言ってた」
「筑前煮が好きなの?それなら得意だよ。亜沙美、教えるからちゃんと覚えなさい」
「はい、お願いします。あっでもしょうが焼きは昨日食べてるから別なのがいいかも」
「あら、そうなの?」
「あとは基本的に洋食が好きなのかも、入るお店ナオに決めてもらってるけど、全部洋食」
「じゃあその辺りを買い物してきましょう」
「うん」
二人は近くのスーパーに着いた。
店内では正月の定番曲である春の海がBGMとしてずっと流れており、そこかしこに正月飾りが付けられていた。
しかし時間がまだ早いのか、店内にお客さんの数は少なく店員も暇そうにしていた。
二人は筑前煮の材料をかごに入れて、あとはどうするかを決めかねていた。
「洋食ねぇ、何がいいかしら」
「……ねぇ、お母さん。ハンバーグ教えてくれない?」
「ハンバーグ?手作りするの?」
「うん、ナオに作ってあげたい」
「わかった。藤堂君の口に合うかわからないけど竹下家のハンバーグを教えるよ」
「はい、お願いします」
ハンバーグの材料を練習分も含めてかごに入れて、あとはお菓子や餅も念のため買うことにした。
「さっ、帰ったら早速教えるからね。おいしいって言ってもらえるといいね」
「うん」
家に帰った亜沙美は玉ねぎのみじん切りから教わり、色々と散らかしながらもハンバーグを作った。
「お母さん、どうだろ?」
裕子は味見をしてみた。
「……うん、いいんじゃない?ちょっと焦げちゃってるから明日はそれを気を付ければ」
「良かったー。わかった、ありがとう」
「それじゃ夕飯の支度でもしましょうかね。そのハンバーグも食べちゃいましょ」
「うん」
夕飯の支度の時に筑前煮の作り方を教わり、亜沙美は細かくメモをした。
夕飯を食べ終わり風呂にも浸かり、テレビを見ながらゆっくりしていた夜中十一時半頃、亜沙美のスマホがメッセを着信した。
「ナオかな!?」
すぐにスマホをチェックした。やはりナオからのメッセだった。
「夜遅くにごめん、今家に帰ったよ。明日はよろしくね。実家からのお土産もあるからそれも持っていくよ。」
「大丈夫だよ。わかった、楽しみにしてる。駅の近くまで来たらまた連絡ちょうだい」
亜沙美は直人からの連絡がとても嬉しく、すぐに返信をした。
そう考えると過去の恋愛は何だったのだろう?と不思議に思った。
後ででいい、時間があるときに返そう。そんなものだった。
しかし直人からだったらとても嬉しくすぐに返したいという気持ちになった。こんな気持ちも今まで感じたことのない気持ちだった。
自分にとって直人はとても特別な存在なのだろうと改めて思った。
そしてニヤニヤしながら眠りについた。




