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フェイクマイナス  作者: 海鮮メロン
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21/77

#21 豪勢な雑煮と好奇心

一月二日

直人は亜沙美の実家に向かうため電車に乗っていた。

「すごいな、全然人が乗ってない……普段からこうだと嬉しいんだけどな、まぁそれはそれで問題か」


電車の中はガラガラでとても快適だった。

「しかし服装はこんな感じで良かったかな。やっぱスーツの方が良かったかなぁ」

直人が家を出る前に服装をどうするかで非常に迷っていた。

散々迷ったあげくにビジネスカジュアルの服装で向かうことにした。


亜沙美の実家の最寄り駅まであと三駅という所で直人はメッセを送った。

すぐに「わかった」と返事が来た。



電車を降り改札を抜けるとそこにはすでに亜沙美がいた。

「ナオ!」

呼ばれた方向を向くと亜沙美が手を振っていた。

「亜沙美!?」

亜沙美はそのまま直人の元に走っていった。

「亜沙美、早くない?ずっと待ってたの?」

「ん?うーん、ちょっと前から待ってたの。早く会いたくて」

「ありがとう、寒かったでしょ?ごめんね、具体的な時間を連絡しておけば良かったね」

「ううん!私も大まかに伝えてたから。行こ?」

「うん」

二人は手を繋いで亜沙美の実家に向かった。



「ここだよ」

着いた家は二階建ての一軒家でどことなく直人の実家に似ているような造りだった。

「なんかうちの実家に似てる」

「そうなの?」

「うん、なんだろ?上手く言えないけど何となく似てる」

「じゃあ中も見てみて、入ろ?」

亜沙美は玄関の扉を開いた。

「どうぞ」

「お邪魔します」

「お母さーん」

亜沙美は裕子を呼んだ。

「はいはい、あぁ藤堂さんいらっしゃい、お待ちしてましたよ」

「明けましておめでとうございます、本日はお邪魔させていただきます」

「明けましておめでとうございます、御丁寧にどうも、さっ、上がってください」

裕子はスリッパを置き、履くように促した。


竹下家 リビング

「どう?ナオ、似てる?」

「いや、中は全然違うよ、こんなにおしゃれじゃない」

「うん?何の話?」

「ナオがうちを見たときに実家に似てるって言ってたから」

「でも中は全然違いました。うちは和室で台所も別れてますから、こういう洋室でキッチンもあってというおしゃれな造りではないですね」

直人は後頭部を掻きながら苦笑いした。


「あっ、これ、ご挨拶ということで僕からとあと実家からお土産をお持ちしました。お気に召していただけたらいいのですが…」

「あら、そんなお気遣いいただかなくても」

裕子はお土産を受け取った。

「いえいえ、お邪魔するのですから。あっ、実家からのはイチゴなので早めに召し上がってください」

「イチゴ?うちは皆好きだよね」

「そうね、毎年冬には食べてるわね」

「良かったです」

とりあえずすんなりとお土産を渡すことが出来て直人はホッとした。



「まぁまぁ、座って座って」

亜沙美はテーブルに案内した。

「ちょうど出来たところなのよ、口に合うかわからないけど竹下家のお雑煮です」

裕子が直人の前に持ってきた雑煮はモチ以外にもニンジンや里芋、鶏肉等色々と具材が入っている豪勢なものだった。


「いや、こんなすごいお雑煮は初めて見ます、うちの実家はモチとなるとと三つ葉だけなんで」

「そうなの?」

「うん、それで他におかずがいくつかあるって感じ」

「やっぱり家によって違うんだね、うちはもうこれだけだもんね」

「そうねぇ、汁物として食べるかメインとして食べるかで変わってくるだろうね。あぁごめんなさいね、どうぞ召し上がってください。亜沙美のは今持ってくるから」

「うん、ありがと。ほら、ナオ食べて食べて」

「あっ、じゃあ、いただきます」


直人は初めて見る豪勢な雑煮がとても美味しそうに見えて仕方がなかった。

一口飲んでびっくりした。実家のシンプルな出汁としょうゆの味も美味しいけれど、こっちの具材の風味や味が溶け出している雑煮もとても美味しかった。

「美味しいです!色んな味や香りが口の中に広がって、こんなに美味しいお雑煮は初めてです」

「あらぁ、そう言ってもらえるとありがたいわ、家によって味付けが違ったりするから、どっちに思ってくれるかなって心配だったのよ」


直人はそのままバクバクと食べ進め、すぐに完食してしまった。

「ごちそうさまです!すごく美味しかったです」

「今みたいに食べてもらえると本当に嬉しいわ。今日作って良かった」

「あぁ、すみません。つい会話もせずに食べてしまいました」

「いいのいいの、おかわりあるけどどうですか?」

「いいんですか?ではお願いします」

「はい」

裕子は笑顔で空の椀を受け取り、キッチンへ向かった。

「お餅焼くからちょっと待っててくださいね」

「はい、ありがとうございます」


餅が焼けるまで時間があるのでここで友美の事を話しておこうかと直人は考えた。

「亜沙美、ちょっと話あるんだけど」

「ふぁい?……ごめんごめん、何?」

亜沙美はくわえていた餅を噛みきって食べた。


「ごめんね、食べてる最中。昨日の話なんだけど」

「実家に帰ったときの話?」

「そう、幼馴染の事なんだけど」

「……うん、どうかしたの?」

「話っていうのはその幼馴染がどうやらうちの会社に就職するみたいなんだ…」

「そうなの!?どこに?」

「総務部だって」

「総務!?えっ?大丈夫なの?」

「一応、激務って事は軽く話しておいたけど、それでその事もあるから一度亜沙美に紹介したいなと思って」

「私に?なんで?」

「ほら、総務として仕事したときに知ってる人がいるのといないとじゃ違うじゃん。せめてうちの部署に関わる時はやりやすい環境にしてあげたいなって」

「あぁ、なるほどねー。確かにその方がいいかもね……」

突然亜沙美の表情が曇った。


「ん?どうしたの?」

「あっ、あぁ!ごめん。ちょっと…」


直人は懸念していた事が起きてしまったのかと思った。大晦日の夜の亜沙美の表情が気になっていた。

だからこそ一度会えば大丈夫ではないかとも考えていたが、こうもわかりやすく事が起きるのは少しも想定していなかった。


「……いや、こっちこそごめん。僕が他の女性の為に亜沙美に頼み事してるんだから、いい気はしないよね」

「う、ううんううん、大丈夫だよ!」


キッチンで話が聞こえていた裕子が話を始める。

「亜沙美、藤堂さんだってわざわざそういう感情を持っている女性をあなたに紹介したりはしないわよ。ですよね?」

「あっ、はい。小さい頃から一緒で兄弟のように育ってきたので力になれるところはなりたいと思いまして」

「ほら、兄弟ですって」

「あと亜沙美さんの事も話してあります」

「私の事?」

「うん、帰ってからすぐ彼女いるだろって気が付いて色々と聞いてきたから」

「ちゃんと亜沙美の事話してるんじゃない。だから亜沙美が心配してるような事は無いわよ」

裕子からのフォローに直人はありがたみを感じていた。


「…そうだね、わかった。じゃあ一度入社する前に会ってみるよ、いつ入社なの?」

「今月中旬って言ってた、具体的なのは今後封書で来る事になってるって」

「あぁ、人事の仕事始め後に対応するのね、私達は五日まで連休だからそれまでに会えるかな?」

「多分、四日には会えると思う。また会うことになってるから」

「何かあったの?」


「昨日、仕事に来ていくスーツ買いたいって言ってて買いに行ったんだよ。それで僕も新年だし新しいの買おうと思って買ったんだ。それで受け取りは三日後って店から案内されたからそれを受け取って僕に渡しに来るって事になってる」

「そっか、私も四日は大丈夫だよ」

「あっ、じゃあ連絡しておくね、時間は何時ぐらいがいい?」

「私は何時でもいいよ」

「智美も店寄ってからって形になるから…じゃあ一旦ランチを三人で食べようって連絡しておく」

「うん、じゃあ空けておくね」

「ありがとう」


「はいはい、話は穏便に済んだかしら?はい、藤堂さん、どうぞ」

タイミングを計っていたのか裕子が雑煮を持ってきた。


「あっ、すみません。いただきます」

また直人はバクバクと食べ始めた、つられて亜沙美も食べ進めた。



「ご馳走さまでした。本当に美味しかったです」

「良かったわ、じゃあこれ亜沙美に叩き込んでおくから」

「私に?」

「当たり前でしょう、二人で生活するようになって新年迎えたらあなたがこれ作るのよ?」

「よろしくお願いします」

直人は頭を下げた。

「う、うん、わかった!頑張るからね」

亜沙美は引きつった顔で応えた。



「ナオは今日は何時ぐらいまでいれるの?」

「いつまででも大丈夫だけどあまり長居するのも悪いから夕方ぐらいにはおいとましようかなって思ってるけど」

亜沙美は少し焦った。

「悪くない悪くない!夕飯も食べていってよ」

「いいの?」

「うん、むしろ居て!」

亜沙美の妙な圧に何かあるんだろうな?と察した直人は

「う、うん。それじゃ夕飯もごちそうになります」

亜沙美は笑顔になった。


「一つ聞いていいかしら?」

「はい、なんでしょう」

「二人はどうして付き合うことになったの?いや、母親としてはちょっと気になるというか…ねぇ」

裕子は好奇心の塊のような顔をしている。


直人は亜沙美の顔を見て亜沙美は頷いた。

「それじゃ、お話ししますね」


直人は初めから話すことにした。

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