脳筋紳士・イベント二日目
更新、お待たせしてしまって申し訳ありません。
執筆中に麻雀をしてはいけない(戒め)
イベントが始まって最初の朝が来た。
PTで朝を迎える者、寝ずに探索や狩りを夜通ししていた者、身体が闘争を求める者、プレイヤーそれぞれが朝を迎える中その中でただ一人、崖に掴まった状態で朝日を見るプレイヤーがいた。
「日が昇り始めた……」
助けはいまだ来る気配がない。まあ助け呼んでないから当然なんだけど。
左手は崖を掴むために塞がれ、右手はハンマーによって塞がれている。よって助けを呼ぼうにもメニュー画面を操作できないのである。ステータス画面を開くくらいなら音声認識でできるんだけど流石にチャットは無理だ。こうなってはもう助けを待つより一回リスポンした方が良い気がするのだが、一回死んだとしても正常にリスポンできるか不安だから極力したくないんだよなぁ。【寂寞の凶狼】くんさぁ……。
おっとハンマーを捨てろなんて言わないでくれよ? 物は大事にしなくちゃダメだろ?
物を大事にすることもまた紳士の道に通ずるのだ(意味不明)
ゲーム内と言っても一夜を崖にぶら下がったまま一睡もせずに過ごした俺のテンションは過去最高に意味不明な状態になっていた。
「でもハンマーを捨てる以外の選択肢はないんだよなぁ……」
全振りしたSTRのおかげで崖に掴まっていることは少しも苦はないが、時間は着々と進んでいる。俺がこうして崖にぶら下がっている間にも周りのプレイヤーとのポイント差はどんどん広がっていくし何よりこのままだとイベントを崖に掴まってるだけで過ごすことになる。
というかイベント云々の前に気が狂うわ。
まあそんな事もあり、早急にこの状況を打開しなければならないのだが既に何も策が思いつかないまま朝を迎えてしまった。一縷の望みであった姉は心配するチャットすら来ない始末だ。仮にもPTで姉弟じゃねぇかよあのアル中……!
しょせん弟という存在は姉にいい様に使われるか弱い存在ってことなのかよ……!
「は! いかん、落ち着け俺は紳士…紳士……」
ヤバいなそろそろ限界かもしれん。感情のコントロールができなくなってきた、でもハンマー捨てて崖から這い上がるのは俺のプライドが許せない……。
……もうあれをするしかないのかなぁ。でも絶対成功しない気しかしねぇ……。
「腹くくりますか……」
覚悟を決め、崖から手を放す。そう、俺が選んだのはハンマーを優先して一度死んでリスポーンするルート。ではない。
――これは一か八かの賭けだ。
「『ステータス』!」
(ここからはスピード勝負! メニュー画面を開いて即座に装備一覧からハンマーをインベントリにぶち込んで…よし! 間に合った!)
インベントリに無事ハンマーを収納することに成功した俺はそのまま勢いよく雲海に突っ込む。さあまず最初のお祈りタイムだ。
風圧に揉まれながら無事抜けられることを祈る。
まず雲海の中に落下死判定とかあったりしたらここで詰みだ。頼む!
「――しゃあ! 抜けれたぁぁぁぁあああああ!」
そして陸を確認! いける!いけるぞぉ!!!
俺の目には町が映っていた。
これもまた賭けで雲海を抜けた後、陸がなかった場合、俺は詰んでいた。
ぐんぐんと自分と町の距離を縮まっていき、それに合わせるように心臓がバクバクと音を立てる。今から俺がしようとしている着地方法は成功する保障は一切ない、理論上なら成功するかもねってレベルの技だ。成功しなかったときのことを考えるのは……辞めとくかメンタルが先に死ぬ。
そんなことを考えてる内に、石畳がはっきり見えるほど距離は縮まっていた。
ここまで行ったなら成功させるしかないよなぁ!
(チャンスは一度! ミスれば死! ミスんなんくてももしかしたら死ぬ!)
石畳と足が触れる寸前――
「――おおおおお【寂寞の凶狼】!!!」
――【寂寞の凶狼】――
これは俺が【寂寞の凶狼】検証中に気づいたことなのだがおそらく【寂寞の凶狼】には発動時に一瞬、無敵時間が存在する。あのバチッ!って派手に稲妻が全身から散るときだ。
ただこれは推測にすぎない。無敵時間を確認できたのは一回だけだし。本当にあったとしても無敵時間の発生タイミング、無敵時間の長さ。全て不明だ。実践で活用するには難しいだろう。
で、そんなもんを土壇場で使った訳だが結果はというと。
「……嘘ぉ?」
えぇ……マジで成功しちゃうの? ぶっちゃけ成功すると思ってなかったから喜びより戸惑いの方が強いんだが。でもまあ、喜んどくか、運営の裏をかいてやったぜ。やったぁ。
でもまさかここまで上手く行くとは……これには俺みたいな運営の裏をかこうとするプレイヤー対策に雲海の中に落下死判定がないこと、落下先に地面があること、そして地面と接触するタイミングで【寂寞の凶狼】の無敵時間を合わせることの三つの運ゲーをクリアしなくてはならなかったからだ。
あっ、落下先が海などの場合ですが。万が一、着地……じゃなくて着水できたとしても俺が金づちなので泳げなくて詰みます。
「さて……」
まあ、色々募る思いがあるが……
「ここはどこでしょうか?」
どこですかこの廃墟は。




