脳筋紳士vs襲撃者・・・②
大晦日にも元旦にも間に合わなかった……
(一撃入れられたのは良いけど……マジでこれどうすればいいんだ!?)
結果から言うと、シルンの行動は裏目に出ていた。
まあ、当然といえる。シルンの戦闘スタイルはあくまで戦槌を主軸にした近接格闘であり徒手格闘は専門外だ。
確かにダメージという観点で見れば十分なSTRを持っているがやはり、何も徒手格闘に関するスキルがなく、さらにAGIが0であるシルンが格闘を当てる所か間合いに入ることさえほぼ不可能と言っていいだろう。
案の定、シルンの攻撃は最初の左ストレート以外一切当たっていない。焦ってはいけないと分かっていても焦らない方がおかしいだろう。
そして焦っていたシルンは気づくことができなかった。
(どうする? 騎士くんを待つのは無謀だし、このままだとまたさっきのような奇襲をされる可能性が……)
そんなことを考えていると突如、襲撃者は地面を蹴り。一歩後ろに下がった。
(? よく分らんが今のうちにハンマーを回収して…な!?)
咄嗟に後ろにあるハンマーを回収しようとしたシルンは自分の身体が全く動かないことに気づく。
驚いたシルンが目を凝らすと身体中にうっすらと鎖の様なものが這っていた。
「ぐぉ!?」
身体が動かなくなったことに動揺するのもつかの間、全身に謎の負荷が襲い、地面に手と膝を付かざるを得なくなる。あっという間にシルンは地面に四肢を縫い付けられているような状態になった。
(ッ! 油断した! 拘束系のスキルか魔法か!?)
どちらにしても非常にマズい。俺しかいない状況で俺が行動不能にされるのは公爵令嬢ちゃんの身が危ない!
(クソッ! どうすれば――――)
===
毒が効かないなら他の方法で無力化してしまえばいいだけだ。
(無力化できたのは良いが……チッ、あのクソ女の『札』を使わされるなんてな)
『札』は決して安いものではない。特にあのクソ女の『札』ならなおさらだ。まあ、その分、効力は抜群なのだが……あいつは『札』の補充を頼む度に妹の「頭を撫でさせろ」とか「お茶させろ」とか妹に対することを対価として要求してくる変態クソ女だ。そんな奴にまた補充を頼まなくちゃいけないと思うと……とても気が滅入る。
「はぁ…」と短くため息を吐いた襲撃者は身体に残ったダメージを回復するためポーションを煽る。
(まだ魔力も大分余裕があるしアレもある…よほどのイレギュラーが起きなければ問題ないな)
ポーションによって治ったあばらを気にするように少し撫でながら襲撃者は立ちすくんだまま動けない公爵令嬢ちゃんに向かって歩いていく。
「すまないが一緒に来てもらうぞ」
そう言うと襲撃者は逃げないように公爵令嬢ちゃんの右腕を掴む。当然、公爵令嬢ちゃんは腕を掴み手を振りほどこうと抵抗するが
「い、いや! 離し―――」
突如、公爵令嬢ちゃんが糸が切れた人形のように気を失った。
これには襲撃者も言い知れぬ不気味さを感じたようで、思わず掴んでいた公爵令嬢ちゃんの腕から反射的に手を放す。
「ッ! 何が起き――」
『―――』
襲撃者はすぐに異変に気付いた。
「!?」
力なく地面に倒れている少女は見開いた瞳で真っすぐ、シルンを見つめていたのだ。
「…『目覚めて』」
===
…
……
……………
『――――――――【■■■■■■■■】によるシステム介入を確認。認証開始……完了。システム権限を開放。
突然、視界が紅に染まっていく。
染まっていく視界に呼応するかのように身体から紅い稲妻のようなエフェクトが迸る。
『―――――――■】解凍率41、42、43% ※エラー※ これ以上の解凍はできません。―――――コマンド承認『強制開放』
(え? 何? 強制開放とか物騒な単語が聞こえたんですけど!?)
紅い稲妻のエフェクトが身体中を這っていた鎖を食い破るように消し飛ばす。
俺の事を置いてけぼりにしてなんか色々起きているがとりあえず鎖みたいなのが消えて動けるようになったのだけはわかった。
【寂寞の凶狼】。。。。。。――――――――』
ひとまず立ち上がった俺の眼前に――【寂寞の凶狼】――と、よくわからん中二病チックな文字が表示される。
身体から迸る紅い稲妻のようなエフェクトが一度、遠吠えのように勢い良く空に向かって放出され、夕日の空に溶けるように消えた。
今年こそは執筆頑張りますハッピーニューイヤー!!!




