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最終話  乙姫羽白の日常

登場人物


乙姫羽白オトヒメハジロ

 本作の主人公。

 性格が残念で変わり者な所がある。

 本人曰く、手先が器用な事と体を鍛えている事が長所。


●麦蒔まゆり(ムギマキマユリ)

 学校一の超絶美少女にして学年一の才女。

 しかしその正体は、性格が残念すぎる唯我独尊女。

 家から近いというだけの理由でこの高校に通っている。


●白鳥えみり(シラトリエミリ)

 茶髪でミニスカな、よくいる今風女子高生。

 顔は可愛くてスタイルも良い。誰にでも明るく接する性格。

 学内のリア充カーストで上位に位置する。


●朱鷺やよい(トキヤヨイ)

 一年A組担任にして生活指導担当教師。担当科目は国語。

 三十?歳で未だに独身。

 羽白曰く、見た目もスタイルも良いらしい。


   最終話  乙姫羽白の日常



 六月に入って最初の金曜日。その放課後。

 掃除当番で少し遅れてしまったが、ぼくは別館四階へ向かった。

 五月最終週の月曜日から水曜日がテストで、昨日はテスト休みだった。テスト休みと言っても、教師は採点やら集計やらで一日中デスクワークなんだとかで。教師の忙しさなんて知ったこっちゃ無いが。

 学生会はテスト期間だろうがなんだろうが強制召集上等な委員会なので、ここに来るのは二日ぶりとなる。

 あの事件の後、ぼくは保健室で寝かされた。頭をボカスカ殴られた割に、記憶喪失になることもなく、命の危機にさらされたりもせず、ごくごく平凡にタンコブができただけだった。まあぼくは映画やドラマの主人公って訳でもないし、それがあたりまえなのかもしれないが……。

 そんな事を考えているうちに、学生会室の前へとたどり着く。

 どうせ麦蒔しかいないので、ぼくはノックもせずにガチャリと扉を開けた。

「うー。なんであたしって頭悪いんだろー」

 学生会室に入ると、白鳥がテーブルにつっぷしていた。

 なにしてんだこいつ?

「あー、オッツー掃除お疲れー」

「? お、おう……」

 白鳥はぼくに顔だけ向けて話しかけてきた。可愛い顔が台無しな感じになっているのだが……。

 ぼくはいつもの席に座ると、向かいの席に座っている麦蒔の方を向いた。

『麦蒔の?』

『違うわよ。乙姫君じゃ無かったの?』

『ぼくも違うよ?』

 ぼくと麦蒔はアイコンタクトで会話をした。

 なんと一ヶ月も毎日一緒にいたせいで、目と目で会話が出来るようになっていたのだった。無駄なスキルが身についてしまった……。

「あれあれー? まゆりんとオッツー、見つめあっちゃって……。どうしたのかなー?」

 そんなぼくらを見た白鳥が、好奇心かなにかで聞いてきた。

「いや別に見つめあってる訳じゃないんだが……。てゆーかさ。白鳥はなにしてんの?」

「え? 特に何もしてないよ。テストの成績わるかったから落ち込んでるだけー」

「あ、そうなんスか……」

 まあ白鳥は成績悪かったしな……。さっき教室で成績を見せ合ったりしたのだが、それはまた別の話なので置いておく。

 って、いやいや。違うよ。そんなことを聞いてるんじゃないのだが……。

『どうゆうことだと思う?』

『知らないわよ。あなたが聞いてよ』

『え? ぼくが?』

『あなた、その子とクラスメイトなんでしょ?』

『そりゃそうだけどさ……、まあいいけど』

「あー! また見つめあってる!」

 ぼくらのやり取りを見た白鳥が、急に大きな声を出した。情緒不安定なのか?

「もう……。イチャイチャするなら、あたし帰るよ?」

「帰れば?」

「ひっどーい!」

 白鳥はバシバシとぼくの事を叩きはじめた。痛いからやめて。

「ねえ、まゆりん。今の聞いた? ひどいと思わない!?」

「? なぜ?」

「なぜ? ……っじゃなーい! そこは『いやいや帰っちゃダメだろ』的なツッコミを入れるところだった訳ですよ!?」

「いやいや、帰っていいだろ?」

「なんでだよ!」

 ツッコミをご所望していたのでしてやったのだが、白鳥にはなにか不満があったらしい。

「あたし帰っていいの? 委員会の仕事とかいいの?」

 ん?

「え?」

 ぼくと麦蒔は白鳥のセリフを聞いてポカーンとしてしまった。

『あれ? もしかして白鳥ってさ、何か間違えた認識してる?』

『ええ。もしかしなくても、白鳥さんは間違えてるわね……』

 ぼくと麦蒔は同じ答えにたどり着いていた。まあ間違いってだれにでもあるし、それとなく白鳥に訊ねてみようかな?

「白鳥はさ、ここに何しに来たのさ?」

「だから! 今日ってテスト期間が明けたからさ、委員会の仕事、あるんでしょ? だから来たんだよ!?」

「あーそうゆうことなのか……。だから今日なのか……」

 疑問が一つ解けた。

「白鳥さん。残念だけど、この委員会はテスト期間に休みは無いわよ?」

 納得してうんうん言ってるぼくを横目に、麦蒔が白鳥にそう言った。

「え? そうだったの? うっわー。じゃあ、あたしってずっとサボってたのかー。やよい先生に怒られるよー」

「いえ、別に白鳥さんが怒られる事は無いわよ?」

「あれ? そうなの? なんか知らないけどラッキーだね! あたしがやる仕事が無かったってことかな?」

 まあ、仕事が無いってのは正しいのだが……。

「少し違うわね。白鳥さん、あなたは別にこの委員会のメンバーって訳ではないのだから、ここに来る必要も怒られる理由も無いってだけよ?」

「…………え?」

 こんどは白鳥が麦蒔のセリフを聞いてポカーンとした。

 やっぱり白鳥は勘違いしていたようだ……。

 自分が学生会のメンバーとでも思い込んでいたのだろうか?

「って! あたしってここのメンバーじゃないの!?」

「いやいや、むしろ何でメンバーだと思ったんだよ?」

「だって、最近ずっとここに通ってたから……」

「そりゃ林道の事件があったからだろ……」

「だってだって、まゆりんと電話番号交換したりして、友達になったつもりだったのに……」

「私と友達になるのと委員会は無関係では?」

「そんな事ないよ! オッツーとだって最近は仲いいよね?」

「え? ぼくは白鳥の電話番号なんて知らないよ?」

「じゃあ教えるから! メアドも交換するから! 友達になろうよ!」

「いや……別に……」

「なんでだよ! ここは素直に喜んでおいてよ!」

「白鳥さん。話がずれているわよ。今はあなたがこの委員会のメンバーでは無いという話だったはずよ?」

「いやいや、むしろメンバーになるし! やよい先生に頼むし!」

 と言うことで。結局、白鳥は馬鹿だったということなのかな……。

 白鳥が仲間にしてほしそうにこちらを見ている。仲間にしますか?

 別にどちらでも……。



「よう、二人とも。今日もしっかり働いてるか?」

 白鳥が仲間に入りたいとかなんとか騒いでいると、やよい先生が大きな胸を揺らしながら部屋に入ってきた。

 OL風なスーツが上半身にぴったりとフィットしているので、グラビアアイドルの様にぷるんぷるんと揺れる訳ではないが、容赦の無い体積を自己主張するには十分な震度を伴っている。擬音を充てがうのであれば『ばいんばいん』と言ったところだろうか。扉の枠を踏み越える時に足で発生する力学的なエネルギーは、重力と反対向きな運動を減衰することなく体全体に行き渡らせ、我らのロマンがいっぱいにつまった双丘に上下の運動を与える。その疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。まさに武田信玄の軍旗に記された『風林火山』とでも形容できる――

「乙姫くん。心の声が漏れているわよ。いい加減に死なさい」

 ぼくがロケットおっぱいの素晴らしさについての説明を始めたばかりだというのに、持たざる者がひがんできました。てゆーか、一文字ほど変換ミスしていませんか?

「なぁ、乙姫。私はな、そろそろお前の事をセクハラで訴える準備を始めようと思うのだが……。どうしてほしい?」

「揉ませて欲しい」

「はやく死ねばいいのに!」

 まったく……。やよい先生は何を考えているのかな? 生徒に向かって死ねとか言ってはダメだろ。(生徒じゃなくてもダメだよ!) なんでぼくの死を願うのかな?

 はやく死んで欲しい → 遺産相続でがっぽがっぽ → 既に気分は配偶者!

「つまり、ぼくと結婚したいの?」

「お前もう社会的に抹殺されちゃえばいいのに……」

 ははは。まったくやよい先生は照れ屋さんだな。おっぱい揉むくらいいいじゃないか。減るもんじゃないし。そうやって男の誘いを簡単に拒んじゃったから、結婚できないで売れ残っちゃったんじゃ以下略。

「オッツーって本当にエッチだよね。エッチーだよね」

 そのあだ名はやめて欲しい。

「まああれだよ。エチ姫の事は置いといて」「繋げるな!」「今日はまた大きな仕事を持ってきて……。って、あれ? なんで白鳥がここにいるんだ?」

 やよい先生が何か不吉なセリフを言った気がしたのだが、とりあえずそれには触れないでおくとして。

 なぜかこの場にいる白鳥に気づいたやよい先生は、疑問を投げかける。白鳥はやよい先生に向かって力強く宣言した。

「あたしも学生会に入ります!」

「いらん」

 即答かよっ!

 そのレスポンスの疾きこと風の如く……ってのはネタ被りなので自粛するが。

 白鳥は『ずーん』という効果音つきで落ち込んでしまった。ぼくは隣の席に座っているよしみで、頭を撫でて慰めてやる事にする。あ、手を払いやがった!

「まああれだよ。エチ鳥の事は置いといて」「あたしも繋げるの!?」「今日はまた大きな仕事を持ってきてやったぞ!」

 と、白鳥を無視してドヤ顔のやよい先生。

 ぼくと麦蒔は目配せをして、あきらめる様に大きく溜息をついた。

 何が持ってきてやったぞだ。前にも言ったが、誰も望んでないよ。ぼくは麦蒔にアイコンタクトをしてみた。『こいつ、いったい、いくつ?』

「乙姫くん。持たざる者って表現について、説明してもらいましょうか?」

「ぼくの心の声って駄々漏れなんですねっ!」

 てゆーか麦蒔って貧乳ネタに一々反応するよね。やっぱり気にしているんだね。

「まあまあ、まゆりん。女の魅力は胸の大きさだけじゃないんだしさー。そんなに気にする事ないと思うよ!」

「うるさい持ってる者。部外者なのだから、はやく出て行きなさい」

「相変わらずお前は、白鳥に容赦無さすぎるだろ……」

「そうだそうだー。持たざる者は黙れー」

「ちょっ……。お前も調子にのるなっつの……」

 胸の大きさでは圧倒的に優位な白鳥が、ここぞとばかりに調子にのりはじめた。こればかりは麦蒔にもどうする事はできないようで、「ぐぬぬ……」とか聞こえてきそうなくらい悔しそうな顔で、白鳥の事を睨みつけている。こいつの悔しがる顔なんて珍しいので、ちょっと面白い。ざまぁ。

 そんな感じでぼく達が漫才をしていると、やよい先生があきれた表情を浮かべ、割って入ってくる。こうゆう時だからこそ、大人の女性として余裕のある発言で、麦蒔と白鳥に遺恨を残さないような仲裁を期待したい。

「私の方が大きいよ?」

「あんたも混ざっちゃうのかよ!」



 ぼくらの日常は、誰がどう見ても平和そのものなわけで。

 なんだかんだと騒いでいるのも、結局の所、麦蒔と白鳥は仲が良いからじゃれあってるだけだし。やよい先生も面白がっているだけだ。

 まあ、あれだよ。

 ぼくが集団に溶け込むのが嫌いって言ってもさ。

 表の麦蒔はアレだけど、ぼくらといる時の麦蒔は、一緒にいて心地良いし。

 白鳥は距離感が近くてウザイけど、良い奴だし。

 やよい先生はぼくと結婚したそうだし……。って冗談は置いておいても。他人と違った感性の持ち主であるぼくなんかとも、普通に接してくれるし。

 こうゆう雰囲気が嫌いって訳じゃないし。ってか、こいつらといるのが、嫌いじゃないって感じだな。

 この学生会に無理やり入れられたけど、これからの学校生活、案外楽しくなるかも?

 まさかぼくがこんな風に考えるとは、入学する前は微塵も思っていなかった。

 だからこそ。

 ぼくはちょっと……。いや、かなり……。いやいや、めっちゃくちゃ、驚いちゃったわけなのですよ……。

 え? 何に驚いたのかって?

 そんなのは、やっぱりと言うかなんと言うか……。

 やよい先生が持ってきた『大きな仕事』とやらが原因なわけで……。

 言いかけで止まっていた『大きな仕事』の内容。それを聞いてぼくは、麦蒔は、白鳥は、心底驚いて言葉を失ってしまった。

 意表をつくも何も、そんな事を言われるとは夢にも思ってなかった。

 長々と引っ張ってしまったが、そんな『大きな仕事』とやらは、つまりはこん感じの内容だったという事でして……。


「――――、――――!」


 さすがにその発想は無かった……。



読んでいただきまして、ありがとうございました。


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