うさぎとかめの話
―あの星は面白そう―
星の数ほどの生き物がいる。
生物のパラダイスで、色も形も様々の、不思議な、魅惑的なものたちが、ぼくの目を奪っていた。
大きな光は言った。
「あの星では長くて100年くらいしか生きられない。」
そんなの、どうでもいいと思った。
「寿命が100年なら、知力、集中力、分析力⋯、思考に役立ちそうなアイテムを!」
交渉は成立した。
恋焦がれた青い星に旅立つ日、大きな光は言った。「考えるな。感じるんだ。心が彷徨うと、己の武器は己を傷つけてしまう…」
「ド~ン、ドン!ドン!」
ウサギは、突然の花火の音に夢から引き戻され、目を覚ました。
彼は今、人生を賭けたカメとの大勝負の真最中だったが、不覚にも走り疲れて眠ってしまっていた。
「あ~あ、このエリートのぼくが、あのドンくさいカメに負けるなんて…」
これは、所謂、昔ばなしの『ウサギとカメ』の競走のようだが、ちょっと違うのは、競走の場が巨大な迷路で、勝者は美しいリスをお嫁さんに貰えることだ。
勝負の顛末をごく簡単に説明すると、結果は、カメの勝ちで、先程、勝負がついたことを知らせる花火の音が鳴り響き、ウサギは、目を覚ますと同時に自らの敗北を悟った。
序盤は、ウサギが大きくリードしていた。
ウサギは、太陽の位置から方角を確認し、壁に印をつけながら、持前の知力と集中力と分析力を駆使して、この迷路を順調に攻略しているように見えた。
一方、カメはというと、ご存知の通り、マイペースで勝ち負けなどどうでもいいと思っているかのような、のんびりとした足取りで、迷路をウロウロしているだけのように思われた。
途中で、偶然、ウサギはカメと出くわした。
ウサギにとっては大誤算だった。
大きくリードしていたはずなので、ここでカメに出会うことなど、あり得なかったからだ。
「やあ、ウサギさん、順調かい?」
「順調なもんか!愚図のお前とここで会うのは想定外だ!」
「そうかい?でも、ぼくにとっては上出来さ」
カメは、ゆっくりした口調でウサギに言ったあと、ウサギとは反対の方向にのそのそと歩いて行った。
「チェッ!」
ウサギは舌打ちして、カメとは反対の方向に向かって駆け出した。
ウサギの心中は穏やかではなかった。
これまで、持てる力の全てを動員してこの迷路を攻略してきた。
考え得ることは全て実行し、勝利を確信していたのだが、カメと出会い、今、振り出しに戻ってしまった。
ウサギは、焦りを感じて、頭から蒸気が噴き出すほど考えに考えた。
カメの先回りをして落とし穴でも掘ってみようか、それとも、カメを騙して眠り薬を飲ませようかなどと、良からぬことも頭に浮かんだが、色々考えているうちに、ゴールへの道はさっぱり分からなくなっていた。
ウサギは全力疾走で、右へ左へ、東へ西へ奔走したものの、一向にゴールには辿りつけず、遂には、疲れ果て、道端で眠り込んでしまった。
ウサギは目を覚ますと、予想外の敗北にしばらく放心していたが、そのうち、なぜカメが迷路を攻略できたのか考え始めた。
何かズルをしたんじゃないか?とか、誰かが手助けをしたんじゃないか?とか考えたが、カメのことは昔からよく知っていたので、そんなことをするようには思えなかった。
あれこれ考えても答えが見つからないでいると、カメがリスと手をつないでやって来た。
「何しに来た!敗けたぼくを笑いに来たのか!?」
腹立ちげにウサギは言った。
「そんなわけないさ、それは君が一番よく知っているだろう?」
カメは微笑みながら言った。
リスもその隣で微笑んでいた。
ウサギとカメとリスは、幼馴染みだった。
ウサギはちょっと素直になって、
「負けたよ、でも、どうやって迷路を突破したんだい?何か秘密があるんだろう?」と訊いてみた。
すると、カメから意外な答えが返ってきた。
「ただ、ひたすら、リスさんのことを感じながら、行きたい方に行っただけさ。そうしたら、自然とゴールに着いていたんだよ」
ウサギはハッとして、さっきまで見ていた夢を思い出した。
『考えるな。感じるんだ。心が彷徨うと、己の武器は己を傷つけてしまう…』
「そうだったのか…」
誰にも聞こえない程の小さな声でつぶやいたあと、ウサギは目頭が熱くなるのを感じた。
そして、涙を悟られないようにっこり笑いながら、「勝利と結婚、おめでとう!」
今はもう、晴れやかな気持ちになって、二人の門出を心から祝福した。
おわり




