幼き日の回想
―あの星は面白そう―
星の数ほどの生き物がいる。
生物のパラダイスで、色も形も様々の、不思議な、魅惑的なものたちが、ぼくの目を奪っていた。
大きな光は言った。
「あの星では長くて100年くらいしか生きられない。」
そんなの、どうでもいいと思った。
「寿命が100年なら、知力、集中力、分析力⋯、思考に役立ちそうなアイテムを!」
交渉は成立した。
恋焦がれた青い星に旅立つ日、大きな光は言った。
「考えるな。感じるんだ。心が彷徨うと、己の武器は己を傷つけてしまう…」
「ありがと⋯」
お礼の言葉を最後まで言う間もなく、全身が暖かい光に包まれ、次の瞬間には、光の速さで移動する感覚に戸惑いながら、ぼくは、青い星に住む「人間」と呼ばれる生き物として、新たな命を授かった。
それからの数年間は何も覚えていない。
おそらく、人間という生き物として、成長という過程を経ていくうちに、次第に体が大きくなり、手足の自由も利くようになったと思われる。
また、全身の知覚を総動員して、物を見たり、聞いたり、感じたり、体のてっぺんにある脳という大きな器官によって、色々なことを考えることができるようにもなった。
それに伴い、ぼくを取り巻く様々なことが分かってきた。
自らを父と呼ぶ人間は、年老いて病に苦しんでおり、気難しかった。
一方、自らを母と呼ぶ人間は、父と比べるとだいぶ若く、病気の父を献身的に世話していた。
兄弟姉妹という存在はなく、ぼくは独りぼっちだった。
でも、孤独ではなかった。
この青い星には、様々な生き物が住んでいて、ぼくが生まれたこの家にも、犬や小鳥や金魚という人間とは別の生き物が同居していた。
ぼくは暇さえあれば、犬や小鳥や金魚たちと遊ぶことに夢中だったので、自分以外の人間の子供がこの家にいなくても、ちっとも寂しくはなかった。
また、この青い星には、太古の時代に巨大な竜が住んでいたらしく、その姿を描いた本を、何度も何度も穴があくほど読んでいるうちに、時間などあっという間に過ぎてしまうのだった。
この星に来てから7年程になる頃、ぼくは「学校」というところに通い始めた。
そこでは、ぼくと同じ年齢の子供たちが大勢集められ、「先生」と呼ばれる人間に色々なことを教えられた。
多くの子供にとって、学校は楽しいところのようだった。でも、ぼくは、学校も先生も好きにはなれなかった。
それでも、僕はちっとも寂しくなかった。
考えることが好きで、学校の勉強の最中も、竜の大きさに思いを馳せたり、家に帰ったら犬や小鳥や金魚たちと何して遊ぼうかと考えていれば、寂しさが心に忍び込んでくる余地など全くなかったからだ。
でも、時々、胸の奥の何かがチクリと痛む感じがした。
そんな時は、なぜか、頭の奥で誰かがこう呼びかけるのだった。
『考えるな。感じるんだ。心が彷徨うと、己の武器は己を傷つけてしまう…』
ぼくは、この言葉の主を知らなかったけど、なぜか懐かしい感じがした。
ぼくは、この言葉の意味がちっとも分からなかったけど、この言葉がかけがえのないものに感じた。
なぜなら、「いつかぼくが本当に困った時、きっとこの言葉がぼくを助けてくれる!」
そんな気がしたからだ。
そう思うと、いつも、胸の痛みは自然と消えているのだった。
おわり




