第四十七話『白魔導士の期待は泡沫です』
西の街を目指すため、俺たちは草原を歩いている。まあ神と一緒だし、全然よゆ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇえっ?! 急に叫ぶなよ神様!」
めっちゃビビるじゃん、何事?
「だってぇ……魔獣出てきたんだもん……」
「ねぇもっかい訊いていい? あんたほんとに神様?!」
あの、ただのスライムなんですけど。たぶん確認されてる中でいっちばん弱い魔獣。明るい緑色の、両掌に乗せられそうなくらいの大きさの粘着質な球体。
「いや、少し驚いて取り乱しただけだ。えいっ」
モニカは一瞬で水を何もない空間から創り出し、それを弓矢の形に変える。それからスライムを狙って、その矢を放つ。
「べちょっ! べちょべちょっ!」
「いや鳴き声汚ぇよ! 可愛い見た目してギャップ萌えじゃなくて『ギャップおえッ』させんな!」
吐きそう。しかも矢当たってないし。
「神様、スライムと戯れるのやめない? さっさと当ててくれよぉ」
「まあ待て。久しぶりに魔法を使ったから、今感覚を取り戻しているのだ」
下界で最初に遭遇したのがスライムで良かったね、神様。俺は生暖かい目で彼女の弓捌きを見ることにした。
「えいっ。えい、えいっ!」
さすがに三連続で矢放ったら当たるでしょ。ちょっと神様かっこ悪いよ?
「べちょっ。べちょっ?! べちょべちょ!」
「頼むから当ててくれ、そろそろ吐く」
なんで当たらんの? そんなに感覚戻ってこない? ちゃんと感覚は心の中に入れとくもんよ?
「ニーヴェルング、盟約を忘れていないか?」
モニカは一向に当たらない矢を次々に放ちながら、俺に問う。喋ってないで集中したらどうですか。
え、盟約? そんなのどうでもよかったけどさっき交わしたばっかりだから何となく覚えてる。
「あ、今俺がピンチだから、さっさと本気出して俺を救ってくれるんだね!」
「バカか! 知っていたけど!! 今はどうみても私が窮地に立たされているだろうが! 私を助けろぉぉぉぉ!」
もうこの人置いていこうかな?
「なんでスライム相手に俺の助け借りようとしてんの?! 今まで共闘してきた魔導士の中でも誰もそんなことしてないよ?! あんた俺が見てきた戦士の中で最弱よ?!」
「どうでもいいから助けてぇぇぇぇ!」
グサッ。
「べちょっ、げろ……」
あ、当たった。
「ふ、ふん! やはりお前の助けなど必要なかったぞ!」
なんじゃこいつ。そんでスライムやられる時の断末魔めちゃんこ気持ち悪いな。
「で、感覚は戻ったの、神様?」
「任せろ。お前の手を借りるまでもない」
ってことで再び歩き始めて五分後。
「死ぬ! 無理! ニーヴェルングぅぅぅぅ! 盟約ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
俺たちは、というかモニカは、膝丈くらいの小竜・ドワーフドラゴンに弄ばれることになりました。
そろそろ置いていこうかな?
「感覚戻ったんじゃないの? それとも三歩歩いたら何もかも忘れちゃうスタイルの神様?」
「私は全知全能だからそんなことは断じてなどわっ?!」
うわ……このタイミングで全知全能認めなすった。しかも一瞬でコケて信憑性だだ下がりだし。
「ピー! ピー!」
ドワーフドラゴンが憐れな「自称」神様に駆け寄り、
「ピィィィィイッ!」
体を半回転させて尻尾で顔を狙う。
モニカさん、大ピーンチ。
「せっかく遊んでやっていたのに、思い上がって私に攻撃をしようとするとは……」
しかしモニカは体を起こし、その尻尾を掴む。すごい、でも弓矢の感覚もこれくらい簡単に掴んで欲しいな!
てか神様ついに本気出してくれるんだね! やっと旅がスムーズに進むようになりそう!
モニカはドワっちを地面に叩きのめし、そのまま至近距離から水の弓矢で攻撃をする。
「そうか! エイムがゴミクズ以下なら至近距離で狙えばいいんだ!」
「誰のエイムがゴミクズ以下だ! 私の矢は、必中だっ!」
大嘘をつきながらモニカに放たれた矢は、失神するドワっちの三センチ横の地面に刺さった。
「た、たまたまだ、たまたま!」
必中に「たまたま」はありましぇん。
「ゴミクズ以下って言葉に失礼! もっと雑魚エイムだった!!」
「ニーヴェルング、お前の白魔法で私のエイムを強化してくれ!」
まあ確かに威力は申し分ないと思うけど。でも詠唱とかめんどくさいし、なんなら俺、目的地までずっと神様に頼り切ろうとしてたからね?
それと、別に弓矢にこだわらなくてもよくない?
「水魔法で剣とか作れないの? それなら当てられるでしょ?」
「それだ! よく全知全能の穴を見つけてくれた!」
全知全能に穴はありましぇん。
この方、神話と下界のギャップが冗談抜きで天地の差なんですけど。
「えいっ」
それから思いっきり氷でできた剣で無防備なドワっち斬ってた。めっちゃグロかった。
「さあ、アンテルスはもうすぐだ。気合いを入れていこう」
「アンテルスに着いただけで燃え尽きないでね?」
そういえば、モニカがこっちに降りてきた経緯を全く訊いてなかったな。
「なあ、モニカってどうして下界に来たんだ?」
「それは……」
話せば長くなるのかな? 存在自体がネタみたいな神だし、めちゃくちゃ面白い話になりそう。
「……盟約に反する」
「じゃあさっさとそう言えやっ!!」
そうだった。互いに深く干渉しない、だったな。
でもこれって不公平じゃない? 俺のこと全部天界から見てて、自分のことは教えないなんて。
「全部上から見てたんだろ? ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃんか」
「ダメだ。盟約が守れないのなら、破棄になるぞ」
なんかさっきまでの神様見てたらそれでもいい気がしてきた。
「まあまあ、ちょっとくらいはいいでしょ?」
「むぅ……では少しだけ」
これ最終的に全部聞けそう。
「私は……ニーヴェルング、お前と共に旅をするためにこちらに降りてきた」
「と、言いますと?」
「お前は今から一世一代の大勝負に出る。最強の白魔導士であるお前の実の父でも、彼より強い王国最強の戦士でさえも敵わない、強大な敵との勝負だ。私はそのサポートをしに来たのだ」
サポート大失敗中だけど大丈夫だろうか。
「ちなみに今のサポートの満足度は何割くらい?」
「うーん……八割くらい?」
「今すぐ天界に帰ってちょーだい」
「まあまあ、落ち着け。あとの二割はすごいから」
絶対詐欺だろこれ。
「ちなみに、その敵ってどんなやつなの? てかなんでそいつは俺のこと待っててくれてるの?」
「私の認識能力でも、そいつの実態は計り知れない。だが、ニーヴェルング。やつがお前を待っている理由ならば、語ることができる」
「全知全能の認識能力でも計りきれないの……? それって全知全能じゃなほげっ?!」
「まあ黙って聞け」
思いっきり顔面掴まれた。この方、肉弾戦は普通に強そう。
怖いから正座して聴きます。
「いや歩けよ! 歩きながら黙って聞けよ! お前私のことバカにできないからな?!」
どっちもバカなのはちゃーんとわかってます。でもモニカのせいで立ち止まって何時間かロスしてるのも知っといて欲しい。
「わかったわかった。それで、そいつが俺を待ってくれてる理由は?」
「王・レウシスが、『まだこの王国にはニーヴェルングというめちゃくちゃ潜在性を秘めた白魔導士がいるから、もうちょっとだけこの国丸ごと食べるの待ってくれない?』と言ったら本当に待ってくれているらしい」
「魔獣倒す前にあのクソジジイぶっ潰す」
しかも「強い」とかじゃなくて「潜在性を秘めた」だって。タダで済むと思うなよ人格トライアングル。
皆様、いつも応援ありがとうございます!
本日、2021年7月27日をもちまして、拙作「ヴァイス」は一周年を迎えることが出来ました!
ここまで、いつも読んで下さる皆様のおかげでやってこられました!
本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!




