第三十一話『白魔導士は剣撃可能です』
よし、大量の装備着け終わって、出発の準備完了。たださすがに眼帯だけはローブの内ポケットに入れたけど。
「うん、オッケーだね! 今からターニュ、だよね?」
眼前には黒い魔女帽を被ったアズ。何かよくわからない桃色のふわふわがちょこんと付いている。お前魔導士じゃないだろ。
「今が夕方であることを考えなけりゃオッケーだろうな」
空を見ると、紅く染まっている。ターニュは山間の町。エリュトロンの巣は、その山の頂上にあるから、ターニュは経由地に最適なんだけど……そこに辿り着くまでに空は暗くなりそう。夜の山登りは危険だよ、絶対。エリュトロンと顔合わせる前に事故死とか笑えないから。
「あははっ、山登りとか夜でもできるでしょ〜」
笑えないからっ!
ってことで俺が押し切って宿屋で一晩を過ごした。もちろん部屋は別々で。白魔導士は潔白なのだ。
「よっしゃ行くぞオラァ!」
「ふわぁ……誰か殴ったりでもするの……? 今から山登りじゃなかった?」
お前が眠そうだから目覚ましにテンション無理やりハイに持っていったんだよ。
「まぁいいや、行こっか」
「そう来なくっちゃな」
ナリアトの外れにいた俺たちは、何の偶然かターニュへの道の近くにいた。ラッキー。ってことでその幸運にあずかってさっさと進もう。
二、三分歩くと、道路のレンガ舗装は途切れ、草原となっていった。確かこの辺は普通に魔獣がいるよな。出会ったら……倒さなきゃだよな。
「ねぇニーヴェ、退屈なんだけど……何かゲームしない?」
こいつに手伝ってもらうか……? バフをかけたら誰だって最強の戦士になるし……うーん。
「ニーヴェ〜。またアレやろうよ〜。アレアレ、『魔導士しりとり』!」
いや待て待て。いつまでも白魔法に甘えてたらエリュトロンには勝てないぞ。ここは男らしく剣で戦うしかないだろ。よし、決めた! 絶対剣で戦う!
「もう、つれないなぁ。勝手に始めちゃうよ? 『ニーヴェルング・ヴァイス』!」
「いやうるせぇよ! 俺ずっと違うこと考えてたんだよ! しかも何だよ『魔導士しりとり』って! 生まれて初めて聞いたわ! そんで『ス』から始まる魔導士とか覚えてねぇよ! 一ターンで詰むようなゲーム持ってくんじゃねぇぇぇえっ!」
ツッコミどころ満載すぎて息が切れそう。
「ご、ごめん……」
あ、言いすぎた。俺って本当ダメだな。アズを泣かせちゃったじゃないの。
「こ、こちらこそ、ごめん。アレだったら俺のこと殴ってもいぶごっ!」
言い終わるまでに暴力しないで。頭上から強大な力を叩き込まれたんだけど。地中に埋まるかと思った。地底人として残りの人生を生きていかなきゃいけないかと思った。
「は〜、スッキリぃ〜」
いつか痛い目に遭えばいいのに。てか俺が一人で魔獣倒す可能性よりアズが素手で魔獣倒す可能性のが高そう。
なんかアズがこっち見てるし。ニーヴェくん寿命かな?
「よっしゃ行くぞオラァ!」
俺のセリフパクりおった! めっちゃ怖ぇえっ! 歩いてったし! ついてかないと!
ってことで本当に半分地中に埋まってたブーツを引っ張り出して走ってついて行こうとする。
周りは草原から森林になっていく。木々の間から、目指す山が見えてくる。しかし、肝心のアズが見えてこない。あいつ歩くの本気出したら馬車より速いぞ。ガチの化け物やん。
くそっ、日が暮れるまでにターニュまで行かなきゃならねぇのに!
「どこにいるんだよ、アズ〜!」
そんな俺の叫びは静かな森の中に響き渡り、
「ニーヴェ〜、助けてぇ〜っ!」
それに対して木霊が返ってきました。反復じゃないのがおかしいな。
まぁ冗談は置いといて、アズが俺に助けを求める状況とか詰みなんで。人生終了のお知らせなんで。
でもとりあえず声のした方へ走る。装備が重たい。
「はぁ、はぁ、はぁっ! アズ、どうしたっ?!」
少し開けた場所に、アズはいた。木に縛り付けられて。そんなアズと俺の間には、スピーテコ――のようで毛色が赤ではなく青のおサルさんがいた。
「なるほど、お前がアズを。いや、わかるわかる。こいつ一回お仕置きしとかないとダメだよね。うんうん。いやぁ俺の代わりにやってくれたのか、偉いぞお前」
サルの頭をポンポンする俺。
「ウキャキャッ」
わぁめっちゃ嬉しそう。こいつ、子ザルなのかな。可愛いなぁ。ちょうど空席になった旅のお供に加えたい。
「何が『わかる』よっ! 感情移入してんじゃないわよ! そいつは私を捕らえたのよ?! 早く倒してよ!」
アズが踵で木を蹴りつけまくって喚く。んもう、しょーがないなぁ。
「ウキー?」
なんて無垢な上目遣い。「ボクなにかしましたか?」だって。まるで俺がこれから倒すことを諦めさせようとするみたいな仕草。
「可愛――なーんてな。アズを拘束した罪、その身で償ってもらうぜ」
そう、俺は最初から騙されてなんかいなかったんだよ。剣を抜き放ち、サルと対峙する。
「ウキーッ!」
さっきまでのあざとさはどこへやら。子ザルは牙を剥き、その目は血に飢えている。
そう来なくっちゃな。ここまで来てまだサルの態度が変わらなかったら……もしかしたら騙されてアズじゃなくてこいつ持ち帰ってたかも。
「ニーヴェ、ちなみに戦えるの?」
ああ、戦えるさ。俺がどれだけイメトレしてきたと思ってんだ。
「ウキーッ!」
サルが飛びかかってくる。剣を地面に水平に持ち、サルの真ん前に構える。
「何してるのよ! やられちゃう!」
いや、やられないさ。自然と笑みが零れる。俺は素早く、サルにスピードアップのバフをかける。
「ウキッ?!」
想定より早く動く自分の体に、一瞬戸惑うサル。しかし、空中で目標を引っ掻くムーブのまま近づいているのは変わらない。
そんなサルに刃が当たるように、俺は横に飛びすさぶ。
「ウキャッ?! ウキーッ?!」
サルは体勢を変えること能わず、無事に剣の露と消えましたとさ。
「お、俺が……ようやく魔獣を倒した……?!」
ちょっと自分でも実感が湧いてないんだけど。普通に失敗すると思ってた。さっきまで死亡フラグの摩天楼築き上げてたから。
「す、すごいよ! これならエリュトロンも倒せるんじゃない?」
「馬鹿か。エリュトロンって火属性なのに、水属性の騎士でも倒せないって話聞いたことないの?」
「え、そうなの?! 頑張ってね!」
他人事かよ。道連れにしてやろうか。まぁここまで来たら自信がついてきたし、負けるつもりはない。
「さてと。頑張るからその頑張るお手伝いをしてくれ」
「はいはーい」
そうして俺たちは歩き出す。
「で、何をどう手伝えばいいの?」
「いや、俺と一緒に歩いてるだけでいいけど」
「え、それだけでいいの? らーくちん」
お金の管理者が横にいてくれりゃ安心なだけなんて言えない。
「お、おう。それだけで俺は幸せだよ」
アズは微笑する。彼女の笑顔は木漏れ日と相性がいい。
「ふふっ。いやぁ、嬉しいなぁ。まさかニーヴェにそんなこと言われるなんてね。…………なんか隠してない?」
あれ? 何、なになになに? いや焦る焦る焦る。そんなことないって言わなきゃ。
「そんな馬鹿な。アズとお金を等号でがっちりと結んでるだけなんて死んでも言わないよ」
滑りやがったな俺のフリーダムマウス。
頬が吹っ飛んだ音が軽やかに天高く舞い上がった。湯気と一緒に。
そんな俺が生きていたとしたら、もうそろそろ山を登ることになりそうだ。陽は真上から俺たちを照らす。このままいけば、日没までにターニュに着ける。俺の生存に期待しててね。




