第三十話『魔導士たちは対等です』
お願いだ……っ! この俺を、弟子に……ッ! そうすれば俺はソロクエストのクリアなんて余裕ででき
「え、無理無理無理、ないです、ごめんなさい」
…………えっ? 断るタイプの人じゃなくね? 快諾百パーセント予想だったんだけど?
椅子に崩れ落ち、空を仰ぐ。あれ? 何で俺周りからフラれたみたいに見られてんの? おかしくね? 行くとこ行くとこで周囲からヤバいやつ認定受けるのやめたい。
「すみません、気まずい空気の中お尋ねしますが、あなたも自己紹介……どうですかね?」
そ、そうだよな。向こうがしてくれたんだから気まずいけど俺もやらなきゃだよな。
「俺はニーヴェルング・ヴァイスだよ。白魔導士で――白魔導士って知ってる?」
レアな職業らしいので一応質問して顔をあげると、目をキラキラ輝かせるリオンが見える。
「もしかして……あのニーヴェさんなんですか?! 自強化ができないけれどそれを逆に生かしてパーティを勝利に導く神のような存在の?!」
いや近い近い。鼻息が目にかかって何ともいえないような気持ち悪さに寒気が爆走中なんだが。
「何? パーティ組んで〜とか言い出すの?」
またしても簡単に正体を明かした自分を呪いたいけど俺は黒魔導士じゃない。この後、いつもならみんなパーティに勧誘するんだけど……
「いえ、僕はニーヴェさんがソロクエストに挑戦中っていうの知ってるんでそんな失礼極まりないことしません」
こいつ天使か。俺の脳内天使の数千倍天使だぞ。
「ねぇ、今ニーヴェって言わなかった?」
「私も聞こえた!」
「俺も! あいつ白いから、すぐ見つか……あっ! いた、ニーヴェだろあいつ!」
「「「「「ニーヴェだと?!」」」」」
あ、ひそひそ声忘れてた。ちなみになんで俺も禁止ワードになってるのかな?
残り一個と半分のサンドイッチを口に詰め込み、席から勢いよく立ち上がる。代金は先払いしたから、後は逃げるだけ。逃走の景気づけとばかりに俺は叫ぶ。
「人違いですっ!!!」
掃除のよく行き届いた木の床を強く蹴って、そのまま走って食事処の扉を開ける。外に出ると、斜め上から照る陽光が眩しい。
そのまま次の町、ターニュまで行こうかと思ったけど、お財布役を置いていくと後々困りそうだな。
「アズ、捜さなきゃ」
後方から足音が轟く。まずい、ヤツらに捕まってこれ以上の時間ロスをすることは何としても避けなきゃいけない。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
ローブで蒸し焼きにされそうになりながら、人通りの多い昼の街道を突っ走る。俺の脚が疲れていくにつれて、諦めたのか少しずつ足音が減っていく。それでもまだ二十人ほどが追いかけてきている。
迷惑だよ、みんな。ここが街道なの考えようね。街ゆく人たちにぶつかっちゃうよ。こうなるとわかってて街道に入ったのは俺なんだけど。
「はぁ、はぁ、お前ら! いい加減にしろっ! 俺を追いかけるとか暇か! 追っかけるならもっと美少女を追っかけろ!」
後ろも向かずに叫ぶが、「待てニーヴェ!」「ニーヴェくーん!」といった声しか返ってこない。
もうそろそろナリアトを南北に縦断しそう。結構走った。中のシャツは汗でぐっしょり。足元は覚束無い。後ろの人たちもひぃひぃふぅふぅ言ってる。そこまでして勲章が欲しいか?! なんて、俺も今欲しがってるんだから言えない。
一旦横道に逸れる。細い、暗い裏路地。人の群れに紛れて入ったので、見つかるまで少しだけ休憩できるはず。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぃ〜、疲れたぁ」
「お困りですか?」
「そうなんだよ、めちゃめちゃ困っとぅえぇっ?!」
声のした方にはリオン。重そうな黒いローブを着ていて、まあまあ暑かったにも拘わらず、その額には汗ひとつ流れていない。走ってなきゃ俺に追いつけないはずなのに。
「アズ、という方をお探しなんですか?」
まぁさっきまでアズアズ言いながらキョロキョロして走ってたら容易にわかるわな。
「そうそう、そうなんだよ。青い髪と真ん丸青眼の美少女なんだけど……ってかリオン、どうやってここまで来たの?」
「えっと、走ってきただけですが」
化け物かな? 一人で魔獣を蹂躙してるだけはあるね。
「やっぱり俺の師匠になっ」
「さて、人捜しならば、お手伝いしますよ。それと……」
リオンは手を差し出す。顔には、俺が初めて見る彼の笑みが浮かんでいる。
「ソロクエストクリアを目指しているのならば、あなたにとって僕は目標でしょう。しかし、僕にとってはあなたこそが目標なんです。何が言いたいかといいますと……そうですね、僕らは師でも弟子でもなく、対等なんです!」
よくもまぁそんな恥ずかしいことを。でもそんな思考とは相反して、俺も笑みをこぼしてしまう。
「わかった、リオン…………協力してくれないか?」
リオンの手を取り、言う。プライドが傷つくなんて思わない。今は俺は、人の手を借りることしかできないのだから。
俺たちは、対等なんだから。
「もちろんです。僕らは今パーティでない、ただの協力関係にありますからね」
数秒間手を強く握りあった後、手をゆっくり離してリオンは言う。
「それでは、まずは追っ手から逃れるため、存在感を消すデバフをかけます」
「それもうデバフであってデバフじゃないよね?!」
こんなにいい方向に働くデバフかかったことない。
リオンは笑う。
「はい、僕もこんなに役立つとは思いませんでした」
「それで、次は?」
俺の問いに、頼もしいリオンは――肩を竦める。
「す、すみません……あとは自力で捜すしか」
「なんか思ってたのと違った! もうちょっとサポートしてくれるのかと思ってた! いや存在感消すだけで全然ありがたいけど!」
「……本当に申し訳ございません。僕もお捜ししますので」
いや、悪いのは強欲な俺だ。何もかもが思い通りにいくなんてそんなはずは
「あの人、違います?」
「ん? いくらなんでもそんなすぐには……」
リオンが指す、街道に佇んでいる人物を見ると、確かに青い瞳に青い髪の持ち主。その手には、見たことのある黒い鞄と、見たことのないくらい白く輝く高そうな盾と胸当てとレギンス。なーんかいっぱい抱えてるけど。
「なんであんなとこにいるんだあの散財アズちゃんは」
こうやって思い通りに動くから人間は勘違いすんだぞ。ただあいつは俺の思った通りの買い物なんてしてるはずないけど。
「たぶんあの人何百万ゴールドかは使ってますよ」
「ま、まぁでも、とりあえず見つけられてよかったよ。リオン、ありがとう」
「いえいえ、お易い御用ですよ。ソロクエスト、頑張ってください」
互いに手を挙げて、軽い別れの挨拶。きっとまた出会えるさ。俺がエリュトロンに殺されなけりゃの話だけど。
……なんだかんだ、最近会った中で一番まともかもな、こいつ。
目は何度か合っているはずなのに、全く話しかけてもこないし、無視してるような仕草も見受けられない。なるほど、存在感を消すデバフってすごいんだな。
そう、俺は今、アズの目の前にいる。
「うーん……色んな人がこの辺りで見たって言ってたんだけどな……ニーヴェどこ行ったんだろ……」
「ここだよ」
「うわっ! ニーヴェ! え、なんで?! どうやって現れたの?! もー、私を待たせた上でこんなに驚かせるとかさ〜」
俺を汚物扱いするような「うわっ!」は是非とも今後言わないでいただきたいね。でもさすがにアズには好感を持たれてるはz
「――死ねばいいのに」
「まだセリフ続いてたの?! しかも今まで築き上げてきた好感はどこに?!」
誰かと交換しちゃった? 好感だけに。うん……はい、死んできます。
「ん? 好感? そんなのさっき一瞬で蹴り飛ばしたけど」
そうだ、こいつはこういうやつだった。
「まあまあ、冗談だから許して。はい、装備買っておいたよ!」
アズは盾、胸当て、レギンス、薬草五袋、短剣、ブレスレット、アンクレット、ピアス、帽子、帽子用の飾り、兜、マント、眼帯、
「いや多い多い多い」
などなどを渡してきた。
「どう? これだけ買っておけば大丈夫だよね!」
買い過ぎが大丈夫じゃないってのがわかんないんだね。
「ごめん、二、三点ツッコミいい?」
「う、うん。何か問題点あったの?」
「大ありじゃぁぁぁ! 何だよ『眼帯』って! 視野狭めるだけのただのセルフデバフアイテムじゃねぇかっ! そんで何だ『帽子』って! 兜買ってんのに帽子要らねぇだろ! 俺はケルベロスかっ! それといくら使った?! 湯水の如くってよく言うけど湯水なんて可愛いもんだわ! 森林火災より派手に使いやがって!」
何故か脳裏にイグナがチラついたけど気のせいってことにしとこう。
「うーんとね、帽子は私が被るんだ!」
もう俺こいつの相手無理ぃ。




