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和平決裂

 ~翌日・旧校舎~


「そうですか……そのような事をね」


 昨日の交渉内容を千葉に伝えると、彼は深く頷いた。


「それで……貴方の見解は?」

「……申し訳ないですが、個人的には井川と手を組むつもりはありません」

「どうしてですか?」

「奴は自分の利にならないもの、害するものは徹底的に排除します。そんな人間と手を組んだところで、目指すべき世界が手に入るとは思えません」

「うむ……まあ、その片鱗は他の方々からも聞いています。ですので、私としても井川氏が危険な人物であるという認識は変わりありません」

「……………………」

「しかし、私達の限界が近いのも事実です。いきなりの枯渇ということにはなりませんが、物資の残りも心許なくなってきていますからね」

「ええ、それは分かっています……」


 探せる場所は、とうに尽きている。

 自活のためにと始めた農耕も、軌道に乗っているとは言い難い状況だった。


「それは、先方も同じはず……ならば、手を組めるのではないかとも思ってしまうのですよ」

「お気持ちは分かります。しかし、井川が求めるのは共闘ではなく従属です。奴の奴隷に成り下がらなければ、利用されるだけされて終わりですよ」


 能美のアジト、トニー達の基地を襲った時のやり口を鑑みれば、共に歩める人間ではないと子供でも分かるほどだ。

 とは言え、そんなことを言っていられる余裕が無いのも、井川から俺達へと歩み寄る気が皆無なのも事実だ。つまり、井川の言う通りの選択肢しかないのである。


(恭順か 闘争か……)


 出来れば、どちらも御免被りたい。

 しかし、答えを出すまでの期日は限られているのだ。


「とにかく、この件に関しては私の方でも考えてみます。なので、事情を知っている方以外には口外しないよう願います」


 それは同意するところだ。

 こんな情報が皆の耳に入ったら、それこそ混乱状態になってしまう。


「では、通常の任務に戻ってください。お疲れ様でした」

「はい……失礼します」


 そう言って立ち上がると、俺は退室した。

 最善の答えを探しながら――



 ―――*―――*―――*―――



~~~その頃の井川陣営は~~~



「失礼いたします」


 図書室で本を読んでいると、キッチリとスーツを着込んだ男が入ってきた。そして、迷いのない足取りで井川の側まで来ると、何かの書類を手渡した。


「ご依頼いただいた書類をお持ち致しました」

「ああ、ご苦労」


 形だけの労いの言葉をかけながら、渡された書類に目を通す。

 そこに記されているのは、農作業で得られた穀物等の量や、物資調達で手に入れた食料の総数。それに対しての消費量などを纏めたものだった。


「……やはり、圧倒的に量が足らんな」


 数字を見つめること暫し、井川は単純な答えを導き出した。


「はい、生産量・調達量と消費量のバランスが全く取れていません。このままでは、いずれ底を突くかと……」

「つまり、早急に手を打つ必要があるわけだ……」


 分かっていたことではあるが、こうして数値で示されると気が重くなるのを感じる。


「そのための交渉……だったのではございませんかな?」

「フンっ……あのような お遊びで従属するような相手ではない。ただ揺さぶりを掛けただけだ」


 事実、夜が開けたが何の音沙汰もない。

 まだ迷っている段階かもしれないが、少なくとも彼が井川の足元に跪くとは思えなかった。


「やはり、ここは直接的な手段に出た方が早いか……」


 余裕が無いのならば遊んでいることもない。一気に肩をつけてしまうのも悪くはないだろう。


(少し残念な気もするがね……フフフ……)


 不敵に笑いながら、井川は計画を練り始めた――



 ―――*―――*―――*―――



  ~~~その日の夕方~~~



「はあ……完全に空振ったか」

「フフフ……お疲れ様でした」


 俯いて落ち込む《彼》に、雅也は労いの言葉をかける。

 近場だが2人で物資調達に出掛けてみたものの、何も手には入らなかったのだ。やはり、近所に関して言えば掘り尽くしたと見て間違いないようである。


「もう、ここら辺じゃ無理なのかもな……」


「そうですね……少なくとも、この街では……」


 言いながら思いを馳せるのは……新天地だった。

 ここではない別の街――今まで生きるのに必死で出ることすら考えていなかったが、そろそろ旅立つ時が来たのかもしれない。


「ま、そのためには武器も物資も人手も足りないんだけどねぇ」


 そう言いながら肩を竦める彼に、雅也は思わず笑みを浮かべる。そんな相方の姿を見て、彼も笑みを浮かべながら持ち出した武器を仕舞うために校舎へと向かおうとした。


 だが、その時――


「きゃぁぁぁッ…………!!」


 突然、悲鳴が響き渡った。何事かと思って視線を向ければ、そこには信じられない光景が広がっていた。


「うけけけ~ッ!!」

「肉肉に~、食べ食べ~!!」

「腹減った減った減った~ッ!!」


 どこから現れたのか、半熟が3体 グラウンドの中へと入り込んできていたのだ。


「半熟だと!?」

「クソッ……奴等 どこから!?」

「非戦闘員の皆さんは速やかに校舎へ! 速く!!」


 一気に混乱を極めるグラウンド。

 その光景を見つめながら、雅也は何かが頭の隅に引っかかっていた。

 それは、言わば直感。最も雅也らしくないモノだ。故に、すぐに信じて実行することが出来なかった。


『トニー、奴等を校舎に入れるな! 撃て!!』


 《彼》の指示が大気を激しく揺れ動かす。

 それを耳にした瞬間、雅也は突発的に叫んでいた。


「待ってください!! そいつらを撃ってはいけません!!」


 滅多に聞くことのない雅也の大声。

 だからか、その場に居た全員が動きを止めた。


「ここで始末してはいけません! 人気の無いところまで誘導するんです!!」

「どうして――」

「いや、春喜 ボス! 雅也の言う通りにしてくれ!」


 そう言うと、トニーは自らが率先して、半熟の足に狙いを定めて撃ちながら後退を開始した。


(トニー……)


 恐らく、彼も同じ結論に至ったのだろう。

 奴等は――基地を襲撃したのと同じ変異体だと。


「ムムム……よく分かんないけど、やるしかないか!!」


 無理矢理に納得したのか、春喜を始め、他のメンバーも牽制射撃を行いながら裏山の方へと後退していく。その様子を見ながら、雅也は友恵に声を掛けた。


「貴女は森の中に先行してください。トニーが合図を出したら、奴等を始末するんです」

「……分かった」


 理由を問う場面ではないと理解しているのか、友恵は素直に頷くと、彼等とは別ルートで森の中へと入っていった。


(後は任せましたよ……)

そう心の中で呟きながら、雅也は彼等のことを見送った――

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