表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/64

突破


 ~1時間後~



 俺だけがリビングに移ってから一時間。未だに二階から能美が降りてくる気配はなかった。幾度か様子を見に行こうかとも思ったが、空気を乱すのも気が引けて結局は待つことしか出来なかった。


 だが、その時――


「えあぁあぁああ…………!!」

「あぁああぁぁ…………!!」


 今となっては聞きなれた声を上げながら、ゾンビが庭に姿を現した。それも一体や二体ではなく、かなりの群れが。


「チッ……仕方ねえ」


 空気を読むとか言ってられない状況だ。

 俺は階段を駆け上がると、先程の部屋へと入った。


「能美ッ!」


 騒がしく入室したというのに、能美は反応を示さなかった。ただ、床に寝ている弟の姿を見つめているだけだ。


「おい、しっかりしろッ! ゾンビが群れで来やがった。早く逃げるぞッ!」


 敢えて、大声を張り上げる。しかし、それでも能美は何も言わなかった。


「おい、能美ッ!」


 堪らず肩を掴んで揺する。

 すると――


「……お前は行け」

「なに……?」

「俺は残る……お前だけで逃げろ」


 そう言うと、能美はポケットから車の鍵を取り出し、俺の足下に投げた。その様子は、すべてを投げ出した人間のソレだった。


(コイツ……フザけるなよッ!)


 何もかもを諦めたような姿に、俺の怒りが一気に沸点まで押し上げられる。自分でも制御出来ない感情の昂りに、身体が勝手に動き出した。


「いい加減にしろよ、テメェ!!」


 大声で怒鳴りながら、能美の胸倉を掴んで壁に叩き付ける。


「なに悲劇の主人公を気取ってやがる! そんな事をして何になるってんだ!」


 らしくもない衝動。だが、その理由は すぐに分かった。もし、華菜や雅也が同じようなことをしたら――そう思ったら、感情が爆ぜてしまったのだ。

 しかし、そんな俺の気持ちなど分かるはずもない能美は、腑抜けた態度から一変、俺を睨み付けてきた。


「お前に……お前に何が分かるッ!!」

「何も分からねえよッ。でもな、分かる必要もない。俺も……お前もな」

「……どういう意味だ?」

「自分のために逃避するなって言ってんだよ。今 考えてやらなきゃならないのは、弟の気持ちじゃねえのか?」

「昭人の……」

「お前 言ってたよな? 俺は弟を大事にしてて、弟は俺を尊敬してくれてたって」

「あ、ああ……」

「そんな風に思い遣り合っていた相手が、自分のために死ぬなんて事になったら どう思うよ? お前は喜べるのかッ?」

「そ、それは……」

「お前がやるべき事は、辛さから逃げることじゃなくて、弟の存在を抱えて生き続けることなんじゃねえのか?」

「……………………」

「何もかもを忘れて消えちまうのは簡単さ。でもな、それをしちまったら、弟まで消えちまうんだぞ。誰からも思われなくなるってのは、そう言うことなんだよ」

「俺が死ねば……昭人も殺してしまう……」

「ああ、本当の意味でな」


 俺がハッキリ頷くと、能美は少しの間だけ目を瞑った。

 その様子を見て、俺は胸元を掴んでいた手を離し距離を取った。時間がないのは事実だが、答えが出るまでは待ってやりたかった。


「昭人……」


 時間にして1分弱、能美は決意を固めた表情で弟の身体を抱き上げると、柔らかにベットの上へと寝かせた。


「もう、お前には会いに来れないかもしれない……でも、俺は決してお前を忘れない。どこに居ても、お前を思い続ける……それだけは誓うよ」


 どこまでも透き通った声色。それは、確固たる思いを抱いた者のみが発すことの出来る、強く美しい音色だった。


「……………………」

「……………………」


 無言のままに能美の目を見る。そこに、先程までの迷いはなかった。


「……行けるか?」

「ああ、大丈夫だ」


 短く、だが しっかりと頷く能美。そんな彼に俺も頷き返すと、共に玄関から外へと向かおうとした。


「ぐがぁぁああ…………!!」


しかし、1階に着いた瞬間、玄関のドアを押し破りゾンビが雪崩れ込んでくる。


「クソッ……!!」



『―――――――――ッ!!!』



 銃を抜き取り、トリガーを連続で引き絞る。緊急時の集中力の賜物か、早撃ちが綺麗に決まった。

 しかし、喜んではいられない。倒したところで次から次へと侵入してくるからだ。


「玄関は無理だ。勝手口から出るぞ」


 冷静な判断。俺は能美の言葉に頷くと、彼の後を追いかけた。


 しかし、能美が入ったのは和室だった。

 畳の香りは何処となく落ち着きを取り戻させるが、今は一服している時ではない。


「なあ、こんな所で――」

「まあ、焦らずに少しだけ待ってくれ」


 そう言うと、能美は和室の奥へと向かった。

 そして、袱紗に包まれた細長い棒状のものを持って帰ってきた。


「なんだ、それ?」

「親父が趣味で集めていた日本刀だ。歴史あるものじゃないがな、名匠と呼ばれる人物に作ってもらった逸品さ」

「ふぅん……でも、扱えるのか?」

「これでも剣道と居合いを十年以上やっている。心配はいらん」


 そう言うことなら、頼もしい戦力になりそうだ。


「よし……じゃあ、行こうぜ」


 改めて銃を構えると、俺は能美の先導で勝手口から外へと出た。

 しかし、通りに出たところでゾンビに行く道を塞がれる。焦って引き返そうかと思ったが、能美の家に群がっていた連中が そちらの道も塞いでいた。


「……仕方ない、倒して進むぞッ!」


 言うと同時に、俺は銃を構えてトリガーを引いた。

 乾いた破裂音と共にゾンビの頭が吹き飛んでいく。


「はああああああッ!!」


 裂帛の気合と共に能美が太刀を振るう。

 その鋭くも重い一撃は容易くゾンビの肉体を切り裂いた。


(これなら行けるかもな……)


 頼りになる〝剣豪〟と背を合わせながら、俺は不敵な笑みを浮かべた――



 ―――*―――*―――*―――



 ~~~30分後~~~



「はあっ……はあっ……!」


集中と緊張により擦り減っていく体力。

しかし、その苦行も あと少しで終わる。何故なら、前方の道を塞いでいたゾンビの壁が明らかに薄くなっているからだ。


「能美、一気に抜けるぞッ!」


 言うと同時に、俺は銃を横向きに変えてマズルジャンプを利用した掃射を行った。

 全員は無理だったが、それなりの数を薙ぎ倒すことに成功した。


「残りは任せろッ」


 後ろに控えていた能美が一気に間合いを詰める。

 力の流れを利用した連続した斬撃。頭を、胴を真っ二つに斬り裂き、ゾンビを一瞬にして無力化してしまう。


「やるじゃんか……」


 そう呟きながら、俺は完全に開かれた道を能美と共に駆け抜けた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ