戦いの準備-3
意識が戻って1時間は過ぎていた。
それでもまだ覚め切らないマリーの脳内。それでもお腹は空くもので、用意されていたスープを静かに喉に運んでいた。
あの衝撃が忘れられない。
地上に出てきた時に感じた荒々しい絶望。
胸にグサグサと刺さる悲痛な魔力。
止まらない叫びを聞かされているようだった。
耳を塞いでも全身に浴びせられたようで、意識を保てたのが奇跡だったと思える。
あれほどにも魔力が暴走するのかと恐怖した。
マリーは小さく縮み込み体を両手で包み込んだ。
扉を叩く音。
「はい。」
「俺だ。」
「多分空いてると思うよ。」
扉がゆっくりと開かれ、驚いた表情のクュオが見えた。
「大丈夫か?!」
なぜ彼がそこまで驚いているのかマリーには理解できなかったが、よくよく考えれば処置が終わってびしょ濡れの病衣にバスタオルを巻きつけたままの姿で1時間もいたのだから驚くのも当然だった。
クュオはマリーのそばへ駆け寄り静かに抱きしめた。
「クュオ??」
「君の全てを代われたなら…」
強い彼の気持ちが全身で感じられる。
マリーは静かに瞳を閉じてその温もりに身を委ねた。
「ありがとう…。大丈夫だよ…。」
「あまり無茶しないでくれ…」
泣きそうなクュオの顔を見てマリーは意地悪な笑みを返す。
「無茶するよ〜。だってアタシ達の未来がかかってるんだよ〜??手なんか抜けないでしょ?」
「…そうだな。」
クュオはもう一度強くマリーを抱きしめた。
「クュオ〜。何か話があってきたんじゃないの〜??」
「あぁ。よくわかったな。」
「クュオのことだもん。用事がない限り絶対遠慮して会いにきてくれないもん。当たってるでしょ〜?」
「その通りだ」
ムスッとしたマリーに申し訳なさと恥ずかしさが混じったクュオの小さな声。
マリーはにっこり笑った。
「でどうしたの??」
「これをモドガノフ殿から君にと…」
差し出されたのは手紙だった。
差出人を見ると父の名前。
会議の場で少しだけ父と会うことができたが何も話せないでいた。嬉しさですぐに手紙の封を開けた。
〜
マリー
元気そうな姿を見れて私は本当に安心したよ。
少し見ない間にマリーもコロッツィオもずいぶん大きくなって。嬉しい限りです。
けれどね、マリー。
今父さんの手は震えています。
− ??震えてる??
マリーはモドガノフの身に何が起きたのか不安でいっぱいになり、手紙の続きを読み始めた。
〜
今私はレナトゥス時の衝撃を抑えるために村で施した結界と同じ結界を構築するための準備をしています。
そう。君が初めてつくりあげたあの魔法を皆で作り上げるのです。
胸が熱くなった。
それはマリーとコロッツィオ。黒と白が手を取り合ってできた唯一無二の魔法だったのだ。
手紙は続く。
〜
あの時マリーの言ったザルアとソリティアの共存の夢は、実現しているんだよ。今、必死になってみんなが術式を覚えているんです。
今はクュオくんと共に指揮をしています。
マリーは嬉しくなってページをめくった。
〜
けれども父さんは心底驚いたよ。
私はクュオくんからいきなり父上と呼ばれたんですから。
「わー!!!!!クュオ!!!!」
モドガノフの言葉にボンヤリした頭が急激に冷めていった。突然の口調の変化にクュオは笑った。
「いや!笑うとか!じゃないし!!父さん何も知らないんだよ!ど!どうしよう…」
クュオは笑って手紙の続きを読むよう催促した。ムッスリ顔でマリーはクュオを睨みつけ、重たいため息を吐き出して手紙に視線を移した。
〜
クュオ君には私からキツく言っておきました。
「君とマリーの結婚はまだ許していません。だから父上とは呼ばないでくれ」
とね。けれど誤解はしないでほしい。私は君たちの結婚に反対はしていないんだ。むしろマリーの生涯の伴侶となるだろう人がクュオ君で嬉しいと思っていますよ。
今回の旅でマリーに何が起こって何故、ザルアの国王であるクュオ君と結婚の話がでてるのか、父さんはわからないことだらけです。
この戦いが終わったら全て教えておくれ。
モドガノフ
−追伸−
マリー。私は君の本当の父親ではないけれど心から君を愛しているよ。
〜〜〜
ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
モドガノフからの手紙をギュッと胸におしつける。嬉しいのに涙が止まらない。
クュオが優しく体を抱き寄せてくれる。
「必ず勝とう…」
「へへ…もちろんだよぉ〜」




