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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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〓もう一つの戦い-1〓

もう一つの戦い。シュアトルの小話です。


目の前に広がるのは暗く冷たい壁。

蛍光灯の薄暗い灯だけが広がっている。

鉄格子の向こうは人がいない代わりに、無数に配置された監視カメラが定められた場所を見つめている。


シュアトルが気がついたのは今さっき。所持していた武器や時計さえも取り上げられ、牢屋に投げ捨てられていた。

どれだけの時が経ったのもわからない。

体はどこも痛くなかった。

それもそうだ。医療塔にいる奴らの手にかかれば気がつかないうちに意識を止めらることなど朝飯前だろう。


深く息を吸い備え付けられていた簡易ベッドに座り込んで考えを巡らす。怒りはありがたいことに落ち着いている。


ー考えるんだ。

ーどうやったらここから出られる?


シュアトルは自分の靴がそのままなのを確認した。ここを突破できるだろうか?

現在自分が居るのは医療棟の空中牢だろう。

牢獄は城内にも医療棟にも存在するが、そのすべてを把握しているシュアトルであれば今自分がどこにいるか理解するのは難しいことでなかった。


医療棟にある牢獄は主に被験者置き場だ。

重大な犯罪を犯した者たちへの刑を執行するために連行される場所。

その中でもこの空中牢は脱獄のできない作りにされている。外へ出る手段が一つしかない。それは屋上への扉だけ。

扉へ出たところでどうなるのだ。

ここは地上200m。外へ出たところで移動の手段がない。しかしこれしか方法はないのだ。


手持ちの武器は捕まった際に取り上げられている。これでは神無月や葉月と連絡が取れない。


「私が動けば…動いてくれるはずだ…」


唯一の救いにすがるしかなかった。

不安が駆け巡る。けれども考えてはいられなかった。


両方の靴のカカトを地面に勢いよく押しあえてると外側面から二本の細長い筒と無数の長い針が出てきた。筒を繋げレーザーソードの準備は整った。

針を筒の中に入れ、監視カメラに照準を合わせ、ボタンを押し込む。勢いよく発射された針は見事カメラに命中し点滅する。そして全てのカメラに針を刺したことを確認すると、またボタンを押し込むと辺り一体が爆発音に包まれた。

大きな音で響く警報を無視してシュアトルの腕は動く。ボタンを二度押し筒から出る青白い光を右から左へ左から右へ。バラバラと崩れる鉄格子を飛び越え外の世界と急ぐ。


しかしそう簡単には外へ続く扉へはたどり着けない。目の前に現れたのはあの忌まわしい兵器。


≪エクセリクシ≫


シュアトルの脳裏に浮かぶ禍々しい記憶。そして最後の記憶。


あの女と医療棟所長シュナからの報告を受けるため、レルエナ国王とその子達が医療棟地下に呼ばれたのだ。父親と兄がなぜあんなにも意気揚々なのか理解ができないでいた。2人の背中を見ながら力なく歩くシュアトルはこのプロジェクトについて何も知らされていなかったのだ。それに加え連日潜水艇の開発に携わり楽しくはあったが、体力的に限界が近づいていた。


楽しげにと語るシュナ。

開かれる扉。

仄暗い部屋の隅々にまで置かれた天井まで伸びる大きな管で繋がった水槽はその数を数えるのを諦めたくなるほどだった。

さらに奥の部屋へ向かうため水槽の間を突き進む。目に映る得体の知れない化け物。

人のようで獣のような…どの個体も頭の傷が痛々しかった。

話すシュナの声が聞こえなかったが前の2人はとても喜んでいる。とても良い兵器なのだろう。何度まぶたが落ちそうになったかわからない頃、シュナの声が突然興奮したのを覚えている。


「この部屋の兵器はここにいるものとは比べものになりません!!なんせ素材が格別ですから!」


嬉しそうに扉を開く先には先ほどよりも一回り大きな7つの水槽。


眠気が吹っ飛び瞳孔が大きく開かれる。

鼓動が早くなる。

息が荒くなる。


「許可していただいた国王様の期待に応えられた出来となっています。」

「これが無月を使ったエクセリクシ、ドゥルガシリーズです!!」


消え入る声を無視してシュナは意気揚々と語る。


「先日の戦いで損傷の激しいコード3は、ポリアンが喜んで買い取って行きましたが流石に壊れたようで…

「何を…言っているのだ…?」


不思議そうなシュナ


「何って…エクセリクシの報告ですよ?シュアトル様もご協力感謝しますね。」


見開いた瞳に映るのは憎たらしいほど皮肉を交えたシュナの笑顔。


「いつ…私が…許可した…?」

「お前の許可など不要だ。」


目も合わせてくれない父の声が冷たく刺さる。


「お前の部下であるのならば、余の部下でもある。部下の使い方は余が決める。貴様に決定権などない。」


ー何を…言っているのだ…?


「そういうことです。それよりも先ほどから申している通り神無月と葉月を呼び出してくれませんか?中々捕まらないのですよ〜。」


「そんなことできるわけ

「見苦しいぞシュアトル。エクセリクシは我が国の主戦力となるのだ。早く献上しろ!」


ティアトルの冷たい眼差し。

横で微笑むシャザンヌ。


兄の顔を見て気がついた。

師走の事を。

恐怖を抑えることができず震える声は誰も聞き取ることができなかった。


「はい?何かおっしゃいましたか?」

「…師走も…ダイアナも犠牲にしたのか…?」


無月の最終コード師走。

ダイアナ・グランディ

レルエナ帝国を支える騎士の中でも歴史の古いグランディ家の次女であり、シュアトルとティアトルの幼なじみである。彼女はシュアトルと同じ考えを持ち無月のメンバーとなり任務を遂行していた。


ティアトルを守る騎士団長として


「何度言わせるのですか?」

「神無月と葉月。それと貴方と逃亡中の卯月を除くメンバーは全てエクセリクシとなり目の前にいるでしょう?」


目の前の水槽。

恐ろしかった。

目を背けたくてたまらない。

しかし突きつけられた現実はあまりにも酷い。


その中にいた物はもはや彼等ではないのに。

瞳の色

髪の癖

所々に名残を残している。


認めたくはなかった。


「…だと……くれ」

「はい?」

「嘘だと言ってくれ!!!!!!!」


理性が吹き飛びシュナに殴りかかる。

汚い虫ケラを見るようなシュナの視線。

その先の記憶はなかった。

きっと取り押さえられたのだろう…。


けれどもハッキリとしているのはまだ神無月と葉月は捕まっていない。

あの2人なら上手く隠れているに違いない。

きっとこの騒動に気が付き応援に来てくれるはず。

今はただただ僅かな希望の光に頼るしかない。


牢屋番として配置されているエクセリクシは仲間たちではなかった。あの大部屋に配置されていた物と同じだった。全身を黒い毛で覆われ隠されているのだろうが太く引き締まった体付きなのがわかる。まるでジャングルにいるバウクというゴリラに似た魔物に見える。けれどもバウクと違うのは顔だ。


虫酸が走る。


顔はヒトの面影を色濃く残している。


鼻筋が通り彫りの深い目元。けれどもその視線は明後日を見つめている。大きく開かれた口から垂れ落ちる唾液と共に低い呻き声が漏れる。

ぶらぶらと揺れる両の腕。

どれほどの力を持っているのだろうか?

予測がつかない。

監視カメラと同じように針撃ち込む。

勢いよく破裂し、よろめく体。


「あぁぁ。がぁぁぁ。あぁぁ!!!!」


スイッチが入ったかのように、漏れる声が大きくなり、揺れる腕のスピードが上がった。


ー来る!


その見た目とは裏腹に俊敏な動き。間一髪で避けることができた。振り下ろされた拳は床に大きな穴をあけ、あたり一面に埃が舞う。


ネジが切れたかのように動きが止まり、埃がようやく収まったと思うとオイル切れの歯車のようにガタガタと不気味に体をシュアトルのいる後ろへと向けた。そしてまた先ほどと同じように攻撃を仕掛ける。


その動きはまるでおもちゃだ。

決められた行動しかできないただのおもちゃ。

確かに攻撃に対する動きや力は申し分ない。けれども行動パターンが一つしかない。

思考力がごっそりと抜け落ちた生きた機械そのものだった。


きっとあの大量に並べられた水槽から出てきた量産型なのだろう。シュネの言葉が頭を巡る。


「一体…どれだけのヒトが犠牲になったのだ…」


噛み締める唇。

強く握りしめるレーザーソード。

どれだけの威力を与えられるかわからなかった。

振り下ろされる拳を避けるも巻き上がる破片は容赦なく洋服を裂き、皮膚を裂く。


無数の小さな傷。

あちこちから痛みが襲う。


シュアトルの振るうレーザー光はエクセリクシの体を焼き付ける。

少ないだろうが確実に相手を苦しめれている。

問題は体力だろうことは理解していた。

シュアトルもまた確実に体力を削がれている。


けれども希望はある。

このままいけばどうにか持てる。

同じ行動の繰り返し。

このままいけば倒すことができる。


シュアトルの左半身に走る衝撃。

勢いよく投げつけられた体。

口から飛び散る真っ赤な血。

目の前が黒と赤に染まる。


何が起きたのか理解できなかった。

まさかここに来て行動パターンが変わるとは思ってもいなかった。

霞む視界の中自分の無力を感じざる得なかった。何も守ることができなかった手のひらにはもう力が入らない。思い出される記憶は優しく守ってくれた兄の姿。


− 神…よ…兄上を…兄上だけは…


エクセリクシがフラフラとと近づき両の拳を天に向ける。瞳を閉じたシュアトルの脳裏に浮かぶのは無月達の笑顔だった。


「…あり…と…」



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