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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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もう一つの戦い-5


「なぜ…なぜお前がここにいるんだ!!!!」


「シュアトル!!!!!」


震えるシュナの声が部屋いっぱい響き青ざめるジゼル。2人の目の前には想像していなかった景色が広がっていた。


牢獄に捕らえられているはずの皇子はボロボロに傷つき左の目を失い変わり果てた姿で立っている。

今までどう頑張っても見つけ出すことのできなかった神奈月はミンキュとミリョウに治癒魔法を唱え、葉月は自分の首を腕で締め付け、クナイの先を背中に押し当てている。


「好き勝手やってくれたな…」


シュナはシュアトルの言葉に笑いが止まらなかった。どこまでも愚かだと蔑んだ。


「あんたの作る武器よりも私の作るものを陛下が選んだだけじゃないか。私は陛下…いや…国の命令に従っただけだ。それに比べてお前はなんだ?陛下の命令に背いて何を好き勝手やっているんだ!!」

「俺は今まで国のため…いや家族のため最善を尽くした。そして今もその気持ちは変わらない。」

「ならあなたは大人しく牢へ戻ればいい!!!私の邪魔はしないでいただきたい。」

「黙れ!!!!俺はこのねじれた現実を正す!!」

「ねじれた現実?!は!何を言っているのだ!このエクセリクシこそが我らの本来の姿ではないか!!!!」

「話にならん…」


右の瞳を細め、蔑んだ視線を送ると同時に葉月の手にもたれたクナイが腎臓に差し込まれる。一瞬にしてシュナの口から大量の血が流れ勢いよく地面へと体を打ち付け、小刻みに揺れる指先。

恐怖に支配されたジゼルの叫び声を止めるため葉月は首めがけ蹴りを入れ、ようやく当たりが静かになった。


「2人の様子はどうだ?」

「傷の治療は2人とも完治していますが、かなり無茶をしたようで…当分は目覚めないかと…」

「そうか…」


シュアトルは視線を微動だにしないエクセリクシの方へ向け、神無月と葉月の言葉を無視して足を進めた。


力が抜けぶらりと垂れ下げられた腕と首。

覗き込んだ先に映る静かな彼は見知った仲間。

微かな歌声が聞こえ、シュアトルは視線を声のする方へ向けると胸が締め付けられた。


大量の血が今もなお流れ出す中、浅い息と共に歌う彼女もまた見知った仲間だったのだから。


手を伸ばせば噛み付かれるだろうか?

そんなことこれっぽっちも頭にはなかった。

ただ彼女に触れたかった。


血で濡れた彼女の左手。

触れた指先が冷たい。


「もういいんだ…もういいんだ…ルル…」


それでも彼女は歌い続ける。

かすれて何を言っているのかもわからないのにそれでも歌い続け、とうとう声は止まってしまった。その代わりに太い声が漏れた。

シュアトルは急ぎ声のする方へ体を向かわせる。頭を抑え浅い息を吐き出すディガムの目は虚ながら光を捉えている。


「ディガム!ディガム!!!俺がわかるか?!」

「シュア…トル?なんでそんな下に居るんだ??」

「それよりなんでこの部屋…こんなにも青いんだ????」


霞が取れ出したディガムの脳に混乱が訪れる。

脳の処理が追いつかない。


視野がいつもより高くて広い。

赤のない世界。

全身強い打撃を受け激しい痛みが襲い、左腕に関しては感覚が無くなっている。


浅い息が早く早く吐き出される。

微かに聞こえる落ち着けという言葉。


嫌な予感が忍び寄る。


苦しみの中動かす口。

けれども囁き声は誰にも届かない。

息を深く吸い込みもう一度尋ねる。


「ルルは?ルルはどこだ?」


暗闇の世界には一筋の光も刺さない。

誰もが口をつぐみ視線を落としている。

一歩足を踏み出そうとした時その理由がわかった気がした。


何かが後ろにぶら下がっている。

重たい何かが。


瞳を右後ろへと動かすと血が滴る揺れる腕が見えた。


夢の中でずっと暖かい歌に包まれていたのに、その声は助けを求めるようにも聞こえた。その声の主は誰なのかディガムは知っていた。


だからそれがなんなのかすぐにわかった。


絶望がディガムを襲い理性を奪っていく。

叫び声が響く中ありったけの力を振り絞り自分の背中にいる最愛の妹を切り離す。


鈍い音と共に噴き出す血飛沫。


辺り一体黒に染まっていく。

まるで暗黒に取り込まれるような感覚と共に体の力が抜けていき、立つことももうできない。


シュアトルと葉月が何か叫んで駆け寄っている

神奈月が魔法を唱えている


けれどももうどうでもよかった。


落ちたルルの体に手を伸ばす。

見たこともない姿なのにルルだとはっきりわかる。


「ごめんな…俺のせいで。」


どれだけ懺悔をしても救われることがないのに言わずにはいられなかった。


思い浮かぶのは家族がまだいた頃の記憶。

楽しかった日々の記憶。





閉じることのない大きな瞼をシュアトルはそっと下ろす。しかし今は感傷に浸っている暇はなかった。託された仕事をしなければいけなかったのだ。


シュアトルは屍を超えて進む。


ガラリと広い空間の端っこにモニターと無機質な機械と管で繋がったガラス瓶が無数ならんでいるだけだった。

誰も見たことのない悪魔を作り出す機械の正体がこれなのかと拍子抜けする。


静まる空間に銃声と弾けるガラスの音が虚しく響いた。


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