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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
アウトプット

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28/45

#8



その約束は、今も有効である。

景はタオルを綺麗に畳み、ドアの方へ向かった。

あれほど警戒していたというのに……家族にすら伝えてない記憶を、今日会った青年に話したことが可笑しくて仕方なかった。

だが後悔しても遅い。都築を守っていくことに変わりはない為、冷静にドアノブに手をかけた。

「もし来世があるなら……貴方が彼にまた逢えることを祈ります」」

「景くん……」

扉を開け、サウナ室から出る。

大浴場も暑いはずだが、まるで外へ出たかのような涼風を感じた。


視界が鮮明になる。肺いっぱいに息を吸い込むと、左側の浴槽で動く影が見えた。


「あ! 景さん、サウナどうでしたっ?」


そこには、縁に寄って笑う都築がいた。


「かなり長かったよなー。俺には絶対むり」


その隣で、流希が感心したように頷いている。

景はかすかに笑みをこぼし、彼らの隣にある水風呂に入った。

「ここはそこまで暑くない」

「そうなんですか。じゃあ入ってみようかな」

「都築ちゃんはやめたら? のぼせて倒れるよ」

流希は笑いながら言っていたが、景を一瞥し、再び都築に耳打ちした。

「都築ちゃんはあんま思ってないかもしんないけどさ……景さんって、相当都築ちゃんに感謝してると思うよ」

「え、何? 何について?」

「はは、分かってないな~。まあそれは俺から言わない方が良いな」


流れてくる泡をすくい、改めて頷く。


「何か結局色々質問攻めしてごめんな。でも応援してるからさ、頑張れよ」


都築の頭に手を置き、流希は浴槽から上がった。サウナ室のドアを開け、中に声を掛ける。

「世喜さん、そろそろ出ようよ。アイス食べ行こ」

「ふー……そうだね」

世喜は満足したようにサウナ室から出て、景と都築に振り返った。そして含みのある笑みを浮かべ、軽く手をかざす。


「話してくれてありがとう、景くん。ここで言うのもなんだけど、末永くお幸せにね」

「都築ちゃん、何かあったら俺の仕事用メールから連絡して! ホームページ見れば分かるから! じゃ!」


二人はそれぞれ告げると、ワイワイ楽しそうに話しながら去っていった。

「彼ら、ほんと楽しそうで良いですよね。あまりカップルって感じしないけど」

「子どもと保護者だな」

景は水風呂から出て、今度は都築の隣に腰を下ろした。

どこかスッキリした様子の景に、都築は身を乗り出す。


「景さんは嬉しそうですね。世喜さんと何のお話してたんですか?」

「……大したことじゃない。お前は流希と何話してた?」

「俺は……ええと、景さんと逢ってからのこととか。あ、付き合ってることは言ってませんよ! 命懸けます!」

「言っても構わない。そもそもバレてるんだろ?」

「いっ。知ってたんですか?」


都築が身を縮めると、景は笑った。

「あの二人、そういうことに目敏そうだからな」

「で、ですね。俺なんて全然分からないのに……やっぱり俺、経験なさ過ぎてやばいですかね」

気まずそうに口元に手を当て、都築は顔近くまで湯船に沈める。

景はそれを見て、視線を前に移した。


「お前は今のままでいい」

「でも、鈍感過ぎて腹が立つ時とかありません?」

「……」


あまりに彼が心配そうに言うので。


部屋に戻ってすぐ、景は都築を思いきり抱き締めた。

「景さん……」

ベッドに乗り、互いの首筋や胸に愛撫する。感覚としては、猫の毛繕いに似ていた。そのまま雪崩込み、ついばむようなキスを交わす。

「……やっとこういうことができるな」

「あはは。外は人目ありますもんね」

ルームウェアの上着をはだけ、都築は笑う。その表情、仕草全てが愛おしくて、仰向けに押し倒した。


「明日からは純粋に旅行を楽しむぞ」

「は、はい」

「行きたいところがあったら言え。スケジュール詰めてても回るから」


都築を潰さないよう、膝を立てて覆い被さる。すると彼は逡巡した後、視線を逸らし、恥ずかしそうに呟いた。

「たくさんあります。けど……もう少し、キスしたい。です」

「……」

おずおずと見上げる彼の頬に手を添え、喰らい尽くすようにキスした。


淫らな水音。欲望に従い、擦り寄る姿。

主が見たらどう思うだろう。ふと頭によぎり、皮肉に考える。そういえば、前世でキスよりすごいことを彼としていた。

彼は忘れてるかもしれないが────。


景は衿元を緩め、都築の上体を起こした。無我夢中で自分の胸に縋り付き、必死に呼吸するかのように唇を吸う都築。

こんないじらしい恋人が存在してることが、時々夢ではないかと思ってしまう。

都築と再会してから、全ては夢想のように感じる。

でも、確かにここにいる。触れられて、温もりを感じられる。

そして触れるたび、絶対に手放したくないと強く願うのだ。


「都築。俺は……前にも言ったが、平坦な人生を送ってきた」


額におまじないのようなキスをし、彼と視線を合わせる。

「世話焼きな姉と、放任な両親の元で育った。大きな成功はないけど、大きな挫折もない。人生の合間にお前を捜してたんじゃなくて、お前を捜す合間に鏑木景という人生を送った」

仕事だけは必死に取り組んで、スケジュールを自分で組み立てられるよう調整し、準備し、独立した。しかしそれ以外でそこまでの情熱をかけたものはなかった。


「お前ありきの人生なんだ。つまんない男だろ」

「……何言ってるんですか」


都築は大きな瞳を揺らした後、困ったように笑った。


「そんなこと言われて、喜ぶなって方が無理です」


手のひらが重なる。遠い昔、同じ床で寝た時のような、大胆さを感じる動きだった。


「というか、そこまで景さんを狂わすことができてたんだ。って思ったら、マジで自惚れそうです。……うわ、やばい」


後からじわじわ来たのか、都築はガバッと正座して顔を覆った。


「興味ないどころか、本当に嫌われてるかもって思ってたから。俺は楽しかったけど、景さんは主様と俺と一緒にいて、本当に幸せだったのかな、って……いつも考えてました」




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