首飾りの噂
ここ数日、やはり学園はよそよそしい空気に包まれていた。浮気によりヒビが入った友情やカイセル王太子に王家を否定する暴言を放った御令嬢や、これはミリアであるが。
そして、卒業パーティーが近づきクリスがある噂話を得意げに披露する。
「カイセルはミリアに求婚する為に国宝の七色の首飾りを引っ張り出すらしい。」
「それは博物館に展示されているあの首飾り?」
「まさかあれはレプリカだよね。あんな危険なもの」
「危険?」
「昔処刑された魔術師の呪いが閉じ込められているとか。でも、持つ者の望みを叶えるとも言われていて、とりあえず怖いから封印されている。」
まさか、あの話はこの国の話だったのか。
他の生徒は女ったらしの言う噂話など信用できないと本気にはしていないようだったが、私は気になっていた。他でもないミリアにそれを捧げると言われれば心配なのだ。
屋敷で食卓を囲み私は今日クリスから聞いた首飾りの話を母にしてみた。
「首飾り、たしかにそんな話も聞いたことがあるわ。王冠が呪いだとか色んな説があるはずよ。魔術師の封じ込めた呪いが放たれると、全ての呪いが解ければよいわよね〜」
「新たな呪いがかかるなんてことは無いのかな」
「さあね。大昔の話だから分からないわ」
と母はスープにパンを擦り付けた。
カイセルは卒業パーティーでミリアに求婚?
私はいつ、婚約破棄すれば良いのだろう。誰も注目などしない私ごときの婚約破棄を大声で叫ぶのか?
しまった。婚約破棄の仕方を調べて置かなければ、時間がない。だがあまり聞いて回れる内容でも無い……。
翌日
学園の中庭へミリアを呼び出した。
婚約破棄の打ち合わせをする為である。
「ダンスの時に言い放てば良いのだろうか」
ああ、私は一度もミリアと踊れずにこの恋は終わりを告げてしまうらしい……。
しばらく俯きじっと考え込んだあとミリアは私にまっすぐ視線をむけた。
「いえ、お断りしますっ」
「え?ダンスもしないという事か。あ 今、ここで破棄するという事か……ミリア」
きっと今私は情けないほどに眉が下がっているだろう。こうして二人で居られたのは、婚約者という肩書があったからだ。
「……婚約破棄をお断りします」
なに?!そうか、カイセルが求婚して来たら断る理由には私が必要だ。
「では私はしばらくまだ婚約者でいいということかな?」
「そ そうゆうことですわっ」
「分かった。じゃ遠慮なくダンスを踊れるという訳だ」
私は婚約破棄をするプレッシャーから開放され、さらにミリアと踊れるという朗報にすっかりご機嫌であった。我ながら単純な男である。
ぱあと表情を明るくしたであろう私にミリアは呆れた様子。なんだか少し怒っているような素振りを見せる。なんだ何か機嫌を損ねるようなことを言ったであろうか……ああ。
「あーっ痛いほどに単純ね ルシアンは。少しはレディの気持ちを考えて!」
レディの気持ち?仕方なく私を婚約者にするレディの気持ち……。きっとそれは、悲しい気持ち……。
「ミリア、すまない。私には到底想像できないほどだ。だから、何でも言ってくれ。私に出来る事ならなんだってするよ」
「……う」
なにやら言葉を詰まらせ、ミリアは私を置いていった。




