卒業パーティー
卒業パーティーの日。
また気合を入れた私はこの日の為にオートクチュールで作ってもらったタキシードに袖を通す。
「ん ピッタリだ」
「よくお似合いですよ」
そしてやはりなかなか決まらない髪に悪戦苦闘する。いやこれは髪ではなく顔の問題だ。
清潔感だけに意識を集中させ、仕上がった髪はいつも通りであった。
「ルシアン様、これを」
小さな縦線模様が入った瓶にはローズ水。強すぎないコロンのようなもの。私がつければ、野山を走ってきたのかと言われそうだが、ダンスをするのだエチケットとしてつけて行こう。
ペリエにシュッと吹きかけてもらう。
「ルシアン、おめでとう。私も後から行くわね。ミリアとのダンス楽しみにしているわ〜ああ懐かしい」
母も後から父と共に息子の門出を見に来るという。
緊張し馬車に乗り、ミリアの屋敷へと向かった。
「ああ、ルシアン様申し訳ございません。皆で止めたのですが、カイセル殿下がお迎えにいらして嫌がるお嬢様を連れて行かれました」
「なに……」
私は胸ポケットに挿した一輪のピンクのバラにそっと触れ、再び馬車へと戻り急いで学園へ向かった。
なんということだ。婚約者のエスコートを差し置くなど王太子だから何をしてもよいのか。
私は初めてといっても過言ではない怒りというものが漲るのを感じた。
しかし、怒りに任せてはならない。私のメンツなどどうでもよい。
ミリアが安全か、不愉快な思いをしていないか、そればかりが心配でならない。
学園の大聖堂に辿り着いた私は息切れをしていた。膝に手をつきあたりを見渡す。ミリアはどこだ……。
「ルシアンっ!!」
走り寄って来るミリア。ゆるく巻かれた髪は半分を結い上げ、淡いピンクのドレスを纏い優雅に裾を靡かせていた。
う 美しい……毛先から覗く肩が光沢があるようにつるつる……ああ 見惚れていた。
「ミリア!大丈夫であったか」
「ええ。ご、ごめんなさい お迎えにいらしたでしょ?」
なに 素直に謝られるとこちらがたじろいでしまう。
「ああ 気にしなくてよい。カイセルはよほどミリアが好きなのだな」
「……ルシアン、ルシアンはそうではないのですね。私が婚約者だからいつも押し付けがましいくらい優しくしてるだけ。」
「そ そんなことは……」
私の気使いが押し付けがましい……ああ考えてもみなかった。そうか優しいだけでは、いや優しさ以外に私に何が出せるのだ。
そんなやり取りをしていたら、学園長の挨拶が始まった。そしてカイセル王太子の卒業生代表のスピーチが始まる。と共に何やら厳重な警備でカイセルの側近?いやあれは王室の親衛隊 により鉄の箱が運び込まれた。
あっあれはもしや首飾り……。
「私達はこれからこの国を導いていく若き力となり近い将来、最前線に立ち様々な困難を乗り越えより豊かな国へと……」
ほほお なかなか立派な話をするもんだなんて聞いていたら、隣でミリアは毛先をくるくる指で回し聞いていない様子である。
「私事ではありますが、今日この場をお借りしてこのカイセル、最愛の人に愛を捧げたい。ミリア!ミリア フォン スタッフォンド侯爵令嬢!」
あああ、来ましたよ。
ミリアは髪をくるくるするのは止めたものの、俯いたままであった。私は婚約者であると名乗り出るためにもミリアの手を引いて前へと進む。決してミリアご令嬢をただエスコートしている執事ではないぞ。
「わ 私は……ルシア」
「ミリア!これを君に捧げる。」と私の宣言を遮りカイセルは鉄の箱に小指を立ててその小さな鍵穴に鍵を入れた。
みなも箱に注目し静寂と化す大聖堂。
ミリアだけは苛立った様子で私を睨んでいる。しかし、今箱を開けようとしている王太子を見守る中、
私が婚約者だー!無礼者ー!とは言えないのだ。情けない。美男の王子を前に佇む美女とその隣にいるただの豚だ。
ギーと開いた箱に手を入れ七色に光る首飾りを手に取り出したカイセル。
すると、首飾りがまばゆい光をこれでもかと放った。いやこれでもか、これは異常だ眩しい……前がみえない……何が、何が起こったっ私だけか?!目眩か?!……?
「「「キャーーーーッ」」」
悲鳴が巻き起こる。あちらこちらでキャーッと。
やっと光が収まり壇上のカイセルは?ん?誰……。
そこには、背は低くタキシードの袖をパタパタさせる醜男が立っていた。ズボンもたくれている。
「なっなんだこれは……鏡!鏡をもってこい!!!」
その声はカイセル……。
唖然としたのもつかの間。
私のオートクチュールのタキシードの下がストンと床に落ちたのだ。それを見たレディ達がまた悲鳴を上げる。
「キャーーーッ」
隣のミリアも顔を覆った。
「ああ 失礼。とんだものをお見せした」と私はズボンを履きあげたが手で掴まなければならない程に大きい。
なんだ……?
そういえば発した声も妙に澄んでいた。いつもの感覚と……上着もガバガバだ。
私は右手で自分の顔を触る。
ん?
「ル ルシアン?」
どうした。何故疑問の眼差しで私の名を呼ぶのだろうかミリア。
「私はルシアンだが、あの壇上の男はまさか……カイセル?」
その時さらに来賓席の王座から悲鳴が上がる。
異常事態に取り乱した醜男となったカイセルは鏡を確認すると、パリンっと鏡を落としてしまった。
「首飾りは?首飾りはどこだ!!!」
首飾りはあのまばゆい光と共にその姿を消していた。
ダンスタイムを控えていたが、とりあえず休憩宣言がなされ私も急いで鏡のある場所を探した。
大聖堂の一室にあった姿見に自身を映す。
「はっ」
そこには、金髪に碧い瞳はスッキリとし、鼻もすっとして口の周りに忌々しい肉もない。顎もシャープだ。肌は相変わらず白いが、大きすぎるタキシードがみすぼらしいが腹も引き締まっていた。
これは……。すると背後に立つ中年のきれいな女性が鏡に映り込む。
「ルシアン、呪いが解けたのね。私達、先祖代々やはり呪われていた。」
「母上?」
「そうよ。ルシアン」
私達は涙を流して抱き合った。
「あっ!ルシアン、服。私は先程すぐにお友達のスペアドレスを借りたけど。誰かもってないかしら……。」
「母上、カイセルは?まさか呪いをかけるよう頼んだのは……」
「カイセルの先祖の王女だったようね……可愛そうに。王も美貌を失ったわ」
え、美貌を失ったわなんて、さらりと言われても。
母は急いで服を調達し、戻ってきた。
「さ、これを」
「これは?」
「ミリアがあなた達の友人でスペアを用意している人を聞いてくれたようよ。」
「ミリアが」
「さあ、早く着替えて行きなさい」
「ありがとう 母上」




