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番外編 鬼の撹乱 後

急いで仕上げたので、やっぱりとっ散らかっています。

すみません。


※注意※

グロ、残酷描写あります。

苦手な方はすみません。





 魔術師は、天才と呼ばれる者だった。

 稀代の魔術師、リオート=エイス=アイルバトゥ。


 彼女の情報が入る。それに希望を見出だし、奴についていった。もう会えなくても、彼女を感じたかった。どこかで幸せに生きているのを確認して、それから……それから先は考えていない。


 そこから約1年、奴の元に付いて魔法を学んだ。

 魔術師程は長い距離は使えなくても転移も習得した。攻撃魔法も。ただ、治癒は学ばなかった。


 魔術師の元に行ったら、身なりを整えさせられ、前髪も切られた。笑えない笑顔を彼女に見られないならもう必要なかったし、唯一クッキー○ンスターと同じ色で伸ばしていた髭も髪も彼女がいなければ必要なかった。

 オーガだと言うのに言い寄る物好きもいたが、至極どうでも良かった。

 

「一応、形だけね? 嫌になったら解除するから」


 そう言って嵌められた奴隷の首輪の石に、血を垂らす魔術師。

 だが、これはただの石だ。魔石ではない。

 首輪の効力は無いが、どうでも良いので言わなかった。外されたら困る。

 彼女が、万が一石を見られて無い事が知られないようにと、初めてのクエストで稼いだ金で買ったもの。

 色は彼女の髪の色。黒い黒い石。


『黒い石なんて不気味なの選ぶなぁ。己生みたいに輝く紅緋! 抜けるような蒼! とかだったら格好いいのに。よし、己生が欲しいと言ったんだから、いっちばん高いのにしよう!』


 貴女の色だから身に付けていたかった。

 『モリオン』と呼ばれる稀少の高い黒水晶を買ってきて、宿屋代まで注ぎ込んだから野宿になったけど。


『店のオッサンがね? 強い邪気払いの効果がありますよって言うからさ? 己生に悪いもの寄せ付けない様にさ? 買います! って言ったら……スッカラカンになりました』


 そんな事聞かされては、怒る気にもなれない。

 邪気って……俺、魔物なんだけど……。


 魔術師の元にいる間は、彼女との思い出をただただ反芻する日々だった。情報が全く入らず、このままなんの痕跡もなければ、諦められるかと。


 ある夜、突然事態が変わった。

 魔術師に魔法の実験だと地下に呼ばれ訪れた。


「リオート様、お呼びでしょうか?」

「うん。『動くな己生』。そして……あ、0時越えてるね。お誕生日おめでとう? 確か今日だったよね?」

「っ?!」

「ハ、ハハハハハ! 己生~よくここまで育ったねぇ? 僕はすっごく嬉しいよ。こんなに事がうまくいくなんてさぁ」

「?」

「これは、何でしょう?」


 魔術師が出したものは、俺の目だった。


「な、ぜ?」


 それは、それを持っていったのは、壮年の男。

 当初、幼く、人間の中では見目が良いと言われ愛玩奴隷だった俺を買った男。

 周囲から、醜悪な姿だと蔑まれて俺を買っては蹂躙した男。そして、剥製に欲しいと永久呪をかけ、戦闘奴隷として登録し直していった。

 手付けにと、1つの目玉を持って。


「おっと、声出せるんだ? 強くなったね~。奴隷の首輪ナシではこうして対峙出来なかったよ。君の疑問は当然だ。この目を持って行った男はさぞ醜かったものね?」

「……」


 魔術師は話す。

 今の身体は乗っ取ったものだと。

 だが、長くはもたない。次の身体を探していた時、絶望に萎びてた俺の目が、ある日突然生気を取り戻した様に輝いた。

 人間の身体は脆い。次の身体は俺のを使う事に決めた。剥製ではなく、自らの身体にと。

 身体を乗っとるには、厭世(えんせい)しなければならない。この世に絶望しなければ。

 生気を取り戻した理由を見に、転移をしたら俺と女がいた。俺が守るようにした為、彼女を利用すればもっと絶望に陥るのではと考える。だから一旦彼女を助けた。

 その考えは合っていた。俺はどんどん彼女にのめり込み、彼女も俺を頼った。


 俺の目を通して、全て視ていた。


「……ぁ、……」

「ショックで声も出ないかい? では、もう1つの本当を教えてあげる」

「……?」


 今度は1枚の紙を出した。

 っ?! 彼女の字だ!


「何をしたぁあっ!」

「煩いな~、奴隷の首輪と、封じの術もかけておいて良かったよ。それでもそんなに話せるんだものね! いいね! 最高だよ! 君の身体は最高だ!」

「……何をした? 貴様、彼女に何を」

「魔の森に送りました~!」


 確かに……絶望した。

 脱力するも、術式で身体を縛られ立ったまま。

 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ――――。


「でも、ねぇ! 聞いて~! すっごい可笑しいの! 君と僕が恋人同士だと思ってたんだよ! 彼女! 笑える!」

「……は?」

「だよねぇ? 君と話してる所見られて、絶望した顔してたから何かと覗いたら、君が僕の前で笑ったからだって! 自分では引き出せなかったの~とか、馬鹿だよね~」


 い つ? あの 時?

 笑った? 彼女が 俺に 恋してると 思って浮かれた だけ。


「君の目を通してその夜を視たよ。彼女は聞いたね? 幸せか? と。君は、はいと答えた。おめでとう恋、ブッククク……、恋だと。彼女は言ったね? あれは、君が僕に恋しているかを確認したんだ。ちゃんと映っていたよ。泣きそうに君に縋る目線を送る彼女が。君は脳内お花畑で、気付かなかったみたいだけど……っ、もう、可笑しくって可笑しくって! 声が嗄れる程笑わせてもらいまっした!」

「ぁ、ぁぁ……」

「その後さ、あの女をちょいとつついて、手紙を書かせた。何て書いてあるか分からなくて渡さなかったけどね。しかも餞別にチョコレートの入った焼き菓子置いてったよ? 凄く美味しかった」

「ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「で、魔の森に転送してあげた」

「あ、……ぅ、そ」

「嘘じゃないよ。証拠は無いけど、約1ヶ月で探知に引っ掛からなくなった。今頃、魔物腹を通過して、ケツから出されて、立派な養分だよ」

「……」

「充分に絶望してくれたかな?」


 カタンと、魔術師が立ち上がる。


「さて、儀式をはじ」


 視界に写ったのは、赤。鮮明な、赤。


「へ? っあぎゃあああああっ! な、あ」


 俺は魔術師の目を1つ持っていた。

 あぁ彼女は、どうして。


「なんだよ! なんえぐびわ゛あ゛あ゛あ゛」


 何を思って。


「やめでやめでやめでぇえ゛え゛げうっ!」


 どうして いや いやだ……


「げぇぁぁ! あ゛、え゛え゛あ゛え゛ぇぇ」


 貴女は痛かった? 魔物に、咬ま れた?

 どれだけ痛かっ た? どう して?

 俺が おれが こんな 取られた 目を


「ひゃ、はが……っ、ぁ~」


 こんなやつに めを ほって おいた から


「……ぁ……ぁ~……」


 ご めん な さ い


「……」


 ……静かに、なった?

 見下ろすと、赤くとても縮んだモノ。

 赤く剥けた頭だったモノに、握り拳程の黒い塊を見付ける。

 

「?」


 あの人と同じ黒もあって無意識に手に取った。

 探れば魔術師の気配。

 無意識に手に力が入る。

 ピシリと聞こえる音と、黒に入る赤いヒビ。


 ――――ヒ―――ァァア―――ァァ―――


 まだ いきる のか

 あの人を コロシ た のに

 あの人は クワレ た のに

 オマエモ マモノ ニ

 …………アァ マモノ イタ

 ココ ニ。


 バキッ、ガリ、ガリ、バキリ、ゴリ、ゴリ。


 何も考えて無かった。

 ただ彼女と同じ痛みを与えたくて。

 ひたすら咀嚼した。何度も何度も噛み砕いて、欠片が口に刺さったが、気にならなかった。

 少しずつ噛んで悲鳴を聞いて飲み込んで。

 

 後から考えて、身体を乗っとると言われたのに、体内に取り込んで何をしてるのか、とか思った。

 幸いにも咽を通過する際に、浄化された。


 あの人の買ってくれたあの人と同じ色の、首輪に付いた『モリオン』が、咽を通過する度、浄化してくれた。


 俺は、魔術師の膨大な魔力が器を広げ、体内に貯まっていくのを感じた。浄化された何の意思も入っていない純粋な魔力。今更こんな力が入っても、あの人がいない事には何の意味もない。


 儀式の為なんだろうか、人払いをされた地下には誰も近付いて来なかった。

 あの人が書いた手紙が目に入って、手に取る。

 

『クッキー○ンスター殿

 山口ブラック企業 代表取締役 山口(明日香)

 辞令:本日を以て定年退職とする。以上』


「ぁ」


 読めなかったと言っていた。あいつは。

 読めなくて良かった。

 多分、全ての時間を視ていた訳じゃなかったんだ。彼女から教わった故郷の文字。

 『己生』の次に教わった文字。

 『明日』アス『香』カ。

 山口の横に小さく書かれたその文字に、あの人の名前だと分かる。

 教えてくれていた。自分の名前。

 

「アス、カ」


 呼びたかった。今知っても遅いのに。

 呼び掛けたかった。貴女の名前。

 会いたい会いたい会いたい。

 俺が殺したも同じなのに。

 

「アス、カ。俺は、クッキー○ンスターになれたの? ならっ! ねえ! ここに来て……笑ってよ……ねぇ! 俺の前で、笑って……おねがい……ご、めん……」


 会いたい。会いたいよ。

 ここに来てよ。俺も連れてってよ。お願いだよ。

 地下にいたからどれくらい経ったのか分からなかった。ただ、手紙を持って眺めて泣いていた。


『笑っててよ、己生』


 無理だよ。もう、何の気力も無い。


『笑ってよ、愛しのクッキー○ンスター』


「だからっ! もう! 無理なん……だ?」


『ぁ~テステス、これ! オーガの小僧!』


「は? へぇぇ?」


『ワシらの娘を泣かすとは、こんの馬鹿が! お前さんが離れたから、ワシら夫婦で守ってやったぞ? 全くあと少しで寿命迎えるワシらに何させる! まあ、そのお陰でワシら夫婦はアスカと過ごせたがな。ちゃんと始末してから迎えに来い? あの子は泣いとるわ。こんの馬鹿が! あぁ、あの子に言っといてくれ。人間の洗い方知らんで、ドラゴン流で水ぶっかけて溺れさせてすまんかったと。はよ、来てやれ。珍妙なクッキー○ンスターよ。あの時大切にしろと言ったろ? お前さんも大切な人と幸せになぁ。ワシらラブラブ夫婦を目指せよ。敵わないだろうがな! そうそう、それ、頭につけるものだから』


 声が聞こえる。

 あの人と、前に会ったドラゴンの。

 顔をあげると、目玉が2つ転がってた。


「……え?」


 拾い上げると、あの人の祝福。

 デカイ目玉の中にドラゴンの鱗の欠片が入ってる。

 

「いきて……?」


 生きているの? あの人が。


 兎に角、可笑しなデカイ目玉2つを頭に括って、ドラゴンが教えてくれた道標を辿って転移した。

 途中で、膨大な量の魔力が制御出来なくて、突然意識を失っては起きて飛んで失って起きて飛んで。


 スンッと、香る。あの人の匂い。

 甘い甘味の匂い。

 あの人がくれたチョコレートクッキーの匂い。


 ポインポイン揺れる頭の可笑しな目玉2つの振動が、夢じゃないと教えてくれる。

 匂いが強くなる。

 あの人の 香り。


「い、た」


 あの人を見付けた。走る。

 生きていて良かった。会いたかった。何故あの時出ていったの? 知らない……知らない奴が来たら、痺れ玉を投げろと、俺の名を呼べと言ったのに!


 空を見上げながら、鼻歌歌ってホテホテ歩く彼女が無償に嬉しい。可愛い、けどとても痩せた。

 胸が痛む。怖い目に合わせてごめん。ドラゴンどこにいる? 娘って貴女もドラゴン? 聞きたいことも言いたいこともありすぎて、頭が回らない。

 駆け寄る足音でこちらを向く。

 目を見開くあの人。

 貴女も俺に会いたかった?

 色んな感情が渦巻いて、最終的に拒否されたら、どうしようと不安になった。だけど、次の言葉で全て飛んだ。

 

「 それ……付けると頭おかしい人に見える、よ? 」


 ……俺も思ったよ。凄く強く激しく。

 でも、ドラゴンが、貴女も着けさせる為にと贈ったんでしょ?!

 なのにそれを貴女が言うの?


「アンタはぁぁっ! こっの馬鹿!」

「ひぃぃぃいっ?!」


 掴まえた。やっと。

 ずっと傍に。

 


 

―――己生、事情説明後―――


「という訳なんです」

「ちょ、ちょっと待って? お婆さんとじじいがドラ……いやそれより! 魔力を渡すってアレか? アレなの?」

「直接、送り込みます」


 アッカンベをして舌を指差す己生。


「ぎゃあぁぁぁあっ!」


 バシ! ガクガクガクガクッ!

 無意識に己生の頭をひっぱたき、胸ぐら掴んで揺さぶる。


「私のファーストキスが、知らぬ間にディープで終わってるぅぅ~?! 責任取れこの馬鹿ー!」

 

 ガシッと腕を掴まれ、顔を覗き込む己生は実にいい笑顔で、ボヤけてもいい笑顔で。


「喜んで。明日香」

「……はひゅう~」

「明日香?」


 て、手加減してよ。愛しのクッキー○ンスター。



 おしまい。

   ――――――――――――



【一口メモ】

鬼の撹乱:凄く丈夫な方が珍しく病になる。

今回、己生がかかった病は恋の病でしたー。…………すみません。


お読み頂きありがとうございます。

読みづらいかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。

最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!





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