エピローグ
いよいよ今回で第一章完結です!
「・・終わったな。」
響也の住んでいるアパートから帰る道中、晴明が隣でそうぼそっと呟いた。だから、儂は「そうじゃな。」とだけ返してその顔を見上げる。
・・いつ見ても悔しいほどに整った顔じゃのう。今度歌に特殊メイクの依頼を個人的にしようかのう。
「・・おい、なんか変なこと考えていないか?」
なんじゃ。こういう時だけは妙に鋭いのう。未だ儂の気持ちにも気付いておらぬくせに・・。
「いいや、別に何も企んでなどおらぬ。それよりも、先ほどは驚いたのう。まさか、本物の“カナウ”の霊がやってくるとは思わなかったのじゃ。」
いきなり話を変えた儂に晴明の奴は訝し気な視線を向けておったが、やはり先ほどのことはこいつも気になっておったのか儂の話に乗ってくれた。
「・・確かにな。俺や“ご隠居”でさえあの幽霊がいることに気が付かなかった。よっぽど彼女の念が強かったんだろうな。」
晴明と儂がカナウの幽霊が現れたことに対し出した推論がこうだ。
―カナウの幽霊の未練・・それは、自分の恋人の烏丸響也と弟の鏡夜響を残して先に死んでしまったこと。そして、その未練は先ほど響也が自分の胸の内を伝え、響が成仏したことで解消した。
「そして、ヒビキが成仏するには自分のことをカナウだと思い込んでいたアイツに自分の存在が知られるとパニックになり自我を失う危険があるから、起こした現象としては『自分の存在の隠蔽』・・とかが妥当だろうな。まさか俺達も気付けないくらい存在を隠していたとは想像できなかったが。」
「そうじゃな。儂もてっきり彼女はもう成仏しておるかと思っておったぞ。」
と、彼女彼女と連呼していたことで、儂は不意に店に残してきたもう一人の従業員のことを思い出した。ヒビキが死人であることを分かっていながら、そんな彼と友となり、最後は断腸の思いでそんな友を見送った舞のことを。
以前、彼女は自分がもっと早くヒビキに出会っていれば、自殺を止められたかもしれないと儂に言っていた。しかし、そんなたらればの話をしても仕方がないだろう。結果として、ヒビキは舞と出会ったことで真実を突きつけられても狂うことなく最期まで立ち向かうことが出来た。それで十分ではないか。
どうやら晴明も儂と同じように店に残した面々のことを思い出したらしく、儂にこう提案してきた。
「・・土産でも買っていくか。」
「ああ、それがいいじゃろうな。」
そして、儂は晴明にプリンを要求したが入ったケーキ屋では見事にプリンだけが売り切れておった。
ええい!晴明!お主が自分に買ったシュークリームを半分寄越すのじゃ!
▼▼▼▼▼
・・光に包まれて消えたと思ったら、そこは雪国でした。
って、そんなわけないじゃん!でも何ここ!?一面真っ白で何もないんだけれど!?それとさっきまで手を繋いでいたはずの姉さんの姿がどこにも見当たらないのはなぜ?
などと思っていると、私の立っていた床が音もたてずに急になくなった。そして私は落下する。これはあれだ!生前さんざん見てきたバラエティ番組の落とし穴みたいなやつだ!・・でも、私が知ってる落とし穴はこんな深くなかったはず。というか底が見えないんですけれどこれどうなっているの!?
軽くプチパニックに陥った私は、しかしながらその数十秒後にはドシンという強い衝撃音と共に尻を強打し、どうやら底はちゃんとあったのだと安堵した。安堵したのはいいのだが・・
「俺は牛頭。」
「俺は馬頭。」
「「二人は地獄の門番!この門をくぐるものは一切の希望を捨てよ!」」
・・なんか私、妙にマッチョな牛っぽい妖怪と馬っぽい妖怪にガンつけられています。てか、何だよその「二人はプ〇キュア!」みたいな決め台詞は。率直に言って・・
「ダサい!」
私がそう言うと、何故か二匹は肩を落として凹んでしまった。おーい、それでいいのか門番さんよ。今私が門くぐろうと思えばくぐれちゃうぞ?
まあ、私も余計な騒動は引き起こしたくないので門番二匹が立ち直るのを待ってあげた。私って超優しい女だわ~。え、女じゃないだろって?ファ〇ク!
「「この門をくぐりたければ、通行料を払え!」」
二匹はよほど仲がいいのか、声を合わせてそう言ってくる。いや、そんなこと言っても・・
「私、お金とか持ってきてませんけれど・・」
「「死人には死んだ時にどこかにお金を忍ばせてあるのだ!その額は生前行った善行に比例して増える!額が多いと十王の裁判の回数の数を減らすことが出来る!」」
牛頭馬頭曰く、額が少ないと十王の裁判の一人目、秦広王の裁判から長い期間をかけて裁判を行わなければならないが、額が多いと五番目の閻魔大王の裁判から受けることが出来たりするらしい。なんか生前聞いたことがある地獄のシステムとは違うけれど、これが本物の地獄のシステムなのかぁと感心する。
ん?そういえば、私閻魔様になんかもらっていたような・・。そう思ってポケットに手を突っ込むと、やっぱりそこには閻魔様からもらった六文銭があった。そして、それを見た瞬間牛頭馬頭の顔色が変わる。
「「それは・・閻魔様の六文銭!?」」
「はい。以前閻魔様にもらったんです。これ、通行料に使えますか?」
私がそう言って六文銭を牛頭馬頭に手渡そうとすると、牛頭馬頭は仲良く一緒に首を振って受け取りを拒んだ。
「「とんでもない!それは特別な客人の証!俺達が受け取るわけにはいかない!そして、貴方様を今から閻魔様の元に案内する!」」
「え、ちょ待っ・・」
私の制止の言葉も聞かず、牛頭馬頭は私を担ぎ上げると門の中に入り猛スピードで走り始めた。あまりのスピードに、死んでいるのに意識が飛びかける。
ぎゃあああああ!?え、私地獄に来てもなんか厄介なことに巻き込まれてる!?あんな変な体験をするのは晴明たちとだけでもう十分だよぉぉ!!
「久しぶりであるな、『鏡夜キョウ』よ。ここまで地獄の観光は楽しめたか?」
「・・ええ。おかげさまで地獄のような体験をしましたよ。」
「ワッハッハ!やはりなかなか面白いことを言う奴であるな!余の見込みは間違いではなかったというわけだ!」
私は、牛頭馬頭の超特急地獄タクシーによって、閻魔様のいる閻魔庁まで連れてこられた。そして、閻魔様は何が可笑しいのか連れてこられた私を見て笑っていた。
思わずイラッとなりそうになったが、相手は閻魔様なので逆らうことも出来ないので必死に怒りを抑える。しかし、先ほどから閻魔の従者であるとかいう小野篁さんって人までこちらを珍獣でも見るかのような目で眺めてくる始末。いい加減嫌になってきた。あの~、私どんな罰でも受け入れますんでもう帰っていいですか?そう言おうと思った矢先、
「お前、余の元で働け。」
そんな突拍子もない言葉が閻魔様の口から告げられた。
「・・は?」
「いや、前から篁一人では余の補佐をするには手が足りぬと思ってはいたのだ。だが、余は気に入った奴しか下に置かない主義でな!しかし、お前のことは気に入った!だから余の部下にしてやる!喜べ!」
・・流石地獄の王様。理不尽極まりない言い分である。先ほどからこちらの都合など全く聞いていない。それなのに、
「閻魔様。貴女の下で働いて私に何か利益があるのですか?」
などという言葉が自然に出てしまった。閻魔様は私の問いににいっといやらしい笑みを浮かべ、こう答えた。
「もちろんある。本来、お前は人を殺しているから相当重い罪が科せられることとなる。それを、百年間ここで働けば天国にいるお前の姉の元へ送ってやろう。どうだ?悪い話ではないだろう?」
そうか。姉さんは既に天国へ行っていたのか。しかし、この台詞、どこかで聞いた覚えがあるな。期間は百倍に延びているけれど、これはあれだ。晴明の店で働くことになった時と同じ流れだな。
そのことに気付いた私の顔には、自然に笑みが浮かんでいた。
「分かりました。では、その条件で、ここで働かせてください。」
私のその答えに、閻魔様は当然のような顔をして頷いていた。
―その後、私は『閻魔の右腕』として地獄で恐れられるようになるのだが、これはまた別のお話。
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俺は、ある店の前で立ち止まっていた。店の前には、看板が置かれており、そこには墨で大きくこう書かれてある。
―BAR『百鬼夜行』―
と。
数日前、俺はここの店主と出会った。その時は大した話もしなかったが、渡された段ボールには、響が使っていたであろう喫茶店の制服やネームプレートやらが詰められていた。
俺は、その制服を今着ている。恋人の彼女が最期までお世話になった恩人・・ならば、俺はその恩人に恩を返さなければならない。
俺は、大きく息を吸い込むとその店のドアを開けた・・。
やっとのことで完結することが出来ました!詳しいことは活動報告で書きますが、まずは読者の皆様にお礼を。
これまでこの作品を読んでいただき、本当にありがとうございました。




