第四十八話:あーあ、出会っちまったか
夜に投稿出来なかったのでこんな時間に投稿。
日常パート()
何故かかなり長くなりました。アリスの出る話はどうしても長くなる傾向があります。
そして、一話に収まらなかったので次回もこの日常パート()は続きます。
‐縦横無尽に飛び回る机や椅子。"ご隠居"の治療を受けるぬいと妻の様子を心配そうに見つめるごん。座敷わらしの双子が張った結界の中には、私と同じように膝を抱えて縮こまる舞と、結界の外の大惨事に頭を抱える晴明がいる。その隣で寝袋にくるまっているサトリはいったいどんな図太い神経をしているのだろうか。
そして、このカオスな状況を目下作り出しているのは、スク水姿の河童と半裸の魔女だ。どうしてこんな状況になってしまったのか。それを説明するには、少し時間を遡る必要がある。
事の始まりは、今朝のことだった。昨夜店に泊まったカワちゃんが、今日までここでゆっくりすると言い出したのだ。
「お前、仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫っスよ!元々昨日と今日は有休貰ってたんで!」
にぱっと笑みを浮かべそう答えたカワちゃんに、"ご隠居"が尋ねる。
「警察とはそんな簡単に休みがとれるものなのか?儂の記憶では警察はあまり休みがとれないはずじゃが…」
「え、そうなんスか?オイラ警視総監に直談判したら割りと簡単に休み貰えたっスけど。『カワちゃん可愛いからいいよ!』って言って貰えたっス!」
「大丈夫なん日本の警察!?」
警視総監の激甘対応に舞が思わずツッコミをいれる。まあ、舞じゃなくてもツッコミたくなるってもんだ。なぜか得意気なカワちゃんに対し、"ご隠居"がため息をつきながらこんなことを言った。
「…確かに、河村は見た目だけなら完璧な美少女じゃからのう。あの晴明も初対面では女と間違えて口説いておったしな。」
するとその瞬間、晴明が急にぐわぁぁ!という呻き声を上げて地面に蹲った。
「やめろ!その過去は掘り返すな!…あれは人生最大の汚点だ。まさか男を間違って口説くとは…!」
「あの時の晴明先輩超かっこ良かったっスよ~!その後オイラが男って言った時のあの顔は今でも忘れられないっス!」
「まるでこの世の終わりのような顔をしていたからのう…。儂が見る限り河村は初対面の者には必ず女と間違えられるな。」
楽しそうに過去の思い出を話す三人を見ると、本当にこの三人で大学に通っていたんだなーということを改めて実感させられる。アリスと晴明たちが話していた時と同じような疎外感を感じて横を向くと、舞も同じように感じていたのかこちらを見ていた。思わず二人揃って笑みを浮かべる。
「ほな、今日は女二人だけで話そうな!」
「そうですね。たまにはこんな日もいいでしょう。」
私たちが三人の邪魔をしないようにリビングから出ようとすると、ちょうどその時店の方から声が聞こえてきた。
「おっはよーう☆ぬいとごんの妖夫婦、只今出勤しましたー♡」
「…出勤。」
どうやらぬいたちが店にやって来たらしい。ぬいたちはいつもだいたいこれくらいの時間にやって来るので、晴明たちもあまり反応しない。
しかし、今日はその二人にもう一人の声が加わっていた。
「グッモーニン"ご隠居"ちゅわぁぁーーーん!!久しぶりに遊びに来たわよペロペロさせてぇぇぇーー!!!」
その声が聞こえた瞬間、それまで楽しそうに会話していた三人は一瞬で凍りつき、"ご隠居"は恐怖で震えだし、カワちゃんはそんな"ご隠居"とは対照的にどす黒い怒りのオーラを一瞬で立ち上らせ、手に持っていたグラスを握りつぶした。そんなカワちゃんを見た晴明は、天を仰いで憂鬱そうにこう呟いた。
「あーあ、出会っちまったか。…この店ももう終わりかもな。」
こうして、期せずして大学時代の心霊サークルのメンバーが店に集まることになってしまったのである。
「なあ、うちなんか物凄く不安なんやけど!?」
安心していいよ、舞。私も今全く同じ気持ちだから。
▼▼▼▼▼
リビングから店内へと上がったところで、早速カワちゃんとアリスの睨みあいが始まってしまった。え、不安的中するの早すぎない!?
「あら、誰かと思えば気色悪いオカマ河童じゃない?せっかくの"ご隠居"たんの匂いがあんたの磯臭い臭いで台無しじゃない。消えなさいよ。」
「それはこっちの台詞っスよ。お前みたいな変態女存在するだけで犯罪なんだよ消えろこのロリコン!」
「ロリコンじゃないわ!ロリショタコンよ!」
いや、否定するとこそこ!?
「どっちでもほぼ同じだろーが!大体ロリコンって言うなら"ご隠居"先輩を愛でるのはおかしいっスよ!"ご隠居"先輩オイラよりずっと歳上なんスからね!?」
「そ、そうじゃ!良いことを言ったぞ河村!アリス、儂はロリではない!もう舐めたり匂いを嗅いだりするのは止めるのじゃ!」
カワちゃんの言葉を受けて、"ご隠居"が晴明の背中に隠れながら必死の形相で訴える。ちなみに、私たちは厨房の裏で高みの見物だ。ぬいなんかは舞にもらったポップコーンを食べて完全に映画気分でこの騒動を楽しんでる。あー、ポップコーン上手い。
「…カナウちゃん、あんた大分タフになったな。うちは流石にまだそこまで落ち着けんわ。」
舞がなぜかそんなことを言ってきた。別に私落ち着いてなんかいないんだけどなー?ポップコーンむしゃむしゃ。
「…確かに、"ご隠居"たんの言うことも一理あるわ。"ご隠居"たんのような所謂『合法ロリ』を愛でるのはロリコンとしてはどうなのか、そう思う人もいるかもしれない。…けどね?」
アリスは、そこですっと無表情になってこう言った。
「…『合法ロリ』には、手を出しても合法なのよ?」
一瞬の沈黙の後、
「ヤバイのじゃ!こいつ思っていた以上の変態なのじゃ!あの目はマジの目なのじゃ!怖いのじゃ!!」
「おおお、落ち着け"ご隠居"!俺が必ずお前を守ってみせる!心なしか膝が震えるがこれは恐らく武者震いだ!」
「うわ、全く頼りにならないのじゃ!もうダメじゃ!このまま儂はアリスに襲われて滅茶苦茶にされてしまうのじゃー!」
あまりの恐怖に混乱する主従を守るように、二人の可愛い後輩、カワちゃんがアリスの前に立ち塞がった。
「二人は、オイラが必ず守ってみせるっス!かかってこいやこの変態女ぁ!」
「五月蝿い!ショタにでもなって出直してきなさい!"ご隠居"たんをペロペロするのは私よぉぉぉ!!!」
こうして、二人の今世紀最大の戦いの幕が切って落とされたのだった。
まず最初に仕掛けたのはカワちゃんだった。
「"変身"!」
そう叫んで、カワちゃんは一瞬で姿を変える。その様子を見た観客席の私たちからは思わず「おおっ!」という声が上がった。
カワちゃんの頭の上には、それまではなかった河童のシンボルマークである皿が現れていた。しかし、その皿は天使の輪っかのように頭の上に浮かんでいる。その姿は、羽の代わりに水掻きがあることを除けばまさしく天使そのものだった。
…ただ、いつの間にか衣装がスク水に変わっていることにはツッコミたい。ミニスカポリスといい、カワちゃんにはコスプレ趣味でもあるのだろうか?
するとその時、慌てた様子の晴明が"ご隠居"を抱えて厨房に飛び込んできた。そして即座に私たちに命令する。
「あいつら本気で戦うつもりだ!下手したらこの店が壊れる!舞は座敷わらしの二人を呼んで店を覆っている結界の強化と厨房に結界を張るよう頼んでくれ!鏡夜は俺と二人で"ご隠居"を落ち着かせるのを手伝う!ぬいとごんはその間二人の攻撃からなるべく店を守ってくれ!」
晴明の指示を受け、各々はすぐ動き出した。私もポップコーンの最後の一個を口の中へ慌てて放り込む。
「やっぱり大事になったやないか!?すぐ空と花呼んでくるで!」
そう言って座敷わらしたちを呼びに下へと戻る舞。そして、時間稼ぎを任されたぬいはなぜか目を輝かせていた。
「…ねえ晴明?アタシがあんたの友達倒しちゃっても文句言わないでよ?」
「まさかアリスを倒すつもりか?止めておいた方がいいぞ?あいつあんなんでも相当強いからな。」
「そう言われると…燃えてきちゃう☆」
ぬいはそう言って、晴明の制止も聞かずにアリスへと猛スピードで向かっていった。アリスが慌てて懐からなにかを取りだそうとする前に、ぬいが蹴りを放つ。
「この店は一応アタシたちのものでもあるんだから、壊させたりしないわ!」
(いくら魔女と言っても所詮生身の人間。なにか取りだそうとしてるみたいだけど、そんな暇与えないわよ?)
ぬいの蹴りがアリスの羽織っている黒いローブに炸裂する。しかし、その蹴りで吹き飛ばされたのはなぜかアリスではなくぬいの方だった。ぬいは、自分の蹴りの衝撃をそのまま返されたかのように吹き飛ばされ、厨房の壁に激突する。
「ハニー!!!」
倒れる妻に慌てて駆け寄るごん。そんな二人の方をちらりと見据え、アリスは高らかに笑いながらこう言った。
「オーホッホッホ!甘いわよワンコちゃん!私のローブにはこの天才魔女の私お手製の魔方陣を刺繍してあるの!効果は『物理攻撃の反射』!その他にも私は四種類の魔方陣を使えるわ!『静止の魔方陣』、『浮遊の魔方陣』、『転移の魔方陣』、あと一つは内緒よ!兎に角、人間だからって私を舐めないことね!私はロリショタを舐めるけども!物理的に!」
得意気に魔方陣の説明をするアリスを憎らしげに見つめるごんに、晴明が声をかける。
「おいごん!ぬいが傷つけられて怒るのは分かるが、ここは童児に任せて一旦引け!座敷わらしたちも来たし"ご隠居"もようやく落ち着いた!先にぬいを"ご隠居"に治療してもらうんだ!」
ごんは、一瞬迷うようにアリスと晴明を交互に見たあと、自分の攻撃をそのまま返されて苦しむぬいを見て、
「…分かった。」
と呟きぬいを抱えて厨房へと戻ってきた。怪我をしたぬいを"ご隠居"が早速治療し始める。
一方、その間にカワちゃんとアリスの戦闘はようやく始まっていた。懐から『静止の魔方陣』を取り出すアリス。しかし、その紙に書かれたその魔方陣は何故かすぐ湿って使えなくなってしまう。
「おや、どうしたんスか変態女?その魔方陣を使わないんスか?」
「…このオカマ河童め。私がさっきあのワンコちゃんの相手してる間にもう術使ってたのね。」
アリスの言う通り、カワちゃんは先程のぬいの攻撃の間に一つの術式を完成させていた。それは、大気中の水分量を大幅に増加させる技。この技によって、店の中はまるで霧が出ているかのように霞がかっていた。
「その名も『"節制の霧"、ガブリエル・ミスト』!」
「相変わらずダサい技名ね!じゃあこういうのはどうかしら?」
アリスはそう言うと懐からフラスコを取りだし、その中の液体を自分にぶっかける。
あれは確か…五感と筋力を上げる薬だったっけ?
私がそれに気づくのとほぼ同時に、アリスが視界から姿を消した。次の瞬間には、アリスはカワちゃんのすぐ近くまで迫っていた。
「喰らいなさい!『マジカル☆ボンバー』!」
アリスはそう叫び、カワちゃんにバックドロップをお見舞いする。カワちゃんは机に頭から叩き落とされ、ぐはっと呻き声を上げる。それと同時に、舞のツッコミが炸裂した。
「魔女魔法使えや!思いっきり物理攻撃やんけ!」
カワちゃんは呻き声こそ上げたもののすぐ立ち上がり、アリスと再び正面から向かい合った。口元に流れる血を舐め取り、かっと目を見開く。
「ぶっ殺す!」
カワちゃんの目はいつの間にか金色に光っている。その目を見た晴明が、あーあ、とため息をつく。
「ヤバイ。童児マジ切れした。"ご隠居"、"絶"の真名解放を許可する。死人が出そうになったら止めてくれ。」
「お、その名を使うのは久々じゃな。承知した。」
ぬいの治療を終えた"ご隠居"はどこか嬉しそうな声でそう言った。晴明の言葉から察するに、"絶"は"霊喰"と同じように"ご隠居"の真名の一つで恐らく戦闘形態と思われる。
てか、"ご隠居"って名前どんだけ持ってるのよ。あと、戦闘形態で喜ぶって、"ご隠居"って意外にバトルジャンキーなのかな?
私がそんなことを考えている間にも、二人の戦いはますます激しさを増していたのだった。
次回、戦いの続きと"絶"の登場です。




