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第四十五話:第一次ディベート大戦③

鏡夜、何気に有能です。反駁までいきませんでした。まあ、閻魔様とぶるぶるのせいですね。

うおおお!?なんだこれは!?さ、寒すぎて震えが止まらない!全くと言っていいほど歯の根が合わない!これじゃあ質疑どころじゃないよ!

突然襲ってきた強烈な寒気により口を開くことすらできない私の脳裏によぎったのは、店で晴明が語ってくれた対戦相手の妖怪たちの情報だった。

―ぶるぶるは、体内に潜り込むことで相手の体温を奪い凍死させることもできる―

晴明は確かそう語っていたはずだ。そして今、ぶるぶるは私の身体に潜り込みはしていないがおそらく何らかの方法で私の体温を下げているのではないだろうか。そう思い震える身体を必死で抑え込み隣のぶるぶるを見ると、ぶるぶるは先ほどの弱気な姿勢は何処へやら、勝ち誇った笑みをうっすらとその青白い顔に浮かべこちらを見おろしていた。

くそ!やっぱりこいつの仕業か!

このままでは何も話すことができずに時間切れとなってしまう。しかし、晴明にメンバーとして選ばれた以上そんな無様な真似は許されない。歯の根が合わないのがどうした!最悪舌を噛み切ることになったとしてもお前の立論に質疑をぶつけてやる!

「う、うおおお!」

私は、襲い来る強烈な寒気に負けじと、必死で声を張り上げた。その様子を見た隣のぶるぶるは、信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべる。その時だった。

「質疑中止!否定側サイドのぶるぶるに不正が見られる!もう一度初めからやり直すのだ!」

それまでじっとディベートを観戦していた閻魔様が突如立ち上がり、懐から手鏡のような物を取り出しながらそう宣告した。それと同時に、私を襲っていた強烈な寒気が消え、ぶるぶるが驚きの声をあげた。

「わ、私の術が消えた・・!?」

驚き故か寒さ故かわなわなと震えるぶるぶるに、閻魔様は得意げに手鏡を掲げてこう言った。

「ふん。余の前で術を使ってイカサマを働こうなど一億年早い!余の持つこの『浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)』はどんな隠し事でも見ぬく上に、妖術の類を無効化させる力も持つ。それが分かったら正々堂々とディベートをするのだ!もし次誰かが術を使えばその時点で術を使ったチームの負けとするぞ!」

閻魔様のその言葉に、ぶるぶるの元々青白い顔が真っ青になった。その様子を見て満足した閻魔様は、再び椅子へと腰かけ・・いや、いつの間にか閻魔様の椅子に座っていた舞の膝の上に座り、舞の胸に後頭部をうずめていた。舞さんあんた何やってんですか!?

「閻魔ちゃんカッコよかったで!流石閻魔大王は伊達じゃないっつーことやな!」

「フハハハ!そうであろうそうであろう!そう思うのであれば先ほどの飴をもう一つ寄越せ!」

「はいはい。ほい、飴ちゃんあげるで。・・なあ、うちやっぱ元の場所に戻ってええか?さっきから皆の視線が痛いんやけど・・。」

「わーい!飴なのだ!うまうま・・。ん?ああ、それなら心配はいらぬ。お前は余が頼んでここに座らせたのだからな!お前は良い枕にもなるし飴もくれる、最高の椅子だ!もっと誇るがよいぞ!ハッハッハ!」

・・どうやら、舞があそこに座っているのは閻魔様のせいらしい。閻魔様にはもう少し自由な行動は自重してもらいたいものだが、閻魔に自重を求める方が可笑しいかもしれない。

ともあれ、閻魔様のおかげでぶるぶるが何かやらかす心配がなくなったところで、もう一度質疑の開始である。閻魔様の「はじめ!」という声が聞こえると同時に、私はぶるぶるへの質疑を開始した。

「えー、じゃあ肯定側質疑始めていきます。まず、あなたは立論で人間に恨みを持つ妖怪がいると言っていましたが、具体的にはどれくらいの数いるのでしょうか?」

私の質問に対し、得意の術を封じられてしまったぶるぶるはすっかり弱気になり、はっきりとした返事を返してこなかった。

「え、えーっと、それは・・あのぅ・・・。」

「具体的な数は把握していない、そう捉えて問題ないですか?」

質疑に与えられている時間は短い。私はもたもたと答えるぶるぶるに対し、切り捨てるようにはっきりとそう尋ねた。

「え、あ、はい・・まあ、具体的にはなんとも・・」

「分かりました。それでは次の質問に移ります。人間が妖怪を実験体にするというような趣旨のことを述べていましたが、それは一部のマッドな人間についてのみの話であり、他の人間はそうではないと考えてもよろしいでしょうか?」

「え、えと・・そ、それはですね・・。」

「もう一度聞きます。人間が妖怪を実験体にするのは非常に稀有なケースの話である・・そう考えて問題はないですね?」

「い、いえ!そんなことはないです!」

「なぜそんなことが言えるのですか?現に貴女方は実験体になどされてはいませんよね?このトンネルに居て、おそらくそこそこの数の人間と顔を合わせているにも関わらず。」

「そ、それは・・人間に見つからないように姿を隠していたからで・・実際にちゃんと会った人間はアンタ達がほぼ初めてだし・・!」

「ほう。それでは、ろくに人間との関わりを持ったことがないにも関わらず、憶測だけでそのようなことを語っていたと・・そう考えてよろしいですね?」

「・・・・!」

私のその問いに、ぶるぶるは言葉を詰まらせる。自分では分からないが、おそらくこの時私の瞳はこの場においての勝利を確信しキラリと輝いていたに違いない。

「それでは、時間ですのでこれで肯定側質疑を終わります。ありがとうございました。」

「・・ありがとうございました。」

質疑が終了し、私が晴明たちの元へ帰る途中、私は閻魔様に呼び止められた。

「おい、そこのお前。ちょっと止まれ。」

「?何でしょうか。」

すると、閻魔様は何やら面白そうなものを見るような目でこちらを見つめた後、こんなことを言ってきた。

「ぶるぶるの術にはまってなお声を発したその気力、そして先ほどの質疑で見せた頭の良さ・・うむ。気に入った!お前がもし地獄に来ることになれば、余の下で働くことを許可しようではないか!」

そして、晴明の持っているものと同じような六文銭を渡してくれた。何でも、これを持っていると閻魔様の部下認定されるらしい。地獄に落ちるなんて縁起でもないな・・そう思いつつも、閻魔様の機嫌を損ねるのもあれなので、私は一応礼を言っておいた。

満足そうに胸を張る閻魔様の後ろでは、少し困ったような笑みを浮かべつつ舞がグーサインを送ってくれた。

次回は、いよいよ反駁パート。ただ、割とさらっと流す予定です。おそらくディベートはあと二回で終了します。

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