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第三十四話:再生と捕食

“ご隠居”の視線につられ、その闇の方を見た花の表情が、一瞬にして怒りと恐怖が入り混じったものに変わった。そして、かみ殺すような声でこう囁く。

「・・あいつだわ。」

「あいつって・・誰のこと?」

私がそう尋ねると、花の口からは信じがたい答えが返ってきた。

「あいつは・・あの時お爺ちゃんとお婆ちゃんを殺した強盗犯よ!二人を殺しておいて・・まだ殺したりないって言うわけ!?ふざけるんじゃないわよ!」

花は涙目になりながらその闇を睨み付けた。よく見ると、確かにその闇は人の顔をしていることが分かった。

「首に縄のような跡がある。おそらく自殺したのじゃろうな。じゃが、その後その魂の邪悪さ故に悪鬼となってしまった・・。」

悪鬼の様子を“ご隠居”が冷静にそう分析する。しかし、その分析に私はある疑問を抱いた。

「自殺って・・人を殺すような人が自殺なんかするんですか?ちょっと考えにくいんですけれど・・。」

私のその疑問に答えてくれたのは、“ご隠居”ではなくぬいだった。

「人を殺すような奴はね、心のどこかで自分を殺してほしいと思っているのよ。罪を重ねれば重ねるほど、人を殺せば殺すほどに見えない縄が自分の首を絞めていくの。その縄が見える時、それは台から飛び降りた時よ。」

ぬいは、どこか自嘲気味な笑みを浮かべつつそう言うと、“ご隠居”の横に来て再び構えをとる。その横にはもちろんごんもいる。

元柱固真(がんちゅうこしん)、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神おんみょうにしょうげんしん、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢(ごしんかいえい)、悪霊の魂を清め、健やかに成仏させたまえ・・。」

晴明は相変わらず一心不乱に唄い続けている。時折着ている狩衣の袖をはためかせながら、足で五芳星の形を描きつつ紡ぎだされる唄は、次第に勢いを増しているように聞こえた。ふとぬいたちによってボコボコにされ捨て置かれた怨霊たち・・悪鬼となった男によって殺された老夫婦を見ると、その身体からうっすらと光が上がり始めていた。私は、あっと思わず声を上げた。それは、これまで成仏させてきた幽霊たちが最期に見せた光と同じものだったからだ。

「本当に唄で成仏させられるんだ・・。」

私が感心して晴明を少し見直していると、

「おい、カナウ!舞を連れて少し離れてくれぬか?今から悪鬼と戦う故結界があるとはいえ万が一の事態がおこるのは避けたいのでな!」

そんなことを言われれば離れない理由はない。私は、急いで舞を連れて座敷童たちとこの場を離れるため、とりあえず舞を起こすことにした。

「おーい!舞さーん!」

・・返事はない。今度は耳元でもっと大きな声で呼びかけてみる。

「舞さーん!起きてくださーい!」

・・またしても返事はない。ただの屍のようだ。というわけで、最終手段に移る。身体を揺すって起こす!

しかし、あれだけ大声で呼びかけても起きなかった舞は、少し揺すっただけですぐに飛び起きた。

「うわ!びっくりした!ここどこや・・って、なんかさっきよりごっつ禍々しくなっとらんか!?」

流石霊感があるだけに、舞はすぐこの異常事態を察知した。私は、舞に早口で呼びかけた。

「舞さん!詳しくは後で話しますけど、今大ピンチです!逃げます!」

「ちょ、随分説明ふわっとしとらんか?とりあえず逃げるのは賛成やけど!・・あ。」

逃げると言ったにも関わらず舞はなかなか立ち上がろうとしない。そんな舞にしびれを切らし「どうしたんですか!?」と尋ねると、舞は半泣きで笑いながらこう言った。

「あ、あかん・・。なんか腰抜けてしまっとるみたいや・・。立てへんわ・・。」

・・そういうことならば、とるべき方法は一つである。

私は、腰が抜けて立てないという舞の身体を、救い上げるようにして抱きかかえた。そしてそのまま舞を持ち上げた状態で“ご隠居”達から離れる。所謂お姫様だっこ状態となってしまったことで、私の腕の中で舞が奇声を上げた。

「うひゃあああああ!!!?」

「あんまり大きな声出さないでくださいよ!結構きついんですから!」

「い、いや、うちのことを触れると思ってなかったもんやから、ちょっとビビってな。」

その舞の妙な言い方に、私は思わず眉をひそめた。

「舞さん、私のことを何だと思っているんですか?触れるに決まっているじゃないですか。困っている友達を触れないようでどうするんですか。」

「ま、まあそりゃそうやな。いや、ちょっといきなりでパニくっただけや。今のは忘れてくれえな。」

舞はそう言って照れくさそうな笑みを浮かべる。私の横では、少し悔しそうな顔をした空と、何故かため息をつく花とがぴったりと寄り添って走っている。

こうして私は、これから戦場となるであろう現場から避難することに成功したのであった。


▼▼▼▼▼


鏡夜達が離れたのを確認すると、“ご隠居”は改めて正面の悪鬼に視線を向けた。そして、横に立つ妖夫婦にこう呼びかける。

「今から儂が奴と戦う。最終目標は奴を喰うことじゃ。じゃからお前さんたちは儂が奴を喰いやすいようある程度弱らせる手伝いをしてくれ。」

すると、妖夫婦は揃って目を輝かせてこう答えた。

「もちろんよ。でも・・ある程度じゃなくて、アイツをぶっ殺すくらい全力でいかせてもらうわ☆」

「・・愚問。」

そして、まず最初にまたしてもぬいが動いた。ぬいは、今度は腕の毛を思いっきり逆立て、それを胸の前で交差させる構えをとった。そして、

「『狗神八徳拳、(こう)の構え』・・抜けば玉散る氷の刃、『村雨(むらさめ)』!!」

高らかにそう叫び、ぬいは目にも止まらぬ速さで悪鬼に近づくと交差させた腕を思いっきり振りぬいた。その瞬間、スパァン!という音と共に、悪鬼の右腕が切り落とされる。そして、見事な刀となったぬいの腕からは水が噴き出して、悪鬼の黒い返り血を綺麗に落としていた。

そんな妻に負けじと、ごんは天高く飛び上がり、ぬいが下がったことを確認してから眼下の悪鬼に向かって両手を突き出した。そして、再び高らかとこう叫んだ。

「・・俺の心に燃え盛る愛をくらえ!『愛の炎(LOVE・ファイヤー)』!!!」

ごんの両手から放たれた炎は悪鬼を包み込み、その身体を忽ち燃え上がらせた。

ぬいとごんの夫婦による圧倒的な攻撃。それを受け悪鬼は完全に沈黙したように思われた。ぬいに至っては既に勝利を確信しごんに手を振っている。ただ、“ご隠居”だけは未だ油断なく炎に包まれる悪鬼を見つめていた。

―そして、悪鬼がようやくその恐ろしさを見せ始めた。

ごんは、眼下の光景に唖然としていた。つい先ほど自分が放った炎。その炎を、悪鬼は次第にその身体の中に取り込んでいた。

(まずい!)

そうごんが思った時には、ごんに向かい悪鬼の黒い腕が伸ばされていた。

「ダーリン!」

夫のピンチに声をあげるぬい。とっさに腕を切り落とそうと近づいたが、目の前に先ほど切り落としたはずの悪鬼の右腕が伸ばされてきた。それを見て、ぬいは悪鬼に対する認識が甘かったことを思い知らされた。

(再生能力ですって・・!?人間の悪鬼もここまでの力を持つの!?)

とっさにその腕はかわしたが、空中のごんには既に無数の腕が伸ばされ逃げ場がない。ぬいは恐怖にかられ、必死に叫んだ。

「ダーリン、死なないで!!」

―その時、

『バクン!』

という音と共に、空中にいたはずのごんの身体がこちらへと引き寄せられるかのように飛んできた。獲物を失った腕たちは、互いにぶつかりあいその肉片を散らす。何が起こったか分からないぬいとごんの耳に、その鈴のように澄んだ声が聞こえてきた。

「やれやれ。どんな敵でも慢心をしてはいかんと日本海軍の敗戦から学ばなかったのか?主らは十分強いが、まだそこら辺は未熟じゃのう。」

“ご隠居”のその声と、ごんがいた方向に向けられた掌とそこにある口を見て、ぬいは“ご隠居”が何をしたのかを悟った。

(まさか、空気を喰ってダーリンをこちらに引き寄せた・・?そんなこともできるの?)

その技の見事さに茫然とするぬいに、“ご隠居”は一瞬だけ視線を向けるとこう言った。

「最初に言ったであろう?最終目標は奴を喰うことじゃと。悪鬼は基本的にかなりの再生力を持っているため肉弾戦で倒すのは困難じゃ。じゃからお主たちは儂のサポートをしろとな。」

(そんなの、ちゃんと言ってくれなきゃ分かるわけないじゃないの!)

ぬいはそう思ったが、夫を助けてもらった以上反論はできないので素直に頷いてサポートに回ることにした。

そして、“ご隠居”は改めて悪鬼と対峙する。悪鬼も、“ご隠居”を脅威と見たのかいきなり無数の腕を伸ばし襲い掛かってきた。

「こらこら、そう暴れるでない。儂は踊り食いはあまり好きじゃないのじゃ。」

“ご隠居”は、平然とそれらの腕を『バクン!』と一飲みにして一気に悪鬼の本体へと近づいて行く。そして、悪鬼の身体の下に潜り込むと、その細腕からは考えられないような馬鹿力で「どっせい!」と悪鬼を宙に投げ飛ばした。

「儂の胃袋の中に入るのじゃ。少しは光栄に思わぬか!」

そう言って、“ご隠居”は悪鬼を両手で殴りつけた。またしても『バクン!』という音と共に、悪鬼の体積がまた一段と小さくなる。“ご隠居”は、再生が追い付かない速度でその後も何度も空中で両手を振り回し捕食を繰り返し、ついに一口サイズとなったそれを両手でつまみ上げ、口の中に放り込んだ。

「―ご馳走様。」

バクン!

最後に一際大きな音が鳴り響き、とうとう悪鬼はその姿を完全に消失させたのだった。


次回で、長かった『座敷童編』は終了です。その次のことは・・まだ考えていないかな!

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