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第三十三話:VS怨霊

戦闘シーンは書いていて楽しいです。

しかしながら、私のその叫び声が届くより先に、既に動いている人物がいた。

「いきなり襲い掛かるなんて、行儀の悪い子ね。お姉さんがお仕置きしてあげる♡」

一心不乱に唄い続ける晴明を守るようにその前に立ちふさがったのはぬい。そして、彼女は迫ってくる怨霊を見据え、腰を低く落とし右手を前に突き出し左腕は頭の横に添える独特な構えをとった。そんなぬいの身体は、腕や足などに毛が生え始め、獣のような耳と尻尾までついた半獣の身体に一瞬で変化する。

「・・『狗神八徳拳(いぬがみはっとくけん)、"(てい)の構え”』、『八房(やつふさ)』!」

そう叫ぶと共に、目に見えぬほど速度で掌底(しょうてい)が放たれ、女の方の怨霊が吹き飛ばされた。

私は、その技名の渋さといいあまりのカッコよさに思わず「おお!」と歓声を上げていた。

しかも、私がぬいが掌底を放ったと気付いたのは、伸ばされた右手の掌が開かれ、そこからうっすらと煙が上がっているからだった。どんだけ早いんだよ!と思わずツッコミたくなる。そして、吹き飛ばされた怨霊は私から見て合計八回その吹き飛ばされる方向が変化させていた。それを見て、私は初めてぬいの『八房』という技名の意味を理解した。

あれは、高速で八回も掌底を叩き込んでいたのか!

しかし、まだ晴明のピンチは終わっていない。別の方向から、今度は男の方の怨霊が飛びかかってきた。その前に立ちふさがるのは・・ぬいの夫、ごんだった。

「・・俺の力は全て、この燃えるように熱きこの恋心!愛の炎が、この世の全てを焼き尽くす!」

そんな口上と共に、ごんの身体からは真っ赤な炎が沸き上がり始めた。ごんは、その炎を拳に収束させ、高らかにこう叫ぶ!

「・・燃え上がれ!俺のハニーへの愛!『愛の拳(LOVE・スマッシュ)!!!』」

燃え上がる拳は怨霊の顔面を捉え、彼は先ほどぬいが吹き飛ばした女の怨霊と同じ方向にその身体を燃やしながら吹き飛ばされていく。

・・えっと、確かに凄い技かもしれないけれど、どことなくダサい感じがするのはなんでだろう。それに、ごんさん急にはっちゃけすぎぃ!!何だよLOVE・スマッシュって!もっとぬいさんみたいにカッコいい技名なかったの!?

私が心の中で技名に文句を言っているとも知らずに、ごんは満足そうな表情を浮かべていた。そんな夫の横に、凛々しい表情のぬいが近づいてくる。二人は、顔を見合わせてにっと微笑むと、二人同時に怨霊の方を向いてこう言った。

「「アタシ達(俺達)夫婦に勝とうなんざ、百年早いぜ!」」

そう言って、ぬいは目を怪しく光らせて中指を立て、ごんはそんな妻を心底愛おしそうに見つめる。

「・・こいつは凄いものを見れたわ。狗神と九尾の戦闘なんてめったに見れないお宝映像よ。」

私の隣で感心したようにそう呟く花に、私は激しく首を縦に振って同意した。さっきのぬい達は冗談抜きで最高にカッコよかった。私は、怨霊に対し抱いていた恐怖も忘れるほど、格闘番組を大晦日に見た時の何倍も凄い興奮を感じていた。

「お、恐ろしいべ・・。おら、絶対あの姉ちゃんは怒らせないようにしねえと・・。」

空だけは、倒れている舞の横で白い顔でブルブルと震えていた。あの時ぬいに脅されたことがよっぽどトラウマなのだろう。このまま気絶者第二号が出るのではないかと心配するくらい真っ青だった。

そして、そんな激しい戦闘の合間にも、晴明は相変わらず唄い続けていた。時折音を強めたり弱めたりしながら、波のように唄はゆらゆらと続いて行く。そして、”ご隠居”はなぜかその後ろで仁王立ちして辺りを見回していた。その様子が気になり、私は空たちが張ってくれている結界の中から”ご隠居”に話しかけた。

「”ご隠居”は、そこで何をやっているんですか?ぬいさんとごんさんの手伝いしてあげなくていいんですか?」

私がそう尋ねると、”ご隠居”は再び怨霊達と戦闘を始めたぬい達をちらりと見てからこう答えた。

「あっちは儂が手助けせんでも大丈夫じゃろ。むしろ、晴明が唄で成仏させる前にうっかり消滅させてしまわないかの方が心配じゃ。」

私は、戦闘というよりはぬい達の一方的な暴力の的となっている怨霊達を見て、確かにそうだなと納得した。

「それに、儂が手を出すと霊を消滅させてしまうのでな。儂の今の姿の名は、”霊喰(ばく)”その名の通り霊を始めとしたあらゆるモノを喰う力を持っておる。」

「え?じゃあなんでその姿になったんですか?怨霊を喰うのがダメならその姿意味ないじゃないですか。」

何でも喰う力を持っているという言葉に少し恐怖を感じつつも、私はその感情を出さないようにしてそう尋ねた。すると、”ご隠居”から返ってきた答えは予想外のものだった。

「儂と晴明が恐れておるのは、怨霊ではない。怨霊自体はそこまで大したことはない。ただ・・晴明のあの唄は、とてつもない生命力を秘めたモノじゃ。その力は、霊を癒し、成仏させるが・・それ故、その力に惹かれ、必ず厄介なモノがやってくるのじゃ。」

”ご隠居”がそう言った時、隣に居た花が急に表情を変えて後ろを振り返った。その顔に焦りと恐怖が浮かんでいるのが見えて、私を底知れぬ不安が襲う。”ご隠居”は、「・・来おったな。」と呟き、目をすうっと細める。一心不乱に唄っている晴明の目線も、一瞬そちらに向けられた。怨霊を叩きのめしていたぬい達も、その手を止め、そちらの方を向く。そして、”ご隠居”がゆっくりとこう呟いた。

「・・未練を抱えて現世に留まった霊とも、恨みで現世に留まった怨霊とも、本質的に存在が違うモノが存在する。それが、『悪鬼』と呼ばれるモノ・・生前人を殺めることに何のためらいも見せぬような悪意の化身が死後もなおその悪意を失わないことで生まれた化け物・・。奴らは、”生”を餌にする。死してなお人を殺め、その肉を喰い、時折霊をも消滅させる。奴らにとって、大量の生のエネルギーを発する唄い手たる晴明は、最高のご馳走なのじゃ。」

その時、ドゴーン!!というもの凄い爆発音と共に、何者かが屋敷の中にとうとう足を踏み入れた。その瞬間、結界の中にいるはずの私の元にまで、禍々しい空気が伝わってきた。それは、先ほどの悪霊など比でもない、圧倒的な絶望と悪意が入り混じったオーラだった。屋敷の入り口から入ってきたそれは、漆黒の闇となってゆっくりと廊下をこちらに向かってくる。

「・・さあ、第二ラウンドの開始と言ったところじゃな。」

”ご隠居”の目線は、真っ直ぐとその闇に向けられていた。

次回、”ご隠居”の本格的な戦闘!VS悪鬼、お楽しみに!

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