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第三十二話:『唄い手』

正直めちゃくちゃ大変でした。

変身した”ご隠居”を見た皆の反応はそれぞれだった。

「わあ☆”ご隠居”ちゃんかっこいい~!」

「ホンマ一瞬誰かと思ったで!ごっつ恰好良くなっとるな!」

素直に”ご隠居”の変身した姿を褒めたたえる者。そして、

「・・・・・・。」

その力を見極めるかのように無言で”ご隠居”を見つめる者。

「パシャリ。」

「え!?姉ちゃんいつの間にスマホ持ってたんだべか!?それ写メってやつだべ?後でおらも撮ってみてえべ!」

・・うん、最後の二人は気にしなくていいや。

兎に角、皆様々な反応を見せていたが、私のように恐怖を感じている人はいなさそうだった。そもそも、姿が変わったとはいえそれは黒髪美幼女が白髪美幼女に変わっただけで、”ご隠居”の可愛さは全く損なわれていないし、むしろ凛々しさが加わってより美しくなっている。おそらくこんな感情を抱いてしまった私の方がおかしいのだろうということにして、先ほど感じた恐怖は忘れることにした。

・・あ?それともあまりに綺麗すぎてビビっちゃったのかも?うん、私ならそっちの方があり得そうだね。私が一人そんなことを考えているうちに、こちらもまたいつの間にか陰陽師っぽい衣装を纏い烏帽子を被った晴明が”ご隠居”と共に地下から上がろうとしていた。私たちもその後ろを慌てて追いかけていく。

そして、地下室から屋敷の中へと足を踏み入れた瞬間、私は思わず鼻を手で塞いだ。横を見ると、舞だけは同じように鼻をふさいでいるのが見える。舞は、それだけではなく込み上げてきたものを抑え込むように口を手で覆い「うっ!」と唸っていた。

・・屋敷の中に足を踏み入れた途端感じた臭い。それは、血の臭いと肉の腐ったような臭いが混じった独特の臭いだった。私は、これと同じ臭いを子供の時に嗅いだことがある。それは、車に牽かれて道路に置き去りにされていた烏の死骸から漂ってきた臭い・・・そう、これは『死の臭い』だ。

「・・もう既にここまで死臭が酷くなっているのか。怨霊は相当力をつけているな。」

眉をひそめてそう言う晴明は、臭いには慣れているのか鼻をつまんだりはしていない。そして、

「わあ☆この臭い久しぶりね~。昔やんちゃしていた頃を思い出すわ。」

「・・ハニーと最初に会った時、ハニーはこれより数倍は濃い死臭の中に居たな。今でもはっきりと覚えているぞ。」

後ろから聞こえてきた不穏な会話には耳を貸さない。と、その時私は隣を歩く舞が震えていることに気付いた。

「・・舞さん、大丈夫ですか?震えているみたいですけど・・。」

私がそう尋ねると、舞は泣き顔で弱弱しくこう呟いた。

「じ、実はな・・。うち、こういう怖い雰囲気めっちゃ苦手やねん。死臭とか・・もう、あかんわ。」

驚いたことに、舞は実は怖いモノが大の苦手だという。しかし、霊感があるというのに、怖いモノが苦手なんてことがあるのだろうか?私がそう尋ねると、

「普通の幽霊も最初は見えるのが怖かったんや・・。だから、何話とるか分かれば少しは怖くなくなるかな思って読唇術覚えて・・それで普通の幽霊は怖くなくなったんやけど、遊園地のお化け屋敷とかこういう禍々しい雰囲気とかは苦手やねん!だって理屈通じんし!」

舞は右手で口元を抑えながら青い顔でそう理由を話してくれた。確かに、舞の言うことは少し分かる気がする。得体の知れない、こちらの理解が全く届きそうにないモノ・・そういうモノに人間は恐怖する。それが自分に害を及ぼすかもしれないモノならなおさらだ。

だから、私は・・震える舞の左手を、そっと握りしめた。舞が感じてる恐怖が、少しでも和らぐように。しかし・・・

「ぎゃああああああ!!!!!??」

その瞬間、とんでもない悲鳴を上げる舞。どうやら、いきなり手を握ったせいでかなり驚かせてしまったらしい。なんと、舞はそのまま泡を吹いて白目を剥き倒れてしまった。

「ええええええ!?ご、ごめんなさいいい!!!」

慌てて謝るが、既に時遅し。舞は完全に気を失ってしまっている。

「あわわわわ!?舞、大丈夫だべか!?」

すぐ後ろにいた空が慌てて舞に駆け寄る。しかし、その瞬間、駆け寄る空の足音とは明らかに違う足音と共に、ぎいっと床が軋む音が聞こえたかと思うと、急激に温度が下がったように感じた。

「・・舞が気絶したのは良かったかもしれんのう。どうやら、ここの主が現れたようじゃ。」

晴明や”ご隠居”、そしてぬいやごんまでもが、真剣な眼差しで、屋敷の奥の闇を覗いている。そして、花が焦った声で早口で私に話しかけてくる。

「今、私と空でアンタ達だけは結界の中に守っているわ。貴方は、アレを見ない方がいい!」

しかし、その忠告は少し遅かった。私は、闇の中から姿を現したソレの姿を見てしまった。その瞬間、私の口からは声にならない悲鳴が上がった。

―その幽霊は、全身から血を流していた。そして、おそらく夫と思われる方の幽霊には・・首がなかった。そして、その首は、妻の霊の腕の中で恨みがましい表情をこちらに向けてきている。もちろん、妻の顔も同様に恐ろしいものだった。

「・・『怨霊』は、殺された時のそのままの姿で現れる。なんという惨い殺され方をされたんだ・・。」

晴明の悲痛な呟きが聞こえてきた。私はというと、あまりのその光景の惨さに吐き気が抑えられず、床に向かって思い切り嘔吐していた。

初めて生で見た『怨霊』・・それは、余りにも生々しい『死』の化身だった。

まるで生を憎むかのような表情でこちらへと歩いてくる『怨霊』達。それらを前にして、晴明は冷静に彼の後ろに立つ仲間たちに指示を出した。

「ぬいとごんは”ご隠居”のサポートに回って俺を全力で援護してくれ!そして、花と空は舞と鏡夜をそのまま結界を張って守ってくれ!」

「了解じゃ!」

晴明の指示を受け、即座に動く”ご隠居”。”ご隠居”は晴明の真後ろに立ち、それに続くように、ぬいとごんも晴明の横についた。

「安心して。貴方たちは私たちが守るわ。」

「舞には指一本触れさせねえべ!」

私の隣で、背中をさすりながら花が優しく、しかし力強くそう言ってくれる。空の声も力強く、頼もしい。

皆の準備が終わったのを確認すると、晴明は目の前の怨霊たちに語り掛け始めた。

「・・恨みにとらわれ、自我を失った哀れな霊よ。我の唄で、その魂を癒そう・・。」

―そして、晴明は唄い始めた。摺り足で地面に何かの模様を描きながら、晴明の口から出てくるその音一音一音が、(たま)のように光輝いているように私には感じられた。晴明が描く模様は五芳星。そして、呟き出される言葉は念仏のような不思議な抑揚と共に、『言霊』となり漂っていく。

―後から聞いた話だが、晴明は『唄い手』と呼ばれる特殊な力を持っているらしい。そして、唄い手の歌う唄、それだけが、『怨霊』を成仏させることのできる唯一の方法なのだ。

元柱固真(がんちゅうこしん)、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神おんみょうにしょうげんしん、害気を攘払(ゆずりはらい)し、四柱神(しちゅうしん)を鎮護し、五神開衢(ごしんかいえい)、悪霊の魂を清め、奇動霊光四隅(きどうれいこうしぐう)衝徹(しょうてつ)し、元柱固具(がんちゅうこしん)、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る・・思い出せ、清き御心。恨み忘れ、健やかに成仏したもう・・。」

晴明の紡ぎだす唄は、明らかに怨霊たちに影響を与えていた。言霊がぶつかる度に、怨霊たちは苦しそうに身をゆがめていた。その時、ふいに怨霊が晴明の唄を止めるかのように晴明に飛びかかってきて、私は思わず大声で叫び声を上げた。

「晴明!危ない!!」

次回、VS悪霊パート1です。

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