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ぼっちの就活日記  作者: 五条ダン
第四章~進路設計篇~
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プロスペクト理論――感応度逓減性

 感応度逓減性かんのうどていげんせいとは、利益や損失が参照点から離れて大きくなるにつれて、その利益(損失)一単位に対する満足感(不満度)が段々と減少してゆく性質のことをいう。


 例えば、100万円で買った株式が99万円に値下りしたとして、このときの(1万円損した!)感はとても辛い。そのあとさらに株価が95万円に値下がりして、このときの(5万円損した!)感はめちゃくちゃ辛い。


 しかし、株価が80万円、75万円と値下がりするにつれて、この損失感は軽減されてゆく。すでに20万円の含み損を抱えているときに、さらに株価が暴落して含み損が25万円に膨れ上がったとしても、一番最初の(5万円損した!)のときと比べたら全く悲しくないのだ。

 このあと75万円の株が70万円に値下りしたとしても(ははは、なーんだ、またか)といった感じである。



 これは借金にも当てはまる。クレジットカードのキャッシュ枠で、はじめは1万円借りるだけでもドキドキするものだが、10万円、20万円と額が大きくなるにつれて、このドキドキ感が麻痺してくる。プロスペクト理論による感応度逓減性があるからこそ、人は借金を雪だるま式に大きくしてゆき自己破産へと追い込まれる。



 これは利得に対しても同じで、例えばFX(外国為替証拠金取引)でも、最初は1,000円儲かっただけですごく嬉しいのだが、やがてこの感覚が麻痺してゆき、レバレッジをかけるようになり1万円、10万円、100万円、と目標額を増やしていく。人がどこまでも貪欲に利益を追い求め続けるのは、利益に対する感覚が慣れにより麻痺してしまうからだ。

 年収と共に比例関数的に幸福感が増えてゆけば良いのだが、幸せは逓減されてしまうがために高所得者の幸福度は意外と低かったりする。


 もうひとつ重要なのが、利得や損失に対する価値関数が、時間の経過により逓減されるという性質だ。



 例えば、『今すぐに貰える10,000円』と『1年後に貰える11,000円』とでは、今すぐに貰える1万円の方が嬉しいという人は多いだろう。利回りを考慮すると、後者の11,000円の方が明らかに得なのにこれは不思議な話だ。


 同じ1万円でも、現在の1万円と10年後の1万円では、後者の方が1万円の価値が50%くらい目減りしたような感覚がある。これが行動経済学でいう『時間割引率』である。


 クレジットカードのリボ払いにしても、ローンにしても、一括払いに比べると損なのは確かであるが、支払い時期が遠い将来に置かれることで負担感が逓減されお得に感じてしまうのだ。


 ある実験によれば、時間割引率の低い人は高収入で、時間割引率の高い人ほど低収入であるそうだ。


 これは当たり前といえば当たり前の結果だ。


 時間割引率が低い人は、将来に得られる価値が目減りしにくいので、将来の利益のために努力することができる。


 例えば、公認会計士になるために必要な勉強時間が5000時間とする。この時間に勉強をせずに時給850円のバイトをした場合、得られる金額は425万円だ。(学生時代に受験勉強をする場合)

 したがって公認会計士になるための機会損失は425万円であると仮定する。


 公認会計士になった場合、平均年収は713万円になるとする。一方、ふつうのサラリーマンになった場合、平均年収は409万円とする。

 仮に25歳から65歳まで働くとして、公認会計士なら生涯に得られる収入は2億8520万円、サラリーマンの場合は1億6360万円となる。


 以上より、公認会計士になることで得られる差額利益は1億2160万円と見積もることができる。



 一生懸命に勉強をすれば将来得られるであろう利益が1億2160万円。その勉強時間でバイトをすれば現在手に入るお金が425万円。


 つまり、経済合理的に考えた場合、5000時間の勉強で公認会計士試験に合格できる人は、受験勉強を頑張ったほうが得だ、ということができる。



 もちろん、ここでした計算は極論であり前提部分で間違っているところもあるかもしれないが、時間割引率の低い人はおおよそこのように考えて、将来のために努力する。ゆえに年収の高い職種につきやすい。



 一方、時間割引率の高い人たちは、将来の年収よりも今を優先させる。学生時代にバイトに明け暮れ、サークルや旅行、恋愛を楽しむタイプの人たちだ。これはこれで、生き方のひとつであるし、時間割引率が高いということは今を生きる幸福度が高いと換言することもできる。

(じゃあ学生時代、ぼっちでひきこもりのボクはいったい……)



 結局、10年後の1万円からどのような価値が割り引かれているかといえば、これは『将来の不確実性』(リスク)なのだ。


 一生懸命に勉強をしても司法試験に受からないかもしれないし、弁護士になったとしても年収が上がるとは限らない。

 年金を毎月納めても、将来は年金制度が破綻するかもしれないし、受給年齢に達する前に死んでしまうかもしれない。

 貯金をこつこつ貯めても、将来はハイパーインフレによりお金の価値が暴落するかもしれないし、国家破産により銀行から預金が引き出せなくなるかもしれない。



 このような将来の不確実性があるからこそ、必ずしも『働きアリ』タイプの人が成功するとは限らず、ときには生存競争において『キリギリス』タイプの人が得をすることもある。


 しかし、リターンを得るためにはリスクを取る必要があるように、『努力した者が成功するとは限らない』が『成功した者は皆、努力をしている』のだ。



 おや、なんだか自己啓発っぽい格好良い台詞で締めくくれたが、ボクが書くとすごく胡散臭く見えてしまう……。



 未来が予測できないことは、不安でもあり、希望でもある。


 就職活動を通して、ボクは希望の方に自分を賭けてみたいと思った。



 (続く)


 

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