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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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90/157

90.空白の名

帳場の朝は、紙を置く音だけがはっきり響く。


鍵束の控え板が一枚、机の上にある。

紐の結び目が新しい。

夜のうちに触った結びだ。


アークは札を三つ置いた。


《帳場》

《閲覧庫》

《鍵番》


ミラが控え板を引き寄せ、端を揃える。

紙を傷めないように、指の腹で押さえる。


「閲覧庫の記録、また入れ替えられています」


ミラが言った。


「今朝、窓口へ回る前の束が軽い」


軽い束ほど、よく回る。


よく回る紙ほど、正しさに見える。


「正しさが配られる前に、順番を崩す」


アークが言うと、ミラが頷く。


「崩すのは鍵番」


「鍵番の結び目」


リオが言った。


「結び目、昨日より硬い」


硬い結び目は、焦って締めた結びだ。


焦りは紙に負ける。


負けた焦りが、結び目に残る。


アークは札を一枚伏せた。


《門》


伏せるのは、まだ触らない印。


「門は札が落ちてから」


アークが言う。


「落とさせるために、外で折る」


外で折るために、受領拒否を増やす。


ミラが言った。


「窓口が詰まれば、通報札が後ろへ押されます」


「押された通報は、生活の声に負ける」


アークが答える。


「生活が勝てば、狩りは遅れる」


遅れた隙に、結び目を崩す。


崩れた結び目から、札が落ちる。


落ちた札が黒点なら、門は開く。


開いた門の向こうへ行くのは、そのあと。


今は、外側で順番を取る朝だ。

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