表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/157

76.旧記録庫の前でずらす朝

朝の役所裏は、表より先に人が動く。


窓口の札はまだ掛かっていない。

それでも奥棟へ続く廊下には、紙を抱えた手と、目を合わせない足がもう通る。


危ないのは、見つかることじゃない。

線を悟られることだ。


アークは石壁の陰で、旧記録庫へ入る脇口を見ていた。


白仮面は付けていない。

ここはまだ、足の段階だ。


ミラが半歩後ろにいる。

ミラは鼻で匂いを拾う。

封蝋の匂い。

紙粉の匂い。

油の匂い。


「……鍵番、来ます」


ミラが言った。


来たのは役所の男だ。

役所の腕章。

でも靴は制服の靴じゃない。


靴が違うのは、役所の男が“運ぶ側”じゃないからだ。

運ぶ側は別にいる。


男は脇口の前で一度だけ立ち止まり、鍵束を指で探る。

探り方が迷わない。

迷わないのは、順番を決めているからだ。


鍵束の中に、一つだけ紐が新しい鍵がある。

結び目が硬い。

昨夜触った結びだ。


男はその鍵を差し込み、回す。

脇口が開く。


開いた瞬間、紙の匂いが漏れた。

旧記録庫の匂い。


「……入れ替え」


ミラが息だけで言う。


入れ替えは、紙の仕事だ。

入れ替えた紙が、朝の正しさになる。


男は中へ入らない。

扉を開けただけで、すぐに脇へ退く。


代わりに、制服の靴の男が現れた。

細い踵。

同じ歩幅。

同じ靴跡。


制服の男は薄箱を抱えている。

薄箱は役所の箱だ。


だが箱の封蝋が新しい。

新しい封蝋は、閉じ直した封だ。


制服の男が脇口へ滑り込む。


滑り込むのに、振り向かない。

振り向かないのは、ここが日常だからだ。


日常の中の狩り。


アークは一歩だけ前へ出て、床を見る。

箱の角が擦れた粉。

紙粉と封蝋粉が混ざっている。


落ちた粉は、追える。


リオが影から溶けるように現れた。

息を切らしていない。


「制服、二人だ。交代で運んでる」


「交代すると癖が薄まる」


アークが言う。


「でも靴跡は残る」


ミラが脇口の鍵を見る。


「鍵番の紐、ここだけ新しい」


「新しい紐は、昨日の順番を殺す」


アークは言った。


「順番を殺すと、生活より通報が先になる」


ミラが頷く。


「だから鍵番を折る」


折るのは鍵じゃない。

結び目だ。


アークは制服の男が入った脇口の隙間を見た。


中の廊下に灯りが二つ多い。

夜番の灯りが残っている。


残っている灯りは、夜に紙が動いた証拠だ。


「……もう動いてる」


アークが言う。


「朝の前に、正しさを揃えに行ってる」


揃えた正しさで、通報を正当化する。


正当化された通報は、狩りを加速する。


アークはそこで踏み込まない。


踏み込めば門が閉じる。

門が閉じれば黒点が遠のく。


今は拾う。


拾うのは粉。

拾うのは足。

拾うのは結び目。


ミラが言う。


「脇口、閉まります」


鍵番の男が戻り、扉を閉める。

閉め方が丁寧だ。

丁寧な閉め方は、隠す閉め方だ。


アークは息を吐いた。


「……鍵番の順番、今夜崩す」


ミラが短く頷く。


リオが笑わない顔で言った。


「崩したら、札が落ちるな」


落ちた札を拾えば、門は開く。


開くのは次の順番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ