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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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116/157

116.白で受領

白で受領する、は命令じゃない。


合図だ。


誓約の扉が閉まったあとも、旧記録庫の空気は戻らなかった。

戻らない空気は、紙がまだ動いている空気だ。


ミラは床に落ちた「光」の紙片を、袖の内で確かめる。

破けやすい紙。

受領所の紙。


この紙がここにある、という事実だけで線が太い。


「白が必要だ」


ミラはリオにだけ聞こえる声で言った。


リオは頷かない。

頷くと音になる。


代わりに、親指で白い布切れを一度だけ示す。

白仮面を包む布だ。


白は、出せば閉じる。

閉じるのは門だけじゃない。


人の目も閉じる。


だから順番が要る。


ミラは扉の前の台を見る。

さっき沈めた台。

結び目は芯だけ崩したままだ。


芯だけ崩した結び目は、次に必ずほどける。

ほどけた瞬間が、受領の瞬間だ。


「受領するのは、物じゃない」


ミラが息だけで言う。


「順番」


リオが同じ息で返した。


順番を受領する。

つまり、こちらが“手続きを引き取る”。


それが白のやり方だ。


旧記録庫の奥で、紙が擦れる音が止まった。

止まった音の直後に、足音が一つ。


宰相府の腕章の男。

帳の手。


男は扉の前で立ち止まり、床を見る。

落としたはずの紙片がない。


ないことが、ある。


男の指が、台の上の札を撫でた。


《受領》

《代理》

《誓約》


その下に、薄い札。


《代》


男の指が《代》の端を押さえる。

押さえる癖。

押さえる癖は、貼り直しの癖だ。


ミラは一行で言う。


代は、責任の宛名。

だから、先に押さえる。


男は視線を上げない。

上げないのに、息が一拍だけ増えた。


焦り。


焦りは結び目へ出る。


男が台の下へ手を伸ばす。


結び目を締め直すためだ。


締め直す手が入った瞬間、リオが影の中で白い布切れを床へ落とした。


落としたのは故意だ。

故意に落とす白は、拾われる。


拾うのは、帳の手じゃない。


鍵番だ。


役所の腕章が現れ、反射で白を拾う。

拾った指が、白に一瞬だけ触れて止まる。


止まったのは、恐れじゃない。


知っているからだ。


白は“受領のやり方”だと。


鍵番は白を袖へ入れようとする。

その動きが、誓約の扉の前の空気を変えた。


帳の手が、初めて顔を上げる。


上げた目が、鍵番の袖を見る。


袖の内側に、白。


白が入った瞬間、責任がこちらへ寄る。

寄る前に、こちらが受領する。


ミラは柱の陰から半歩だけ出た。


影が濃くならない半歩。


そして、白仮面を包む布を――開かない。


開かずに、手に持ったまま言った。


「受領する」


声を張らない。

でも、扉の前の二人には届く。


受領は、札を渡す言葉じゃない。

順番を止める言葉だ。


鍵番の手が止まる。

帳の手の指も止まる。


止まった指の間で、台の芯がほどけた。


ほどけた結び目が、音もなく落ちる。


落ちたのは結び目だけじゃない。

台の上の《代》札の端が、ふわりと浮いた。


浮いた端の下から、一枚の薄い紙片が覗く。


「光」


ミラはその文字を、声にしない。

声にすると札になる。


代わりに、白い布を台の上へ置いた。


札の上じゃない。

欄の前だ。


欄の前に白を置くのが、白の受領。


帳の手の喉が動いた。


「……誰だ」


名を問う声。

名を問うのは、名で縛る世界だからだ。


ミラは答えない。


答える代わりに、白を一度だけ滑らせる。


白が滑ると、紙の山の一角が崩れた。

崩れた紙の間から、硬い札が落ちる。


黒い角。


黒点札。


落ちた札は、門を増やす札。

でも今は違う。


白の前に落ちた札は、証拠になる。


リオが足で拾う。

拾って、靴の内側へ滑らせる。


帳の手が動く。

誓約の扉へ手を伸ばす。


閉じた扉を、もう一度開けようとする。


開けば、代償が確定する。


確定させる前に、ミラは短く言った。


「白で受領した」


それだけで、順番が逆になる。


誓約の扉の前に、白が立った。


立ったのは仮面じゃない。

手続きだ。


帳の手の指が震え、鍵番の袖が白を手放した。


白が床へ落ちる。


落ちた白は、誰にも拾われない。


拾えない白は、もう“こちらの番”だ。


ミラは唇の内側で決める。


次は、誓約の扉の中身を盗む。


扉が閉じる前に。

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