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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
紙が先に走る

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11.削除の報せ

《白仮面》


私は胸の奥が冷える。


帳場の机に、紙が積まれている。積まれ方が綺麗すぎる。誰かが整えた。


整えるのは、見せるためだ。


「報せです」


声がした。男の声。宰相府の者だ。腕章の縫い目が新しい。


「誰の」


私は短く言う。仮面の下では、余計な言葉は削る。


男が紙を差し出す。


《削除通知》


削除。記録の削除。名前の削除。行き先の削除。


紙の上に、印が押されている。角の欠けた形。


私は指を動かさない。見て、比べて、順番を決める。


「対象は」


男が答える。


「北の線の閲覧記録です。閲覧庫の出入り、鍵の貸出、閲覧札の交付。すべて削除されました」


削除された。された、と言う。誰がしたかは書かない。


「条文は」


「緊急条項です。混乱を避けるため」


混乱回避。紙の決め台詞。


私は紙の端を押さえた。押さえるだけで、紙は私のものになる。紙はそういう順番を作る。


「削除の札は、誰が持ってきた」


男が少しだけ詰まる。


「宰相府の……上です」


上。いつも上。


私は机の上の札を見る。机の札は屋敷の中だけで使う。地図の代わりの配置札だ。


札の位置がずれている。誰かが触った。


「誰が触った」


男が言う。


「監査です」


監査で、札をずらす。わざとだ。誰かに見せた。


私は机の端の傷を見る。そこに、紙の跡がある。紙を置いて、持ち上げた跡。


「削除通知は、控えがあるか」


男が首を振る。


「控えは、作られていません」


作られていない。作らせなかった。


控えがないと、後で揉めたときに、こちらが負ける。


第2話で聞いた声が、頭の中で響く。


私は息を吐かない。吐けば、冷えが白くなる。


「削除されたものは、戻せるか」


男が答える。


「戻せません。削除です」


削除は、剣より強い。


消せば、なかったことになる。紙の世界では、なかったことが真実になる。


私は紙を机に置かなかった。持たない。持てば、私が受け取った順番になる。


「伝えろ」


私は男に言う。


「削除は、削除した者の痕を残す。印の窪みは消えない」


男の顔が揺れた。知らない顔だ。知らないふりかもしれない。


私は机の端の窪みを指でなぞった。


角の欠けた形。


セレナの札と同じ欠けだ。


「白い紙は、いつも真っ白じゃない」


私は誰にも聞こえない声で言った。


帳場の外で、紙が擦れる音がした。


誰かが、次の紙を持ってきている。


削除の次は、原因決めだ。


狩りが来る。


私は順番を取る。


紙になる前に止める。

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