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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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105/157

105.落ちる前

受領所の前は、狭いのに息が詰まる。


狭いから、肩がぶつかる。

肩がぶつかるから、怒りが出る。

怒りが出ると、紙が先に喋る。


台の上で、札が風にめくれた。


《遺留品》


その下に、薄い札が貼り重ねられている。


《確認不要》


確認を殺す札だ。

確認が死ぬと、原因が生きる。

原因が生きると、通報が走る。


台の横に腕章が二つ立っていた。

役所の腕章と、商会の腕章。

二つ揃うと、人は疑いをしまう。


列の中で、母親が子どもの肩を抱く。

子どもは台の札を見ている。


「これ、誰の?」


母親は答えない。

答えないことが、答えになる空気がある。

受領所の空気が、それだ。


ミラは列へ入らない。

柱の陰で、台の“周り”を見る。


見るのは箱じゃない。

箱を回す手。

札を置く指。

結び目を締め直す癖。


台の端に、紙片の束が置かれている。


《受領代理》


束の端が揃いすぎている。

揃いすぎた紙は、机の紙だ。


その束を、腕章のない男が指先で弾いていた。

一枚ずつ、軽く弾く。

弾いて、数える。


数える癖は帳面の癖だ。

帳面の癖があるなら、帳面がある。


リオが、ミラの肩越しに台の脚を見ている。

四本のうち一本だけ、木目が新しい。


新しい脚は軽い。

軽い脚は、負荷に弱い。


「……替えてる」


ミラが息だけで言うと、リオが目を細めた。


「折れる場所を作ってる」


折れる場所があると、責任を寄せられる。

寄せる責任は紙が好きだ。


腕章の男が声を上げる。


「受領代理で回す。確認は不要だ」


不要だ、は楽だ。

楽な言葉ほど、列は従う。


列の手が動く。

札を受け取る手。

畳む手。

握り潰す手。


握り潰す手は、特別を知っている手だ。


そのとき、風がもう一度吹いた。


《確認不要》の端が、ほんの少し剥がれた。


剥がれた隙間から、下の札の角が覗く。

黒い角。

黒点の色だ。


ミラは視線を上げずに、台の結び目を見る。


箱札を結ぶ紐。

結び目が固いのに、芯が甘い。

一度ほどけて、結び直した結び目の固さだ。


結び直しは、封蝋の閉じ直しと同じ匂いがする。

閉じ直したものは、正しく見える。

正しく見えるほど、狩りが速くなる。


リオが小さく言った。


「受領代理札、連番だ」


「連番?」


「一枚目から番号が続いてる。刷りたての束」


刷りたて。

つまり、上流の机が“いま動いている”。


腕章のない男の指が止まった。

止まった瞬間、男の踵が半歩引く。


逃げる足だ。

逃げる足は、巣へ戻る足。


リオが影へ溶ける。

足で拾うために。


ミラは台の上の《確認不要》を見たまま、呼吸を一度だけ止めた。


止めたのは怖いからじゃない。

「落ちる音」を聞くためだ。


剥がれた端が、さらに一息だけ浮く。


下の札が、今にも滑り落ちそうになる。


黒い角が、確かに見えた。


ミラは唇の内側で言った。


「……次で、落ちる」

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