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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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101/157

101.差し止めの板



窓口の板は、朝いちばんに札が増える。

札が増えるほど、人が黙る。

黙るほど、紙の言葉が強くなる。


アークは窓口へ行かなかった。

当主が立てば、指が集まる。

指が集まれば、狩りが始まる。


行くのはミラだ。

そして、リオだ。


ミラは木札を二枚、袖の内側に入れていた。

《照合要求》

《受領差止》

軽い札。だが窓口では重い。


窓口の前には列ができていた。

列は短い。だが、視線が鋭い。

掲示板の声が、ここまで届いている。


「監査が越権した」

「公爵家が裏で動いた」


噂は札より先に走る。

だから、札は噂のあとから追いかけてくる。


職員が窓を少しだけ開けた。


「次の方」


ミラは列の端に立つ。

前へ出ない。出れば押し返される。

押し返されれば、連行の順番ができる。


ミラは板の空きを見る。

昨日と同じ場所。

札を置くための余白。


リオがその横に立った。

軽い顔をしている。

軽い顔のまま、目だけが硬い。


「置く?」


「置く」


ミラは頷かない。

頷けば同意になる。

同意になれば、こちらの札になる。


ミラは木札の端だけを板に触れさせた。

音を立てない。

でも逃げない位置に置く。


《照合要求》


続けて、もう一枚。

少しだけずらして置く。重ねない。


《受領差止》


職員の目が止まった。

止まった目は、次に手を止める。


「……差し止め?」


職員の声が揺れる。

揺れは、紙が足りないときの揺れだ。


ミラは声を落とした。


「《出荷》の札の裏に《保護》がありました。番号の照合が終わるまで、受領を止めてください」


職員が息を吸う。

吸った息が、すぐ喉で止まる。


「……そんな札は」


「板にあります」


ミラは板を指ささない。

指させば、狩りの指と同じになる。

代わりに、職員の目線の先へ言葉を置く。


「この板は、順番を示すためにある」


職員が視線を落とし、帳面に手を伸ばした。


その瞬間、背後で紙が擦れる音がした。


宰相府の男が来た。

縫い目が新しい腕章。

走らない靴。


男は紙を一枚、板に置く。

字が揃いすぎている。墨が濃い。


《受領代理》


ミラは札を見ない。

札の角だけを見る。

欠けた角の印はない。

それでも強い。窓口の札だからだ。


宰相府の男が穏やかに言う。


「当該出荷は宰相府が受領します。混乱を避けるため」


ミラは答えない。

答えれば会話になり、名が生まれる。


代わりに、短く言う。


「照合」


職員が戸惑った顔でミラを見る。


「照合は、どこへ」


「農政」


ミラはそれ以上言わない。

言いすぎれば、道が紙になる。


宰相府の男が笑みを作った。


「照合は不要です」


不要。

不要と言えるのは、勝っている側だ。


リオが一歩だけ前へ出る。

笑いそうになって、笑わない。

軽く聞こえる声で、重い言葉を置く。


「不要なら、“不要”の条文を出して。板の順番で」


男の笑みが薄くなる。

薄くなるのは、紙が足りないときだ。


職員の手が帳面の上で止まった。

止まった手の横で、《受領差止》が風に揺れた。


ミラは、袖の内側の控えを指で押さえた。

番号を書いた控え。

そして、《保護》の一語。


これを読ませない。

これを渡さない。


職員が小さく言った。


「差し止め……受け付けます。照合の札をください」


宰相府の男が口を開く。


「その必要は――」


職員が言葉を続けた。


「板に置かれた順番です」


順番が取れた。

ほんの一歩だけ、こちらの順番が先になった。


そのとき、窓口の外で声が上がった。


「遺留品が出たぞ」


短い声。

短い声は札になる。


ミラの背中が冷える。

アークが言った通りだ。

次に来る紙は《遺留品》。


ミラは板の札を見た。

《受領差止》が、まだ揺れている。


揺れている間に、照合を終わらせる。

終わる前に、札を上から重ねられる。


ミラはリオにだけ聞こえる声で言った。


「北へ」


リオは頷かない。

頷かずに、足を動かした。

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