第69話:氷の大地産・冷やし焼き芋
「ツトム。アイリスへの愛してる発言と、アイラ様への口移しの件……まだ何一つ解決してないから。こちらのツトムに対する処罰は後でたっぷり申し伝えるわね」
ルカが氷点下の笑顔で告げる。
(私だって……私だって、愛してるとも言われてないし、口移しなんてされてないのに!ツトムのばぁぁぁぁか!!)
ルカの心の中の絶叫が、城内に木霊しているかのようだった。
「よし!ではやっていくか! ハル、シンシア、準備はいいか?」
「はぁい!」「わっちの出番でありんすね!」
「土魔法、『カルチ』!!」
ツトムが唱えると、分厚い氷がバリバリと剥がれ、豊かな土が顔を出した。そこへアイリスが鉄パイプを次々と放り投げる。パイプは空中で魔法のような軌道を描き、地面へ等間隔に深く突き刺さった。
「私の中級風魔法、『ウィンド』で運ぶわよ!」
ルカが超強化ビニールをふわふわと操り、パイプの骨組みに被せていく。そこへグライザが太陽の石制御ユニットを接続し、熱気を送り込んだ。
一瞬にして、極寒の地に春の温もりを湛えた簡易ハウスが完成した。
「『リージング』『マルチング』『グロウ』!!」
ツトムの呪文に、ハルとシンシアの魔力が共鳴する。マルチの隙間から、生命力に溢れた芽が勢いよく顔を出した。
「やはり二人がいると成長が早いな」
「えへへぇ、ツトム様のお役に立てて光栄ですわぁ」
さらにルカの水魔法の『ウォーター』とニーニャの『浄化の雨』が降り注ぐと、蔓は猛烈な勢いで伸び、土の中では丸々と太ったベニ・ハルーカが育っていった。
「さあ、収穫だ!」
そこへ、アイラが私兵を引き連れて現れた。
「ツトムよ、私の兵も手伝わせよう。この歴史的な瞬間に立ち会わせてくれ」
収穫されたばかりの芋を、グライザとアイリスが即席の釜で焼き上げる。
「アイラ様、これが出来たての焼き芋です」
「これが、氷の大地で育ったベニ・ハルーカか……」
アイラが一口齧る。その瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。
「おぉぉぉぉ!以前もらったものより、さらに甘いのではないか!?」
「精霊の加護と浄化の魔法を贅沢に使った土の影響でしょうね。ですがアイラ様、本番はここからです」
ツトムは不敵に微笑んだ。
「冷やし焼き芋を試していただきたい。焼き芋をアイラ様の氷魔法で凍結させ、それをハウスの熱でじっくり解凍するのです。これなら保存も利き、王都の新たな名産品として飢餓を救い、富をもたらします」
「やってみよう。中級氷魔法、『アイス』!!」
アイラの魔力で瞬時に凍結した芋を、ハウスの熱で戻す。完成した氷の大地産・冷やし焼き芋を一口食べたアイラは、見たこともないような興奮した顔になった。
「なんなんじゃ、これは……!美味しい、ツトム、美味しすぎるぞ!!」
「アイラ様、お肌がさらにツルスベになりましたね」
「本当じゃな……ツトム、お主は天才か。砂漠での私の何気ない一言から、これを思いつくとは……」
アイラは感激に震えていたが、ふと寂しげな表情を見せた。
「……行くのか?ツトムよ、私と共にここで暮らしてもよいのだぞ。皆も、だ」
女王からの直々の勧誘。だが、ツトムは優しく首を振った。
「嬉しいお誘いですが、行きます。まずは王都に戻り、国王陛下にこの成果を報告しなければなりませんから」
ツトムはニコリと笑い、新たな旅立ちを見据えた。




