第40話「視線」
「――おいおい、見たか!?」
「あぁ、めっちゃかわいい子いたぞ!」
「初めて見る顔だったよな、転校せいかな!?」
翌日の朝、廊下を歩いていると生徒たちが騒いでいる声が聞こえてきた。
もしかしなくても、話題の人物は村雲さんだろう。
これは……上条さんの機嫌が悪くなること、待ったなしだろうな……。
と、半ば覚悟を決めて教室に向かうと――村雲さんが、男女問わず囲まれていた。
「村雲さん、チャットの連絡先交換しないか!?」
「今日俺らカラオケ行こうと思っているんだけど、どうかな!?」
「いや、それよりもお昼一緒に食べようよ!」
男子は明らかに『かわいい女の子と仲良くしたい!』という欲望が丸見えで、この年頃の男子はどうしても、美少女となれば手のひら返しをする奴が出てくるよな……と、俺は苦笑をする。
女子たちも負けず、超絶かわいい村雲さんに興味津々で、男子たちと同じく連絡先を交換しようとしていたり、遊びに誘おうとしていたりした。
おかげで、上条さんが自身の席に座りながら『もう止めに入っていいですか? いいですよね?』と、凄い形相で俺に目だけで訴えかけてきていました。
よほどお気に入りの村雲さんを、周りに取られるのが面白くないらしい。
これでも我慢してくれているんだから、なんだかんだいい子だよなぁ……。
とはいえ、ほんと今にでもブチギレそうなので、さすがに見逃せない。
村雲さん自身も、あまりにも多くの人に声をかけられて、テンパっているようだし。
「はいはい、みんな席について。チャイムは鳴ったでしょ? ショートホームルームを始めるよ」
俺がそう呼びかけると、それはもう不満な顔と態度で席に戻っていく。
なんなら文句も言っているようだけど、相変わらず舐められてしまっている。
こうして、初めてクラス全員が揃ったのだけど、感慨深さを感じる余裕はなかった。
ショートホームルームが終わった後も、村雲さんは人気っぽくて――上条さんがキレそうになっているのは、言うまでもないだろう。
本来であれば上条さんはどこかで口出しをしていたはずなので、ここまでストレスを溜めてはいないはずだ。
特に、今まで小さな輪で過ごしてきた村雲さんは、こんな沢山の人に話しかけられた経験が少なく、いっぱいいっぱいになっているのだから。
面倒見のいい上条さんなら、やっぱりとっくに口を挟んでいると思う。
俺との約束を守ってのフラストレーションなので……うん、後が怖い。
でも、今だけは我慢してもらうしかなかった。
「「「…………」」」
教室を出てすぐのこと。
俺は三つの視線を体に感じる。
やっぱり、見に来たか……。
本来であれば、今までうまく隠してきたのだから、村雲さんが登校したとして、すぐには様子を窺いにこなかっただろう。
大方、村雲さんの容姿が変わって話題になっているから、我慢できずに来たという感じか。
特に、彼女の口からいつ自分たちの名前が洩れるかわからないし、これだけ注目されている状況なら、万が一もありえるだろう。
だが、視線は俺に向けられている。
村雲さんや村雲さんを取り巻く生徒たちではなく、俺の様子を窺っているのは――村雲さんが学校に来るようになった理由は俺であり、俺にだけは絶対に尻尾を掴まれてはいけないと思っているんだろう。
俺はあえて視線には気が付かないフリをし、授業のある教室を目指すのだった。








