めざせ中央会議場 2
翌朝、早い時間からトラヴィスたちは帰りの準備を始めた。
先発隊はユーリスと近衛騎士三名が残って進行しているが、転移陣は止まっている間しか広げていないので出発時間の前に帰らないといけないらしい。まぁ、それと言うのも助さんが一緒に転移してしまったため通信役がいないのだ。
私はシンティアの隣で楽しそうに荷物をまとめているリンネットに数日分の食事を渡し、アイテムボックスに入れさせる。
「リンちゃん、シンティアの言うことをよく聞いて、皆に迷惑をかけないようにね。」
「大丈夫。任せて!」
私は不安しか残らない返事をするリンネットに一つ大きく息を吐く。それを見てシンティアはにっこりとほほ笑んだ。
「リオーネ様、大丈夫ですよ。リンネットさんはとてもお強いですから。」
何がどう強いのかはあえて聞かなかったが、シンティアが大丈夫だと言うのならそっとしておこう。幸いトラヴィスから苦情を聞くことも無かったことだし、心配は尽きないけれど信じることも母の務めだ。
私は転移陣に魔力を流しながら大きく手を振るリンネットに手を振り返し、先発隊一行を見送った。
一仕事終えた後は自分たちの出発準備だ。荷物を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく中、格さんと佐平次が左右から迫ってきた。
「主、狩はいつ行くのだ?我らは試したいのだ。」
「試すって何を?」
「力だ!我らは主の魔力で成長したのだ。狩に行って自分の力を試したい。」
ーー試すも何も今までも無敵だったでしょうに……。
「そうねぇ。中央会議場までは転移陣で行けるし、遅刻するってことはないわよね。リゼルダさんどう思います?」
私は隣にいるリゼルダに問いかける。「そうだねぇ。」と寸の間考えたリゼルダはいつもの言葉を返してきた。
「いいんじゃないかい。みんなよく頑張っているんだから、ちょっとしたご褒美だよ。」
ーーなるほど、そういう考えはなかったな。
ご褒美と言えば肉だと思っていたが、希望を叶えてあげるのも一つの方法ではある。
ただ、このご褒美に目を輝かせたのは二頭だけではなかった。
「やったー!狩ですよ。楽しみですね。」
トーマが嬉しそうにはしゃぐ横でクラウスも笑顔で頷いていた。当然出発準備の手が早くなったのは言わずもがなである。
私たちは国境沿いの道を外れ、グレンドーラの森の中に入っていく。格さんがウォルフとリゼルダを乗せ、佐平次が私とマルセロを乗せて走る。大きくなったことで二人乗せても安定して走れるようになったのだ。そしてその後ろをクラウスとトーマが獣形で追ってくるのだが、気になるのは隣を並走しているエレインだ。
オロチになったオスロの頭上に胡坐をかいている姿はいつもと逆である。
「そんなかっこでよく落ちないね。」
「オスロは走るの上手だからほとんど揺れないんだよ。すごいでしょ。」
確かに、グレンドーラの森の巨大な岩や木々の間を滑らかに蛇行していて頭の位置は安定している。それに比べると、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように進んでいく佐平治に乗っている私は振り落とされないようにしがみついているのがやっとだった。
しばらく走ると佐平次の耳がピクピクと動き出す。
「なにかいるの?」
「音は聞こえぬが魔力は感じる。」
「左だね。二十キロぐらい先かな?」
私の質問に佐平治とエレインが答える。エレインはサーチスキルを使って距離を割り出したようだ。
「気配を消して距離を詰めるぞ。」
そう言って最初に加速したのはまさかのクラウスだった。
私は加速した佐平治に振り落とされないようにしがみつきギュッと目をつぶった。だが、いくらもいかないうちに佐平治は足を止めた。
「もう、着いたの?」
私がそう呟いて目を開けると、目の前に大きな瞳が迫っていた。
びっくりして体制を崩した私をマルセロが支えてくれたが、体制を崩したことで大きな瞳の上方にいるエレインが視界に入った。
「ボス。気配を消さないと気づかれちゃうじゃん。」
「そんなこと言ったって、どうやって消すのかわかんないよ。だいたい私は殺気を放っているわけでもないんだから気づかれるわけないでしょ。」
「殺気とか関係ないし。魔力が大きすぎてバレバレなんだって。」
魔力なんて減らせるものでもないのにどうしろというのか。ここにきてそんな無理難題を言われるとは思いもしなかった。
皆が集まってしばしの作戦会議をした後、私はここに置いてけぼりをくらうことになってしまった。リゼルダやマルセロも一緒に残ると思ったが、意外なことに二人とも狩を楽しみにしているようだ。
「何かあったらウルフたちを呼べば直ぐに戻る。」
ーー何かあってからでは間に合わないのでは?
私はそんなことを考えながらも黙って頷き、皆が目的地に向かって一斉に走り出すのを一人で見送ってから空を見上げて大きく伸びをした。
「さてさて、何をしようかな?」
どのぐらい待つのか予測できないので、転移陣を使って館に戻るのはやめておいた方がいいだろう。この場所でできることを探して私はアイテムボックスの中身を確認する。
「うーん。何もない。」
正確に言うとやれることはあっても、やっていいことが無い。置いて行かれた理由から考えると魔力を使ったら絶対に怒られる。そうなると何もできない。
「魔力を使わずにできることって……。寝る?いやいや、つい最近寝すぎたばっかりじゃん。」
いろいろ考えてみたが考えることすらめんどくさくなってきたので、私は鑑定スキルを使って周辺を散策してみることにした。
「鑑定。貴重な素材。」
この考えは正解だったらしく、多くはないが周囲にちらほらと矢印が見えた。私は一番近い矢印を目指して歩き出す。
最初に見つけたのはキノコだった。木の根元、雑草の陰に高さ三センチ程の小さなキノコが生えている。茎は爪楊枝ぐらい細くその上にちょこんと小さい傘が乗っている。色は赤いが形はエノキとそっくりだった。
ーーこれってどうやって採集すればいいの?ちぎる、引っこ抜く、うーん。わかんないや。
とりあえず土ごと持って帰ればなんとかなるだろうと、エノキもどきを周囲の土ごとくり抜いてアイテムボックスに放り込んだ。
ーーさてさて、お次は何かな。
私はそこから見える範囲の矢印を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいったが、正直興味のない物を集めても楽しくないのですぐに飽きてしまった。
ーー面白くない!マルセロさんの交渉材料にはなりそうだけど、喜びが足りない。ということで次は食材にしよう。
「鑑定食べられる物。」
私がそう呟くと、思いのほか多くの矢印が現れたことに驚いた。そして先程と同様にアイテムボックスに放り込んでいく。
「グレンドーラの森ってすごいな。お宝ザックザクだよ。」
一つずつ鑑定しているとなかなか進まないので、とにかく採集に集中する。中には本当に食べても大丈夫なのかと疑問に思う形状の物もあったが、鑑定スキルを信じて手当たり次第アイテムボックスに入れていった。
「まだかな、まだかな〜。採集も飽きてきたしそろそろ皆帰ってこないかなぁ。」
私がそう呟いたとき、後ろの方でガサガサっと物音がした。びっくりして振り返ると、木立の中から泥だらけの男が這い出てきた。
ーー何者?




