終局:人ゆえに
「人間のまま死なせてくれ、というのが遺言じゃなかったのか」
紫煙を吐き出したリーがソファの上に足をのせる。白い合成革に砂がついて、タケミは眉を寄せた。が、無意味だと知っているので文句は言わない。ただこれからの予定に部屋の掃除を組み込む。
「殺しただろう」
「そうだな。テメエが殺したし、死体廃棄は俺がやった。だが、脳みそいじって人格のバックアップとってたなんざ知らなかったぜ」
随分とせこいことをする。
リーは鋭い眼でタケミを見据えた。細長い体の上、おもちゃのように短銃をもてあそんでいる。その銃口を骨ばった背中にあわせる。
ライフルの点検をしているタケミは、わざとらしい挑発に乗らない。どんなときでもリーは心底で冷静だ。長年の友人に幻滅しているときでもそれは変わらないと知っている。
にあ、と高い音がした。リーに背を向け黙々と手をうごかしていたタケミが、途端はじかれたように顔をあげる。
真っ白の長い毛を持つ猫。本物より少しばかり大きいのがアニマルアンドロイドの特徴だ。人間であったときのデータを内蔵している“彼”は、なおさら。
強張った空気を追い出すように、猫は鳴いてタケミにすり寄る。ライフルに毛を落とすことなく、その背中だけに顔を押し付ける。
先ほどよりもよほど表情を消した友を眺めて、リーは汚い悪態を吐いて忌々しげに目を閉じた。