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アドレア・ストラーテンは怠惰に生きたい  作者: 如月あい
2章 アドレア・ストラーテンの迷い

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20.祈りと嫉妬と

 レオンがセントレア王立上級学校に入学してから三か月ほど経った。王立上級学校は全寮制の学校なため、さすがのレオンもアドレアに会いに来てはいない。

 王子自らが規律を乱しては、国民に示しがつかないからだ。

 その代わり、二週間に一度、手紙をよこすようになった。アドレアとしては面倒なことこの上ないが、さすがに王子の手紙に返事を書かないわけにもいかない。

 アドレアはしぶしぶ、手紙に返事を書くことにしていた。

 はじめは手紙を送ってくるのをやめるように書こうかと悩んだのだったが、ふと気づいたことがありアドレアはそれをやめて手紙からレオンの動向を探ることにした。

 何に気付いたのかといえば、それは、上級学校でのレオンの交友関係によっては、アドレアはお役御免になるのでは、ということだった。

 レオンとアドレアの婚約はよほどのことがなければ揺るがない。ただし、レオンが自ら撤回したくなれば話は別だ。アドレアの入学は二年後。この二年の間に、レオンが添い遂げたいと思う相手が見つかれば、アドレアとの婚約を解消するだろう。

 アドレアはその兆候を見逃さないために、そして、そうなったときはレオンがためらわらないように背中をおせるように、手紙のやりとりを真面目に続けることにしたのだ。

 しかし三か月たった今、レオンはいまだにほかの生徒の様子を手紙にしたためる様子はない。気になる女子生徒はおろか、友人ですらいないのではと思わせるそのそぶりに、アドレアは複雑な感情を抱えていた。

 アドレアの知るレオンは、自ら友人を作りに行くようなタイプではない。もともとアドレアを婚約者にしたのだって、女除けが目的だったぐらいだ。人間関係のわずらわしさを厭うところは、アドレアとレオンはよく似ている。だからレオンはおそらく積極的には友人を作らないだろう。

 そしてそれはアドレアの計画がうまくいかない要因でもある。友人すら作らぬレオンが、誰かほかの女子生徒を気に入って深入りするとは思えない。だから、アドレアは手紙を見ていつも落胆するのだ。

 同時に、安堵もする。

 国内に友人がいないのは自分だけではない、ということに。

 


 今日もそろそろレオンからの手紙が届く時間だ。アドレアは庭園の一角にある休憩スペースに座り、静かに本を読むことで手紙を待つ時間をつぶしていた。


「アドレア様。レオン殿下からお手紙が」

 

 侍女のサラがやってきて、アドレアに手紙を手渡し、一緒に持ってきていたインクとペンをテーブルの上に置いた。

 アドレアは本をテーブルの端に置くと、手紙を開けて中身を読んだ。

 中身を読み進めていくと、思わぬ文面を見つけて、アドレアは小さく息をのんだ。

「アドレア様? どうかされましたか?」

「……なんでもないわ。それより、疲れたから少し眠るわ。一人にしてちょうだい」

 サラは少し不満げな表情を見せたが、アドレアがひかないと悟ったのか、頭をさげて静かに去っていった。一人になったアドレアは、小さく息を吐きだしてもう一度手紙を読んだ。

 

---

 親愛なるアドレアへ

 最近はだんだんと日差しも長くなって、草葉の緑も濃くなってきたけれど、アドレアは元気に過ごしているかな。

 私もつつがなく過ごしているよ。

 学校での勉強はそこそこ興味深いことも多い。王子として最高峰の教育を受けてもなお、知らないことはこの世にたくさんあるのだと思い知らされているよ。

 とはいえ、アドレアは私以上に優秀だから、学校に入っても驚きはないかもしれないが。 

 そういえば、最近、隣国の王子、ルクレティオと親しくなったんだ。最初は距離を置こうと思ったんだけど、あっという間に間合いに入られてしまった。

 彼はなかなか興味深い人物で、粗暴な態度をとることもあるけれど、きっと何か考えがあってやっているんだろう。学校では唯一、友人といっていい存在だ。私たちがいつも一緒にいるものだから、ほかの生徒は私たちに声をかけづらいようだ。

 でも、正直そのことに救われている。彼もおそらくそうだろう。

 私たちはお互いを友と認識し、そしてお互いを利用しあっている。 

---

 

 アドレアはそこまで読んで、一度手紙を置いた。

「ルクレティオ……あのルクレティオ殿下よね。親しく……そう……」

 もし留学に来ていたのがルークのほうだったら、アドレアも入学の時に会えたのに。

 そんな思いがよぎったあと、フルフルと首を横に振った。もしルークが来ていたとしても、レオンの前では友人であることを隠さなければいけないだろう。どのみち他人のふりをしなければいけないのなら、初めから会わないほうがよい。

 しかし、そうは思っても、ルクレティオとレオンが親しくなったというのは、どこか面白くない。

 アドレアは小さくため息をついたあと、目に留まったカップを手にした。紅茶を口に運ぶと少しだけ気持ちが落ち着いた。アドレアの友人はルークなのだから、ルクレティオと親しくなったレオンに嫉妬してもしょうがない、そう自分に言い聞かせて、手紙の続きを読み始めた。


---

 さて、ルクレティオの話はここら辺にして、違う話題でも書こうかな。


 もうすぐ新入生歓迎パーティがある。

 セントレア王立上級学校での由緒ある行事だから欠席は許されないんだけれど、その慣習で一つ頭が痛い問題があるんだ。

 そこでは誰かとファーストダンスを踊る必要があるんだ。誰と踊るかで悩んでいる。婚約者がいるとはいえ、下手に選んだら余計な誤解を生みかねないからね。

 政治的にも問題を起こさず、心情的にも誤解を生まない相手を選ばなければいけない。

 私があともう一年遅く生まれて、アドレアがあと一年早く生まれていてくれれば、君と踊ることができたのに。

 そんなことを言っても仕方がないんだけれどね。

 でもそんな「もしも」を考えてしまうくらいには、アドレアに会いたいなと思っているよ。

 最近、暑い日も続いているから、体調には気を付けて。 では、また。

---


「新入生歓迎パーティでダンス……」

 レオンがパートナーに選ぶとしたらどんな人だろうか。願わくば、レオンがその人のことを気に入って、好きになってくれればいい。そうすれば、アドレアは婚約を破棄してもらえるだろう。

 レオンはどんな女の子を選ぶのだろうか。

 そんなことを考えながら、お茶に口をつけ、ソーサーにカップを戻す。

「あ……」

 すると、勢いよく戻しすぎたのか、あるいはぶつかりどころが悪かったのか、ソーサにおいてあったティースプーンがはねて地面へと落ちた。

 サラがいれば即座に拾ってくれただろうが、今はいない。

 アドレアはため息をついて、ティースプーンを拾うと、テーブルの上に置いた。

 そして休憩スペースの隅においてあるソファに横たわり、深いため息をついた。

「政治的にも、心情的にも問題ない相手……ね」




 それからしばらくして、新入生歓迎パーティも終わったころだった。

 レオンから手紙が届いた。

 アドレアはその手紙を受け取ったものの、しばし読めずにいた。部屋のデスクの上に置いて、放置していたのだ。

「お嬢様、手紙をなぜお読みにならないのですか?」

「気分じゃないの」

「そうおっしゃってからもう三日ですよ」

 サラが呆れたような声を出した。

「気晴らしに庭を散歩してくるわ。庭だからついてこなくていいわよ」

 なぜアドレアが手紙を開きたくないか、それはたぶん、レオンが誰を選んだかの答えを知りたくないからにほかならない。そして同時に、そんなことを考えている自分にもいら立っていた。

 アドレアが本気で婚約を破棄しようと思うなら、レオンが他の誰かを選ぶということは避けては通れない道だ。

 それなのに、いざ、レオンが他の人を選んだら、どことなく面白くないと思ってしまうのは何故だろうか。

 本当は、その答えをアドレアは承知している。認めたくないだけだ。

「お嬢様……せめてお手紙をお持ちになっては? 気が向くかもしれませんし……」

 サラがそっとデスクから手紙をとり、アドレアに向かって差し出してきた。普段は無理強いしない彼女だが、さすがに三日は長いと思っているのだろう。

「いいわ。持っていく」

 アドレアがそういって手紙を受け取ると、サラは安心したような表情を見せた。

「行ってくるわ」

 サラは今度こそ引き留めることもなく、アドレアはそのまま庭に出た。

 今日の天気は雲一つない快晴だ。ただ庭を歩くだけで、温かい太陽と、さわやかな風を感じることができた。

 しばしの間、何も考えずに庭を歩き回っていたアドレアだが、右手に握り締めた手紙の存在をふと思い出して、足を止めた。

 永遠に読まずに燃やしてしまうならともかくいつかは読むなら、今読もうが、後で読もうが結果は変わることはない。

「仕方ないわね……読むとしましょう」

 庭園の隅に置いてあったベンチに腰を掛けて、アドレアはついにレオンからの手紙の封を切った。


 そして、手紙を読んだアドレアは、読む前とは違った意味で、苛立ちを覚える羽目になる。


めちゃくちゃ期間があいてすみません……

のんびりですが完結まで投稿しますので応援してくれたらうれしいです。

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― 新着の感想 ―
とても好きなので気が向いたら続きが読みたいです
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