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読心上司は今日も悟らせない

2020.3.1

オチが閃かずボツ

 私、橘恭子はワ号製薬の……自分で言うのも何だがエリートである。


 そして独身でもある―――あ、独身はついでよ、つ い で♪




「おはようございます!」



 今日も出来る女をアッピールしながら定時の五分前に出社し、爽やかな笑顔と緊張感を職場に齎すのが私の最初の仕事。



「お、おおおおおおぉおおはようござごさござっござございなす!!!!」



 そしてたった今ガチガチに緊張感しながら直立不動の構えで挨拶?をしたのが新入社員の重光(しげみつ)吉城(よしき)君(23)である。


 吉城君は一浪の末に志望大に入学し、慣れぬ都会に悪戦苦闘しながらも大学に通い続けた苦労人である。


 しかしその見た目は冴えなく、学力も秀でて高いわけではない……どうにもこうにもパッとしない青年と言った印象なのだが、どう言う訳か人事部長がいたく気に入り呆気無く採用が決まった幸運の持ち主でもある。



『ひぇぇ……今日も挨拶トチッたよぉ!! ヤバッ!そう言えば頼まれていた書類今日の朝までだった……!!』



 ふ~む……頼んでおいた書類を忘れるとは社会人として滑り込みアウトだが、あの書類の最終期日はまだ先だからな……まぁいいか。



「吉城君」


「ひゃ! ひゃぁいい!!」



 完全に怯えた子猫みたいな吉城君。見ているだけで意地悪したくなるような顔だ。ちょっとゾクゾクしちゃうなぁ。



「例の書類、明日でもいいよ。入ったばかりで慣れない所頼んで悪かったね」


「えっ!? あぁ! いへ! 大夫丈じぇす!!」


(大夫丈?)



 私はペコペコと頭を下げる吉城君の頭をナデナデしたい衝動を抑えつつ、デスクへと着いた。



「さてと……」



 そしてパソコンを立ち上げメールを確認。昨日製造分のサンプルデータからチェックだ。PDFを開き事細かに項目を確認する。


 頬杖を突き、コンコンと指先で頬を突く。そして気になる点があれば速やかに現場に連絡だ。



  ──ガチャ



「はい、製造部野口です」


「あー、おはよう。橘だ。主任を頼む」


「はい、畏まりました」



  ──プッ



「はい、御電話変わりました宮下です。おはようございますチーフ」


「ああ、おはよう」



 私は努めて冷静な口調で挨拶を交わすが、私の周りでは何やら気配を察知したのか皆が大人しく仕事に勤しんでいる。特に吉城君は自分も怒られるかも!?と思っているのか特に穏やかでは無い。大丈夫、ちょっと叱るだけさ♪



「昨日製造分のサンプルデータだが……」


「!?」



 電話の向こうで受話器を握る主任の顔が強張るのが伝わる。まぁ、流石に電話越しじゃ心は読めないけど……



「0.1mol/l苛性ソーダのf(ファクター)のズレが前回と違いすぎないか?」


「……す、すみません」



 我がワ号製薬は化学薬品を製造するメーカーである。今でこそ大手に圧されてはいるが、昔は業界のトップを走っていたのだ。故に私は昔の栄光を取り戻すべく日々邁進している!



「お前、この数字見てゴーサイン出したのか?」



 お前と言う言葉遣いに、私の周りの空気が凍り付くのが感じ取れる。吉城君は真っ青になり今にも泡を吹いて倒れそうだ。可愛い……。



「……はい」


「これ見てユーザー様ビックリしないかな? 急にf(ファクター)減りすぎて適定量おかしくならないかな? んん? 何でこんなに薄いんだってならないかな?」


「……はい」



 でたよ、製造主任の壊れたレコード作戦。最早『はい』しか言わず反省の色は見る影も無い。一度直接会ってとっちめてやりたい気分だ!


「次は無いぞ? 何故なら我が社は大手に呑まれる寸前なんだからな?」


「……はい」



  ──ガチャ!



 少し乱雑に受話器を置き、ふぅ……とため息を大きくつく。やれやれ現場には困ったものだ。



  ──チラッ



 脇目をやると皆が視線を逸らし黙々と仕事に専念。お陰様で今日の今日まで独身道まっしぐらだ……



  ──チラッ



  ──ガタガタガダ……


『次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は僕だ次は―――』



 吉城君のペン握る手が震えて今にも倒れそうだ。仕方ない、気晴らしに外に誘うか……。



「吉城君」


「ヒィィィ!!!!」



 まるで死刑宣告でもされたかのように怯えて顔を潜める吉城君。ヤバッ、可愛すぎて尊いを通り越していとをかしありけりだわ。



「少し、良いかな?」


「…………」



 涙目で立ち上がる吉城君。クソッ、ココが会社じゃなければ今すぐにでも抱きしめたのに!!


『アババババ…………!!』


 既に心が壊れかけている吉城君。

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