憧れに惹かれて
2019.6
インド人とウニ企画用作品。
何か違う気がしてボツ
「お味噌汁 出来た」
エプロンを外し『紛れもなく奴と思われる孤独なシルエット』が描かれたTシャツを着た女性は、僕の目の前に座り手を合わせてご飯を食べ始めた。
「う~ん スパイシー♪」
スパイスがふんだんに効いた味噌汁は最早スープカレーではないのか? と思うほどに別物な味付けになっている。
アイラ 24歳
彼女は日本語学校に通う傍らレンタルDVD屋で働くうら若きインド人女性だ。和食とアニメに魅入られ日本へ移住を決めたとあって、毎日自分で和食を作っている。まあ、インドが中々抜けなくて何処かスパイシーな物が多いんだけどね……。
そんな彼女の食事を美味しく頬張る僕は、この部屋の住人でアイラは同棲人だ。僕のアパートに住むアイラは、家事全般をしてくれているのでとても助かっている。アニメや漫画関連のグッズや物が増えていくのに目を瞑れば、ね……。
朝ご飯を食べながらアニメのDVDを見るのが彼女の日課である。その為だけに買った大型テレビには『許されるはずもない Peace&Love』が流れている。だが、彼女の至福の時間は僕にとってはあまり興味は無い。僕はアニメや漫画といった娯楽はどうにも斜に構えた捉え方しか出来なくて素直に楽しめないのだ。
「……ごちそうさま」
静かに席を立ち上がり食器を下げて出掛ける支度を始める。朝9時出勤のお陰で朝は割とのんびり出来る為急ぐ必要も無い。
「行って来るよ」
しかしテレビは『男という名の物語』が佳境を迎えており、彼女は「ヒューッ!」と叫びながら興奮して僕の事など気にも止めていなかった……。
「…………」
僕は静かに扉を開け、一人寂しく会社へと向かった。
入社して5年目。通訳と翻訳の仕事で何とか食べるのには困らない位にはなってきた。最近は日本の漫画を外国に出す為に翻訳の仕事が舞い込む事が多い。独特な言葉遣いを現地の言葉に直すのには中々骨が折れる。
「おはようございます」
挨拶もそこそこに、会社のデスクへと座り込むと仕事のメールを確認した。
「…………インドか」
「どうしました先輩♪」
後ろから肩を揉まみながら肩越しに顔を覗かせる女性。甘い香水の匂いが僕の鼻をくすぐる。後輩の高島有紀子は社内のムードメーカーであり、愛嬌がとても良い。背が低くて可愛いので男受けは非常に良い。
「小説の翻訳の依頼なんだけど……インド方面で発売したいから『ヒンディー語』『英語』『ベンガル語』に翻訳してくれ……ってさ」
「先輩そっち方面出来るんでしたっけ?」
ニヤニヤと笑う後輩は小悪魔的な可愛さを見せている。思わず襲ってしまいたい衝動に駆られたが我慢だ……。
「僕には無理だ。これはそっち方面に詳しい人に回そう」
僕は社内の共有メールにこの仕事を放り込んだ。後は後のミーティングで担当が決まるだろう。
「先輩」
ふと後輩がこっそりと手渡した手書きのメモには『今夜お食事でもどうですか?』と可愛らしい文字で書かれていた。
「……考えておくよ」
僕は連れない返事を見せ仕事へと戻る。本当は内心ガッツポーズで小躍りでも踊りたいくらいだ!!
夜に後輩と海鮮で有名な居酒屋へと足を運んだ。仕事帰りの一杯は格別に旨い。




