草原の一刀
2019.6
一人の貧しい女性を巡って、金持ちと貧乏青年が決闘する話を書きたかった……そして飽きた
咲き乱れる草花は石通路を抜け風車の裏より遥か遠くまで続いている。
花を一つ手に取り芳しさに酔いしれると、彼女の手を取り朝の挨拶をする事にした。
「やあフランツェ! 今日も美しい君を見れて僕は最高に幸せ者さ!」
彼女は朝日より眩しく、風車を動かす吹き抜けの風よりも遥かに清々しい。きっと僕は彼女と結ばれるためにこの世に生を受け、きっと彼女は僕と結ばれるためにこの世に生を受けたに違いない!
「え、ええ……ありがとう…………じゃ、じゃあ……」
恥ずかしそうにそそくさと逃げる姿もまた一段と美しい!!
僕はまた一つ花を手と取ると、香りを確かめフランツェに捧げる。
「何をしている貧乏人!」
おっと、この場に最も似つかわしくない声がするぞ……。
「聞いているのか貧乏人!!」
「聞こえてるよロレント……」
その小太りの男は馬車から降りると、石通路を歩きフランツェの家の扉を図々しくも開け放った。彼はノックを知らない様だ……。
「フランツェ! 居るか!?」
「あっ、はい。ロレントさん、おはようございます」
「挨拶は結構。で、注文した物は出来ているか?」
「あ、はい。今お出し致します……」
おお! 何とフランツェの健気な事だろう……。嫌悪する事無く頼まれた仕事を熟すとは!
「ふむふむ、これなら良かろう……ほら今回の金だ」
「ありがとうございます」
「誰のお陰で仕事に有り付けるのか、くれぐれも忘れるなよ?」
ロレントは扉を閉めること無く堂々とフランツェの家から出ていった。揺れる腹に石をぶつけてやりたいくらいだぜ!!
「フランツェ……無理して奴から仕事を貰う必要なんか無いだろう」
「ダメよ。ロレントさんは他より多く報酬をくれる人よ。大切にしないと……」
「ロレントさんだと!? 俺は奴がフランツェに色目を使うのが我慢ならないんだ! さっきだって君の足や肩をジロジロと見てニヤニヤと汚い笑顔を零していたぞ!」
「……貴方には関係無いわ。さあ、帰って」




