満員電車
2019.6
気乗りせずボツ
「この人痴漢です!!」
野太い声と共に、手を挙げた汗塗れの小太りなオッサンが、満員電車の中で周りの視線を一身に集めている。
「ちげーし! やってねーよ!」
オッサンが握っている手の先には、小柄な女子高生が居た。
簡潔に状況を説明すると、普通とは逆のシチュエーションだ。どうやら痴漢したのは女子高生の方らしい……。
オッサンに手を捕まれたまま、女子高生は次の駅で降ろされた。
「この女! 俺に痴漢したんです!!」
「やってねーよ!」
いきなりの展開に、一番困ったのは駅員だろう。とりあえず警察を呼び何とかして貰うことに……。
当然駆け付けた警察官も困惑するわけで―――
「あの~……痴漢されたのは……?」
「俺だよ! 俺!!」
「で……痴漢したのは……?」
「そっちの女!!」
「だから! やってねーって言ってんだろオッサン!!」
「とりあえず、さ。個別に話を聞きましょうか……」
困り果てた警察官は応援を呼び、個別に話を聞くことにした。
「君、名前は?」
「アンドウユキ……」
「学校は?」
「私立痴漢高校……」
「ちょっと鞄の中を見せて貰ってもいいかな?」
「…………ほらよ」
警官が恐る恐る鞄の中を確認すると……中から出て来たのは数冊の本と写真が数点だけだった。
『How to 痴漢』
『オッサンに愛される方法』
『魅惑の加齢臭』
写真は汗ばんだオッサンの物ばかりで、警官は無言でそれを鞄に戻した。そして警官は暫く考え、とりあえず彼女を帰した。




