第七十五話
暫くすると二人は目を覚ました。ミュアンは、二人から腕輪を外す。
「もう少し説明してから行って欲しいんだけど……」
「説明はね、これからするわ。どうしてこの行為なのかをね。話す事は、かなり昔の話。文献の内容よ」
その言葉に、ミュアンの前に座る三人は驚いた顔をする。あんなに知らないと言っていた内容を自分から話すと言い出したからだ。
「次こそは本当の内容だよね?」
不安げにティモシーが聞くと、真剣な顔つきでミュアンが頷いた。その話は、皆の予想を上回る内容だった――。
その昔、世界は魔術師達で溢れていた。いや、魔術師ではない者などいなかった。魔術師の世界。薬師という職業など存在していなかった。
その時代は、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国の二カ国が勢力を持っていた。
そこに突如出現した『魔力』。それは、取り入れた者の魔術を使えなくした。そう魔力が練れなくなる魔力だったのだ!
二カ国だけではどうにも出来なく、魔法陣に強いチミキナスナ国に協力を仰いだ。その魔力を封印してもらう為だ。だが原因を探っていくうちに、それが発生した原因が、魔力の使いすぎではないかと判明する。つまりは、魔術師が増えすぎた。だとするならば、もし封印出来たとしても、また違う場所に新たに湧き出る可能性があった。
三カ国は話し合い、恐ろしい計画を立てた。それは、魔術師を減らす作戦だった!
自分たちの国に結界を張り、魔力が練れなくなる魔力を散布する。そして、その後魔力を封印する方法だった!
この作戦は世に知れてはならない作戦で、長いスパンで行わなくてはいけなかった。今の世代、次の世代、そしてその次の世代。それぐらい長い間魔術師がいなくなれば、封印した後にまた発生することはないだろうと考えた。
チミキナスナ国が、三カ国に国ほどの大きさの魔法陣を二種類描いた。一つは、国を覆う結界。もう一つは、百年後トライアングルを発動し魔力を封印する為のモノ。湧き出た魔力はちょうど三カ国の中央に位置していた。
魔法陣を描くにも時間が掛かる。その間に三カ国は、自給自足に備えた。作戦が実行されれば、国の外に出れなくなるからだ。かくして作戦は決行された!
だがその作戦直前にチミキナスナ国、いやサラスチニ国から提案があった。チミキナスナ国は小さな国だった為、魔法陣を描くのにサラスチニ国も覆う事になった。また、この国は、マジックアイテムを作るのに優れてた国だった為、チミキナスナはこっそりと隣国サラスチニ国に協力を要請していたのだった。
勿論それを二カ国が知ったのは、作戦決行直前だ。そして提案といいながら条件だった。だが内容はそんなに難しい事ではなかった。
文献などにこの件については残さない事――だった。特にサラスチニ国とチミキナスナ国の名は絶対に記さない事。そしてそれは、魔法陣に組み込まれているものだった。もしその国名を口にすれば、魔法陣が解除される『呪文』になっていた!
作戦自体、王族とそれに近い者しか知らない。口に出さない様に各々魔術で『チミキナスナ国』と『サラスチニ国』の単語を封じた。そして、万が一にでも次の世代の者が文献を読んで口にしないように、文献にも記載しないように忠告した。
三カ国いや四カ国は百年の間鎖国した。そして、その間に世界は様変わりしたのである。魔術師が消滅した時代が訪れたのだ!
トライアングルが発動し、封印が成功した後も、人々は魔術を使わなかった。いや使えない者ばかりで、次の世代になっても魔術師は生まれなかった。
そして、その百年の間に新しい文明が誕生していた。それが薬師だった。魔術と違い攻撃的なものではなく、治癒的なものだった。そして魔術を使えなくなった者だちは、魔術を使える者を恐れる様になった。
サラスチニ国の企みは成功した。文献に名を残さずのちに世界大国になる道を作ったのだった――。
「これが文献の内容よ」
話し終えたミュアンがそう言うが、誰も何も言わない。話に頭が追い付かなかった。
「今この世界に魔術師がいないのは、我々の国の仕業だという事ですか?」
やっとレオナールが口を開いた。
「そうなりますね。放置していた場合、どうなったかはわかりませんが、いずれ同じ結果になったかも知れませんし、魔術師がある程度減って魔力が湧き出るのが止まっていたかもれしまれせん。ただ言えるのは、私の国を含め四カ国が行った作戦が成功したという事ですね」
この話を皆の前で出来るはずもなかった。四カ国以外は、被害者になる。それに聞かされた所で信じられる話でもない。ただ、トライアングルを使ったとなれば、この為に作られた結界なのかもしれないという事だ。
そして、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国にちゃんとした文献がないのもしっくりくる。百年だと当事者が生き残っていない。万が一口にすればトライアングルを発動する前に結界が解除される。
こうして真相を知るのがチミキナスナ国とサラスチニ国の二カ国となった。
「もしかして、私が掛けられた液体は、その文献に出て来る魔力に関係しているのでしょうか?」
「へえ、掛けられたんだ。俺は飲まされていた……」
「そうですね。多分、魔力を水に混ぜる事に成功したのでしょう」
ミュアンの言葉にレオナールは青ざめる。
「そんな事に成功しているとなると、魔術師の組織が普通の者を魔術師にしたとしても、自分の意思にそぐわなければその水で元の普通の者に戻せるという事ですね!」
そしてそれは、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国も従わなければ、普通の人間にされてしまう事を意味している。
「何? 俺の実験ってそれ?」
「そこなのよね……」
チラッとミュアンは、エイブを見た。
「そこって?」
ティモシーがミュアンに問う。
「それが出来上がっているのなら、ヴィルターヌ帝国に使っていても不思議はないと思うのだけど……」
「それもそうですね」
レオナールが相槌を打つ。
「じゃ、俺の実験ってトンマーゾさんの個人的な実験?」
「かもしれませんね……。それか、初めて成功した例なのかもしれません」
なるほどとエイブは頷く。
「あのコーデリアさんの事はご存知ですか? 多分ですが、私の場合は彼女の仕業だと思われます。まあ、魔術師の組織と繋がっている可能性はありますが……」
「組織と繋がっている可能性はないわね」
きっぱりとミュアンは言った。
「彼女が私の知っているコーデリアさんなら、私と同じ追われる身ですからね」
ミュアンが驚く発言を口にしたのだった!




