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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第十一章 彼らの選択

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第五十九話

 グスターファスとミュアンは一人掛けのソファーに座り向かい合っていた。

 「ミュアンさん。私はあなたもティモシーも薬師として素晴らしい腕を持っていると思っております。ティモシーは、あの年であの技術。私は将来を楽しみにしているのです。そしてあなたもです。あなたがオズマンドと結婚すると聞いた時は驚きました。彼は女気がなかったからです。その彼が、あなたの願いだからと王宮警備兵を辞め、村の巡警兵になったのは本当に驚いた」

 「優秀な彼を辞めさせた事は謝ります……」

 「いやいや、そんな事を言っているのではない。本音を言うと、このままあの村で医者をしてほしいのだ。」

 グスターファスは、先ほどとは違い俯いて話を聞いているミュアンを見つめ言った。

 「彼は本当に君が大事なんだろう。私もだ。あなた達もレオナール殿も大事な薬師なのです」

 「彼は薬師なのですか? 確かに前にお会いした時は制服を着ていましたが……」

 グスターファスは頷く。

 「正真正銘の王宮専属薬師です。彼の実力で入りました」

 ミュアンは驚いた顔をする。

 「ご存知かどうかわかりませんが、私の妻は五年前病気でなくなりました。薬師の国の王妃なのに助ける事が出来なかった。私は今でも、自分の不甲斐なさを悔やんでいます。その時、私だけではなく、彼らも尽力を尽くしてくれた」

 「それって、あの王子の事ですか?」

 頷くとグスターファスは何故か、レオナールの身の上話を始めるのだった――。



 レオナールは生まれつき体が弱かった。そこでハルフォード国王の命令でブラッドリーは二十二年前、彼が二十歳の時に薬師になり、そして七年後にはエクランド国の王宮専属薬師になった。それからは、ずっとエクランド国にいた。

 ブラッドリーは、専属薬師になって直ぐにマイスターの資格を取得し、医者の免許を取った。

 その時、レオナールは薬師の試験を受けていた。勿論一発合格である。

 ブラッドリーはある日、王妃にと薬を調合してくれた。それは今までで一番効果があった。エクランド国でも知られていない薬草を調合しているようで、その出所を聞いてもどうしても教えてはくれなかった。

 そして、ある日レオナールは二十歳という若さで王宮専属薬師になった。しかしレオという偽名を使っていた。後見人がブラッドリーだった為、もしやと思い問い詰めると第一王子だったのである。しかも、国王に内緒で受けていたのだ。

 レオナールは、薬師になるのさえ反対されていた為だった。自分の事は自分で何とかしたい。その一心で励んできたのだ。

 グスターファスはレオナールと国王の間を取り持ち、彼を認めさせることに成功する。そしてその時に、実はレオナールとブラッドリーは、ハルフォード国で薬草の研究をしている事を知った。マイスターでないものが行うのは禁止されている。

 レオナールの病気の為、そしてエクランド国の王妃の為であった。グスターファスはダメだと思いつつ、目を瞑る事にした。自分には出来ない事を彼らはやってくれていたのだ。

 王妃は、残念ながら五年前この世を去ったが、その時に王妃の提案で協定を二国の間で結んだのである――。



 ミュアンは、グスターファスの語りを静かに聞いていた。

 「今回、彼が魔術師の組織を追っているのは、私が彼に依頼したからなのです。彼は快く受けてくれました。ですので、この件に関して言いたい事があれば、私に述べてほしいのです」

 「そうでしたか……では、述べさせて頂きます」

 そう言って見つめるミュアンの瞳は強い意思を見て取れた。

 「私は魔術師の組織に追われている身ですが、殺そうと追っ手を寄こすのは、ハルフォード国とヴィルターヌ帝国でしょう。確かにあの王子にはその意思はないようですが、国王は違うと思います。ですので、両国の関係を保ちたいのであれば、もう私達には係わらないで下さい」

 その言葉にグスターファスは、言葉が出なかった。彼女は嘘は言っていないと感じたからだ。

 グスターファスは一呼吸おいて話し出す。

 「その忠告はありがたいが、魔術師の組織の情報は私としてはほしいのです。イリステーナ皇女も命がけで助けを求めて来た。せめて、彼らの目的を知っているなら教えてほしい」

 「私が逃げだのは、実は殺されそうになったからなのです。勿論、文献も悪用されるとわかっていたから持ち出しました。魔術師の組織の狙いは、邪なるモノの封印を解く事でしょう。その為には、私が必要と気が付いたのです。ですのでそれを阻止するには、私達を殺すのが手っ取り早いのです。二国が、魔術師の組織の狙いに気づけばきっと、私とティモシーの命を狙うでしょう。それだけで、防げるのですから……」

 本当の話だとしても信じられないとグスターファスはジッと彼女を見つめた。

 「その話が本当なら、私はあなた達を保護します。薬師であるあなた達を守るのは当然の権利です」

 「協定があったとしても戦争になるかもしれませんよ? 二国にとってはそれほど重要な事なのですから……」

 「そこまで重要な事だと知りながら何故話して下さらないのですか! 一個人でどうこう出来る問題でもないでしょう? それとも魔術師ではない私達では、お役に立てませんか!」

 グスターファスは、今までは優しく語りかけていたが、つい強い口調になってしまった。

 「そうですね。陛下が魔術師の組織を止められると言うのであれば、何とかなるか知れません。ですが、実際には不可能に近いでしょう。それにこれは私の推論です。もしかしたら魔術師の組織の狙いは別にあるかも知れません。ですが、ヴィルターヌ帝国の皇帝を拉致したのなら、私の推論は残念ながら当たっているでしょう」

 「彼らの目的を阻止するのには、それしか方法がないのですか?」

 ミュアンは俯く。

 「先ほども言った通り、それが一番手っ取り早いのです。そして、二国は自分たちの安全も確保できる」

 グスターファスは首を横に振った。

 「それだけでは私にはわかりかねる。あなたが推察した全てを教えてほしい」

 今度はミュアンが首を横に振った。

 「それを知れば、あなたも背負う事になってしまいます。できません!」

 ミュアンが頑なに言わないのは自分の為ではなく、グスターファス、いやエクランド国の為だった。

 「そこまで考えて下さっておりましたか。ありがとう。ですが、あなたはあなた方の事を考えて欲しいのです。この国の事は私が責任を持ちます。どうでしょう。今日一日考えてみては頂けませんか? ティモシーと一晩親子水いらずで泊まってはどうでしょうか?」

 「………」

 と、その時ドアがノックされた。

 「陛下。レオナールです」

 グスターファスは立ち上がり、ドアを開けた。

 「お話し中、申し訳ありません。その……私は一度国に戻ります。父上から戻れと手紙も入っていたのです。……お役に立てず申し訳ありません」

 レオナールはいつもより元気なく言うと、深々と頭を下げた。

 「いや、十分助かった」

 「先ほどはきつい事を言って悪かったわ。でも手を引いて下さい。それがあなたの為なのです」

 ミュアンはレオナールに近づき、顔を上げた彼をジッと見つめて言った。

 「私の為ですか……」

 ミュアンは頷く。

 「あなたは、頭は切れるのですが誠実すぎます」

 「何故でしょうか。褒められている気がしません……」

 「褒めている訳ではありませんので。長所でもあり短所でもあると言っているのです」

 「心しておきます。では、失礼します」

 レオナールは軽く会釈すると、自分の部屋に向かって行った。

 「彼はもう、ここには戻って来れないかもしれませんね。きっとハルフォード国にも魔術師の組織は接触を図っているはずです。私達を渡せと言って来るかもしれませんよ? それでも私達を泊めますか?」

 ミュアンの言葉に、グスターファスは勿論と頷いた。

 「そこまで言うのなら泊まらせて頂きます。部屋はティモシーが今使っている部屋で宜しいです」

 「是非、二人で話し合ってほしい」

 そうグスターファスはミュアンに言った。

 その後ほどなくして、レオナールとブラッドリーは、エクランド国を出発した。ブラッドリーは、レオナールの体調を気遣い明日にしてはと言ったが、今日中に出発するようにと国王の命令だと馬車を走らせた。

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